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100.順徳院 「百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり」

はーい、じゃあ次は順徳院(じゅんとくいん)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

キミがこのクラス100人目の生徒ね。

いやぁー、ここまで長かったわー。

アタシ、途中で何度も帰ろうかと思っちゃったわよ。

まぁでもこれで最後だと思うと、やっと一安心(ひとあんしん)だわ。


キミは、院ってことは元天皇ってことよね。

じゃあキミのお父さんの名前は何ていうの?

え? 後鳥羽天皇(ごとばてんのう)


……って、ついさっき会ったばかりだわ。

最後も親子で締めくくりってことかぁー。

ま、このクラスらしいっちゃ、らしいけどさ。


こんな面倒臭いクラス、アタシ今後は絶対関わりたくないわね。

キミだって、父親と校長先生が同級生とか絶対嫌でしょ?

さっさと転校しちゃった方がいいと思うわよ。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


百敷(ももしき)や (ふる)軒端(のきば)の しのぶにも

なほあまりある (むかし)なりけり


なるほど、ローキック系の歌ね。

キミが最後の百番目だから「百敷(ももしき)や」で始まる歌を最後にもってきたのかしら。

だとしたら、校長もなかなか粋な演出をしてくれるじゃないの。


ところで「百敷(ももしき)」ってのは何?

ステテコのこと?

え? 「宮中(きゅうちゅう)」って意味なのね。

アタシ、股引(ももひき)と間違えちゃったわ。


(ふる)軒端(のきば)」は「古い軒先(のきさき)」でいいかしらね。


「しのぶにも」はどういう意味?

「忍ぶにも」ってことなの?


ふーん、「(しの)ぶ」と「(しの)(ぐさ)」の掛詞(かけことば)になってるんだ。


「なほ」は、「それでもやはり」って意味だったわよね。

大納言公任(だいなごんきんとう)くんが教えてくれたわ。


「あまりある」は「余りある」でいいの?

え? 「あまりある」は、いくら(しの)んでも(しの)びきれないって意味なのね。


「昔なりけり」は、昔だなぁってことよね。


じゃあキミが言ってることは、

宮中(きゅうちゅう)の古い軒先(のきさき)(しの)(ぐさ)を見ると、いくら(しの)んでも(しの)びきれない昔だなぁ」

ってことでいいのかしら。


宮中(きゅうちゅう)の廃墟に生えた草を見て、昔を(なつ)かしんでいるってことね。


アタシも最近は昔を(なつ)かしむことが多くなったわね。

やっぱり何といっても昔の方が街に風情があったわよ。

個人商店も多かったしね。

その分、バラエティにも富んでいたし。


今は個人商店なんて、かなり減ってきちゃったものね。

大手チェーンのフランチャイズ店とか、コンビニばかりが目立つようになってるわ。

建物は商業ビルみたいなのばっかりになっちゃうし、どこへ行っても似たり寄ったりな感じだしさ。


アタシ、新型コロナウイルスが収まってちょっとしてから熱海の温泉に行ってきたんだけど、熱海の駅前がまるで風情が無くなっててビックリしちゃったわよ。

小学生の頃に何回か家族で熱海に来たことがあって、そのときの景色をおぼろげに覚えていたんだけど、まるで違ってたわ。


なんていうか、アタシは温泉街っていうとちょっと(さび)れた場所っていうイメージがあって、浴衣でも着てぶらぶら散歩できるような感じが好きなのよ。


で、アタシが記憶していた熱海駅っていうのが、まさにそういうイメージの駅だったんだけど、それが今の熱海駅には全然無くなっちゃったのよね。

駅前にはビルが立ち並んで、駅周辺も何だかその辺にある駅と似たような光景になっちゃってて、とても温泉気分で風呂上がりに浴衣で散歩なんて出来そうな雰囲気じゃないからね。


ま、効率化とか合理化を追求すると、最終的にはそういった似たり寄ったりの形態に行きつくってことなんだろうけど、自分の知っていた場所が知らない場所に変わっていく寂しさっていうのは確かにあるわよね。


アタシが通ってた高校にも、何年か前にたまたま近くに行く用事があって、ついでに見に行ったら校舎があちこち改築されたり増築されたりしてて、外観がすっかり変わってたわ。

もちろん変わったのは高校の校舎だけじゃなくて、周囲の建物や駅前なんかもそうね。


ちょっとは(なつ)かしい感じも残っているけど、すっかり様変(さまが)わりしちゃってて、「あぁ、もうアタシが知らない場所に変わっちゃったんだな」っていう感覚の方がずっと強かったわ。

だから、順徳院くんが歌に()んだ感覚って、アタシは凄く共感できるのよね。


若い頃はそういう感覚ってあんまり無いと思うんだけど、ある程度年齢を重ねてくると、昔のどれを思い浮かべても「なほあまりある昔」になってきちゃうのよ。


YouTubeで昭和の映像なんか見てても、(なつ)かしさで胸がいっぱいになっちゃうわ。

特に、今はもう亡くなってる人の映像とか見ちゃうとね、どうしても(なつ)かしさと同時に切なさや寂しさを感じちゃうわよ。


これは割と最近の話なんだけど、なぜか急に思い立って、昔アタシが通ってた高校の卒業生向けのサイトを見ていたら、アタシ達のクラスの担任だった先生が5年くらい前に亡くなってたの。

10年くらい前に同窓会で会ったときは元気そうだったのに、結局それが、アタシが見た先生の最後の姿になっちゃったわ。


産まれてきた以上、人はいつか死んでしまうものだけれど、そうと分かっていても、やっぱり「なほあまりある昔」を思わずにはいられないのよね。

お世話になった人の場合は、なおさらね。


でも、始まりがあれば、いつか終わりが来るもの。

100話続けてきたこの作品も、これで終わり。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


百敷(ももしき)や (ふる)軒端(のきば)の しのぶにも

なほあまりある (むかし)なりけり

あまりはラップして 冷凍保存


あ、ちょうど終了のチャイムが鳴ってるわ。

それじゃあ、バイバイ。

この作品を読んで頂き、ありがとうございました。

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