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23.キャリーの誘い

「ミレナちゃん! あっちの方が景色よさそうですわよ!」

「本当だ! エリーゼ先輩行きましょう、きゃははは!」

(ミーちゃん楽しそう……)


 ここは、ブラントス家別邸の敷地裏手にある森で、アイリスたちは散策に来ている。屋敷に滞在し二、三日ほどは町に一緒に買い物に出たり、屋敷でお茶しながら他愛ない話に花を咲かせたりしていたのだが、動かないのも体によくないからと、キャリーから外出を提案されたのだ。


 森には小さな遺跡があるらしく、肝試し代わりに丁度いいだろうということで、四人は勇んで屋敷を出た。活発なミレナとエリーゼのふたりは小高い丘に登り、遠くの景色を指差してはしゃいでいる。


「楽しんで貰えてるかしら?」

「ええ、とっても!」


 アイリスは隣を歩くキャリーに満面の笑顔で言う。ミレナの笑顔が見られれば彼女は言うことが無いし、もちろんアイリス自身も貴族学校初等部以来の久々の友人づきあいを大いに楽しんでいる。


「リックス王子も呼べばよかったかしらね?」

「へぇっ!? ど、どうしてですか? べ、別に彼は、その……その」

「あら可愛い。あんなに堂々と人前でいちゃついてるのに。なら、私が貰ってもいいのかしら?」

「もらっ!? それは――」 


 キャリーの言葉を否定しかけたあと、アイリスは口を噤む。


 彼と自分の関係は、周囲からどう見えているのだろう。自分でも、ただの友人というには少し大きすぎる好意を彼に抱いているのは感じる。彼が隣にいてくれるととても安心するし、彼と会えなくなってから寂しさがずっとアイリスの胸の中にはあった。でも……。


「それは、私が決められることではないと思います……」


 リックスと協力したのは、あくまでミレナのため。王太子への脅威の排除という目的が達成された今では、積極的に彼に関わる理由も無いし、彼の方だってここ一カ月程音沙汰もないのだ。


 そんな状態なのに、キャリーに向かって彼に手を出すななんて、間違っても言えるはずもく……リックスが自分のことを特別に思ってくれているとか、そんな自信もなかった。


「そう」


 彼女はそれだけ言うと、微笑んで話題を変える。


「ねえ、どうして光と闇の魔法を扱うものがこんなに少ないか分かる?」

「へ? ……わかりません。私も他の魔法は扱えませんし」


 アイリスは唐突な質問にきょとんとし、キャリーは薄ら笑いで答える。


「それは私たちが本来、それらを体の中に持たないから。火は熱、水は血、風は息、土は骨。それぞれが人間の体に存在して……でも、光と闇なんて一体、どこから現れたのかしらね?」


 彼女は指先に浮かべた黒雲で疑問符をつくり、ふっと息で吹き消した。そう言われると、自分の力が得体の知れないものに思えてちょっと怖い。


「もしかしたら、光と闇を扱う人たちの中には……何かが棲み付いているのかも知れないわね。私たちの知らない……恐ろし~いなにかが」

「ひいぃ、やめてください!」


 背中にしなだれかかって、ぞっとする声をかけるキャリーに、アイリスはびくつくと、慌ててその体を跳ね除ける。すると彼女はくすくすと喉を鳴らした。


「ふっふっふ、その顔よかったわよ。王子様に見せてあげたかったくらい」

「はぁ、はぁ……からかわないでくださいよ、もう」

「アイリス様、どうかしましたの?」

「……なんでもないです」


 両肩を抱くアイリスの背中を、追いついてきたエリーゼが心配して撫でてくれる。キャリーは一行をそのまま先導し、道の先に遺跡が姿を現し始めた。しかしあんな話を聞いた後では、アイリスにはそれが大層不気味に見えて来てしまうのだった。

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