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7.生徒会広報エリーゼ

 ミレナに叱られ登校したアイリスは今、ご機嫌でるんるんな気分だった。顔には普段の二割増しの笑顔がへばついている。


(朝からミーちゃんとあんなにいっぱい話せた! 幸せいっぱい! いやっほぅ!)


 正しくは一方的に(けな)されただけなのだが、彼女としてはそれもまた重要なコミュニケーションのひとつなのだ。


「いやに機嫌がいいじゃないか」

「あ、リックス様! おはようございま……っと。駄目です、もう学内では寄ってこないでください」


 玄関口で待っていたのか声を掛けてきたリックスを、アイリスは手をバツにして拒む。


「ミーちゃんに怒られたんですから。私のせいで生徒会の先輩に叱られたって……」

「ふ~ん、もしかしてあいつかな?」

「心当たりがあるんですか?」


 現レイメール王国立魔術学校・生徒会に在籍するのは確か六人。生徒会長、副会長、書記、会計、広報と見習い役員のミレナで全部だ。その内ミレナを除いた女子役員は副会長と広報のふたりだったはず。どちらも容姿と能力を兼ね備えた才媛だったはずだが……。


 彼の人気のとばっちりを受けて睨むアイリスに、リックスは困った様子で頬を掻く。


「入学直後から、ひとり俺にしつこく言い寄ってくる女がいてな。何度も丁寧に断ったんだが……」

「――アイリス・トゥールぅぅ……! 懲りていないようね、妹に言い含めさせるようあれほどきつく言ったのに!」


 しかしそのどちらかはすぐに知れた。真っ赤な長い髪に同じ目をした少女が、目の前に立ち塞がったのだ。その姿を見て、周りがひそひそ声を交わす。


「広報のエリーゼさんだ」

「ふふふ、よりによってあの人に目を付けられるなんて、下手したらあの鈍くさ女、退学もあり得るかもしれないわよ」

「いい気味だわ」


 生徒会広報担当、エリーゼ・ジェスティン。彼女は怒りに燃えた目でアイリスを睨みつけ、無遠慮に指差す。


「あなたみたいなのが堂々とリックス様の側に侍るなど許されるわけがないわ! 即刻そこから離れ、今後彼の目の届く範囲に二度と近寄らないと誓いなさい!」

「は、はぁ……善処したいところなのですが」


 滅茶苦茶無茶を言う彼女にアイリスはとにかく頭を下げる。それを庇おうとリックスは前に出た。


「止めてくれないか、エリーゼさん。彼女の側には俺の方が居たくていさせてもらっているんだ。君にそれをどうこう言う資格は無い」

「なっ……どうしてですのリックス様、私の何が気に入りませんの!? 女らしさも、学業だって魔法だって何一つそんな小娘に劣る所はございませんわ!」

「……俺が求めているのはそういうものじゃないんだよ。彼女に俺はどうしようもなく惹かれている、もう彼女無しの生活は考えられないんだ」


 するとリックスはとんでもないことに隣にいたアイリスをぎゅっと抱きしめてきた。さすがにこれには当のアイリスも心臓が跳ねる。だが、リックスの顔をよく見ると、真剣さを装っているようでいて小刻みに震えていた。……絶対遊んでいる、張り倒してやりたい。


 それを見てヒートアップしたエリーゼは、床をダンダンと踏みつけると、再度アイリスに指を突き付けてくる。


「キーッ! アイリス・トゥール、絶対に許しませんわ! あなたに決闘の儀を申し込みます! 放課後校庭に来なさい! 大勢の前で惨めにぶちのめして、二度とこの学校に来れないようにして差し上げます!」

「い、いえ私は、そんなの受けません!」


 アイリスは首を振る。決闘の儀は、お互いの同意の元成立する、在学を賭けての争いだ。周囲が湧き、大勢の人だかりができる中、エリーゼはにやっと嫌な笑みを浮かべた。


「もしあなたが来なければ、妹のミレナさんの見習い役員としての地位を取り消すよう提起しますわ。妹さんの経歴に傷がついてしまうかも知れないわね」

「……は?」

「……アイリス!」


 途端アイリスの背中からどす黒い魔力が吹き出しそうになるが、とんとリックスが背中を叩いてくれたことで、なんとか自制する。不味いことになった……アイリス的には絶対に引き下がれない。


「わ……わかりました。お受けします。その代わり、私が勝っても負けてもミーちゃん、いえミレナには、何もしないでください」

「殊勝な心掛けね。それに免じて約束してあげましょう。証人はこれだけいるのだから逃げても無駄よ。それじゃ、せいぜい放課後までここでの最後の生活を楽しむといいわ!」


 そう言うと彼女は高らかに笑い、背中を向けて去ってゆく。リックスがふざけたせいで、とんでもないことになってしまった。

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