019.伊勢 「難波潟 みじかき芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや」
はーい、じゃあ次は伊勢さーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
うーん、なんて言えばいいかしら、アナタには男を惹きつけるような独特のオーラが感じられるわね。
そんなに可愛いってほど顔がいい訳でも無いし、スタイル抜群でおっぱいが大きいようにも見えないのに不思議だわ。
アナタ、もしかして異性にモテモテなんじゃない?
伊勢だけに。
なんてね。
ちょっと手のひらを出してくれる?
アタシ、趣味でよく人の手相を観たりしてるのよね。
あー、なるほどね。
アナタには「淫乱の相」がはっきり出ているわ。
ほら、この手の中にある皺をよく見てごらんなさい。
ここが「イ」に見えるでしょ? で、これが「ン」。
それからここに「ラ」があって、ほら、ここも皺が「ン」の形になってるわ。
え? 手相ってそんなものじゃない?
うるせーな、この淫乱娘が。
どうせ陰で援交でもしてんだろ。
……え? 何のこと?
アタシは何も言ってないわよ?
ところで一応、アナタのお父さんの名前を聞いていいかしら?
え? お父さんは藤原継蔭っていうの?
だぁれ、それ。
やっぱり聞いたことないわね。
っていうか、どうせ聞いても分からないんだったら、最初から聞くなよって話よね。
でもアタシは一応、聞いておきたくなっちゃうのよ。
どうせ当たらないと分かってても、ついつい宝くじを買っちゃうようなものかしら。
それに、もしも有名人だったらさすがにアタシも知ってるだろうしさ。
まぁでも、次からは違うパターンも考えた方がいいかも知れないわね。
アタシも何だかこの展開は飽きてきちゃったわ。
……え? こっちの話よ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
難波潟 みじかき芦の ふしの間も
逢はでこの世を 過ぐしてよとや
なぁに、これ。
「難波」は大阪のことよね。
「なんばグランド花月」なんて演芸ホールがあるものね。
え? 「なんば」じゃなくて「なにわ」って読むの?
そういえば、「なにわ金融道」ってマンガがあったわね。
でも「なにわ」って、浪花とか浪速とか、いろんな書き方があるのよね。
演歌にも「浪花節だよ人生は」っていうのがあったわね。
たしか、細川たかしが歌っていたはずよ。
……って、キミが知ってるわけ無いわね。
ところで「潟」って何?
新潟とか、八郎潟って聞くことはあるけど、「潟」の意味を知らないのよね。
え? 「潟」は潮が引いた時に干潟になる遠浅の海の事なの?
へー、勉強になるわね。
「みじかき芦の」は「短い芦の」という意味ね。
芦ってのは、よく川辺に茂ってる草のことだったわよね。
もしも「みじかき足の」だったら、それは短足ね。
ブタの足なら豚足だわ。
ブタの短い足なら、短足の豚足ね。
ちょっと何言ってるのか、自分でも分からないわ。
ちなみに学校行事でみんなで行くのは遠足よ。
え? 分かったわよ。
もうこのくらいにしておくわね。
次の「ふしの間も」も簡単ね。
「ふし」は「節」のことだから、区切りを表す言葉のはずよ。
「逢はで」って何?
「泡で」ってこと?
ちょっとー。
いったい泡で何をしようとしているのかしら?
もしかして、趣味と実益を兼ねて泡の国で働いてたりするんじゃないでしょうね。
誤魔化そうとしたって、アタシには全部お見通しよ?
アタシを甘く見ないでちょうだいね。
え? 「逢はで」は「逢わないで」って意味なの?
何なのそれ、そのまんまじゃない!
伊勢だけに、性格が海老みたいにねじ曲がってるのかと思ってたわ。
案外まっすぐな性格だったりするのかしら。
その次の「この世を」も、そのまんま「この世を」って意味でいい?
ふーん、やっぱりそうなんだー。
アナタ、本当はいい性格してるのね。
伊勢だけに、いい性格ってこと?
……もう何とでも言えるわね。
「過ぐしてよとや」ってのは何?
「|過《過》ぐして」っていうのは「すぐにして」ってことでいいの?
なる早ってこと?
何だか付き合ってる相手に「すぐにして」とか「ここでして」なんて言われると、ついドキドキしちゃうわね。
「え? こんな所で?」なーんてビックリしたフリをするんだけど、内心じゃあ、もうずっと前から期待してたりなんかして、ノリノリでしちゃうっていうパターンよね、これ。
「もしかしたら誰かに見られちゃうかも」っていうスリルが病みつきになるのよねー。
……って、なにアナタ、頷いてんのよ。
やっぱり陰で援交してる娘は違うわね。
でもアタシは誰かと違って、そういう行為を多目的トイレでしたことなんて無いわよ?
トイレは援交する場所じゃないわ。
ウンコをする場所よ。
え? 「過ぐして」は「過ごして」って意味なの?
じゃあ「よとや」ってのは何?
ハトヤだったら聞いたことあるわよ。
昔、伊東に行くならハトヤ、なんて歌ってるCMがあったのよ。
ちなみに電話は4126ね。
……って、今どきそんなCM、誰も知らないわね。
え? 「過ぐしてよとや」で「過ごしてしまえと言うのか」ってことなの?
じゃあ「堕ろしてよとや」なら「|堕《堕》ろしてしまえと言うのか」ってことね。
そう言えばアタシの周りにも、「すぐに子供を堕ろしてよとや」なーんて事態になってる女の子がいたわね。
アナタも気を付けた方がいいわよ。
でもアナタはどっちかって言うと、元カレの息子に手を出したら妊娠しちゃって、しかもその子を産んで育てちゃいそうなタイプだわ。
……って、大きなお世話よね。
じゃあ、アナタが言いたかったことは、
「難波潟の芦の短い節の間ように短い時間さえも、逢わずに一生を過ごしてしまえとあなたは言うのですか」ってことね。
なぁに、これ。
そんなに会いたいなら、仕事の合間に多目的トイレで会えばいいじゃないの。
っていうか、さっきの藤原敏行朝臣くんの歌もそうだけど、どうして女ってのは、自分が遊ばれてるってことに気が付かないのかしらね。
結局、アナタも彼に都合よく利用されてるだけなのよ。
そりゃあ彼の立場からしたら、「逢わずに一生を過ごしてしまえ」って言うでしょーよ。
遊びで抱いた女にしつこく付き纏われるなんて、男にとっては悪夢でしかないのよ。
え? 先生も女でしょって?
うるさいわね。
アタシには男の気持ちが分かるのっ!
つーか、あんまりゴタゴタぬかすと伊勢湾に沈めちまうぞ、コラ。
え? こっちの話よ。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
難波潟 みじかき芦の ふしの間も
逢はでこの世を 過ぐしてよとや
我慢できない 今すぐしてよ




