6.昔に戻れたら(ミレナ視点)
「ミーちゃん、おは……」
「――ねえ、あんたなんなのあれ」
姉がレイメール王国の第二王子リックスと食堂で手つなぎスマイルをぶちかました翌朝。私は数年ぶりに彼女の朝の挨拶に反応した。
「……あんたのせいで、生徒会の先輩に叱られたのよ。リックス第二王子に近づくなって、きつく言っておくようにって」
「ご、ごめんなさい!」
姉は泣きそうな顔をしながら、それでもどこか嬉しそうに私に頭を下げる。
そんな姉を見下すように睨みつけると、私は言う。
「私は今、大事な時期なの。生徒会に見習いで入れてもらってこれから次期生徒会長を目指す者として、実績を積んで行かなきゃならないわけ。そんな中、鈍くさの姉のせいでもし足を引っ張られでもしたら、どう責任取るつもりよ!」
「わ、わかってます! ミーちゃんの邪魔は絶対しないって約束するから!」
「ふん! あんたなんかが王子と釣り合い取れるわけないじゃない……。目立たず騒がず教室の隅で大人しくしてりゃいいのよ。学校さえ卒業すれば……。その気持ち悪い顔、やめてよね」
こちらから話しかけただけで嬉しそうな顔をする姉を置き去りにし、私はダイニングに向かう。
……姉がどうしてこんな風になってしまったのかはわからない。
同じ貴族学校の初等部にいた姉は、間違いなく皆の憧れだった。強い魔力と運動能力を兼ね備え、勉強だっていつも学年首位を独走していた。眩い笑顔で多くの人に囲まれ、彼女の周りではいつも笑い声が絶えなかった。
姉のようになりたかった。尊敬していた。ずっと彼女だけを目指してやってきた。しかし、いつからか姉の成績は緩やかに下降し始め、中等部に上がる頃には私と逆転し、姉の姿はゆっくりとほかの生徒たちの中に埋もれていった。
友人もひとりひとり離れ、孤立していく彼女に、私は何があったのか理由を聞いた。しかし彼女はそれを受け入れたように「何でもないよ、私がグズなだけだったんだ」と言うだけ。
私は姉と大喧嘩し、その日から一方的に口を聞かなくなった。それは今も続いている……。
「――行ってきます」
食事を手早く終え、両親にだけ挨拶すると、私は家を出る。変わらない毎日と、変わってしまった姉の姿にひっそりとため息を吐きながら。