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26.似た者同士

 目の前の森に大きな隕石が落下してゆくのを見て、乗物から降りていたリックスたちはすぐそちらへと向かった。しばらく走ると半壊した遺跡が見えてくる。


「あそこかっ……!」「待て、焦るなリックス王子! ……危ない、跳べ!」


 だが、入り口に入る寸前、レヴィンの警告によりリックスは地面を蹴った。次いで木々の影になっていた部分から闇色の鋭い棘が伸びる。もしあのまま進めば貫かれていた。


「――残念ね、そのまま串刺しになっていれば、中で余計なものを見ずに済んだのに」

「キャリー君か。やはり……君たちの企みだったのだな」


 悔しそうに歯噛みするレヴィンを、姿を現したキャリーは嘲笑する。


「ハッ、無様よね。生徒会長の座はおろか、学籍まで奪われ、落ちこぼれて……。ふふ、どう? ここで私に忠誠を誓うなら、新王国ができた際に小間使いとして使ってあげてもいいわよ? レヴィン」

「何だと……」


 レヴィンの額に厳しい皺が刻まれ、彼は体から烈風のような魔力を立ち昇らせる。


「リックス君、先に行きたまえ。この女は私が相手をしよう」


 そして向かい合うキャリーも、背中に影を揺らめかせ、禍々しく笑う。


「いいわよ、行きなさいなリックス王子。どうせあなた程度では父には敵わないし、可哀想なこの男には私が引導を渡してあげるわ」

「頼みます……レヴィンさん」

「気にするな。さあ行け」


 今はアイリスのことが第一だとリックスはレヴィンにここを任せ、遺跡の奥へ向かって走っていった。そして、魔法学校の元生徒会長と現生徒会長は向かい合う。


 気障なポーズを取り、マントをバサバサたなびかせているレヴィンに、キャリーは見下すような口調で言う。

  

「そういえば、あなたとは本気でやり合ったことは無かったわね。私が怖かったの?」

「女性相手に本気を出す僕ではないが……こうまで裏切られたなら流石に容赦はできまい」

「来なさい! 一瞬で終わらせてあげる!」


 両手を妖しく閃かせ、魔法を放とうとしたキャリーを、しかしレヴィンは制止した。


「待て! 今更だが、君に伝えておかなければならんことがある」

「……? 命乞いなら聞くつもりは無いけど」

「そうではない。君と僕の勝負ならもうすでに勝敗は決している……今からその理由を話してやろう。一年前の生徒会役員人気投票を覚えているか?」


 レヴィンは皮肉げに笑い、キャリーは意外そうに眉を上げた。


「ふん、そんなこと? 確かにあの時、あなたが一位で私は僅差の二位だった。その程度の差がどうかしたというの?」


 彼女はサラサラの黒髪を掻きあげて笑ったが、レヴィンは真面目な顔に変わると、衝撃の事実を口に出した。


「実は……それは私が得票を操作した結果だ。君は……本当は五位に倍以上大差を付けられた最下位だったッ!」

「……ゴフッ!?」


 唐突な精神攻撃に、キャリーは激しく胸を押さえ動揺する。足がガクガク揺れている。


「そ、そんな……そんなはずないわ。最下位だなんて、一体この私にどんな弱点があってそのような。き、きっと私の美貌に皆嫉妬したのね!?」

「いや、まったく違う。私が君の目に触れる前に揉み消しておいたが……いくつか投票用紙の裏に落書きがされていてな。『性悪、根暗』『他人を鼻で見下してる感じがイヤ』『魔物とか飼ってて、人と戦わせて楽しんでそう』などという評価だった。君の本性はとっくに暴かれている!」

「んなことまでしてないわよっ! ウグッ……」


 キャリーは血を吐きそうな顔で胸を掴むが、怯まずに言い返す。


「フフ……あなたこそまだ知らないみたいね。そういえば、以前自身のファンクラブ会員が全校女生徒の三割にも上るとか、エリーゼに自慢してたみたいだけど……」

「それがどうした。いや、まさか……!」


 今まで余裕の表情だったレヴィンは雷に打たれたような顔をした。


「あなたが考えた通りよ! それはブラントス家が手を回して金で生徒を買収し、あなたの地位を保たせていたから! 本当の支持者はその中の一割にも満たない! つまり、あなたの人気投票も本来ならズタボロだったってことよ! お互い様ね、アッハハハッ!」

「グハァァッ!!」


 今度はレヴィンが膝を突く番だった。彼は吐きそうな青い顔で腹部を押さえている。


「よ……くもッ、そんな爆弾を隠していたものだな……。だがな、切り札がそれだけとは思わない方がいい。君、生徒会室で窓の外を見て時々三流ポエマーになっていただろう。『冷たい私の心の闇は、どうせ誰にも見透せないわ……』とか『若人の笑顔は眩しいわね……まるで陽の光のように真っ直ぐに胸を貫いて――』」

「キャァァァァあんたなんで知ってんのよ! 覗いてたの変態なの!? ハァハァ……最ッ悪。忌々しいことこの上ないわ。でもね、そんなのあんたにだっていくらでもあるのよ。……あんた、私をよく下らないことでこき使ってくれたわよね。私見たのよ、あんたの手紙で……未だに自分の両親のこと、パパママ呼ばわりしちゃってることをねぇっ!」

「みぎょぉぉぉっ! 人の手紙を開けるとか、キッサマそれは明らかにルール違反だろう! そんなだから誰も君の近くには近寄らないんだ、ざまあみろ!」

「はぁ!? 年中女の尻ばっか追っかけてるモテないあんたには言われたくないわよ――!」


 ――それから、地獄の罵り合いはしばらく続いた。

 持ち玉の大半を出し尽くしたふたりは死にそうな顔で睨み合う。


「もう……いいわ。やはりあんただけは、この手で消しておかないと我慢ならないッ。……これでも喰らって、私に楯突いたことを後悔なさい……ゲート!」

「むう……なんなんだっ、これは!」


 レヴィンの背後にいきなり黒い円が出現し、彼の身体を勢いよく吸い込み始める。彼は懸命に抗うが、どんどんと周りの空気や地面の砂ごと体は後ろに滑り、風魔法を使って脱出を試みるも、うまくいかない。


 その姿を見てキャリーは気分よさそうに背中を反らして笑う。


「アーッハッハッ、無駄よ無駄! それは指定した対象を異界へと引き込む闇の禁忌魔法、ゲート! かなりの魔力消費するけど、あんたの(はなむけ)にはちょうどいいでしょう。悪魔に喰われて異界で骨を晒せばいいわ!」

「ぐ、ぐぉぉぉっ……かくなる、上は!」


 地面に爪を立てしがみ付いていたレヴィンは片手を離すと、キャリーを照準して風魔法を放つ。多少の攻撃魔法なら跳ね除ける自信が有ったキャリーだったが、それは思っても見ない変化を彼女の周囲に起こした。


「ちょっ! こ、これは無しでしょ! イヤァァァ!」


 身体が浮いた。キャリーは慌てて足を伸ばしがりがりヒールで地面を削ったが、すぐに靴はすぽんと脱げてレヴィンの後ろの黒い穴に吸い込まれる。風魔法バキューム。直線状の竜巻が嘘のような吸引力で彼女の身体をさらってゆく。ゲートを解除しようとしたが、もう間に合わない。


「道連れだぁぁぁぁぁ……!!」

「嘘でしょぉぉぉぉぉ……!!」


 仲よく悲鳴を一斉に響かせると、レヴィンとキャリーはふたり仲良く異界へと吸い込まれ……ゲートは閉じた。

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