22.複雑な気持ち(ミレナ視点)
「おはようミーちゃん! ミーちゃん……どうかした?」
「…………」
ブラントス家別邸にて。姉と同室にされた私は今、朝の身だしなみを整えていた。
現在私は姉や生徒会の先輩と一緒に……この度生徒会長に就任したキャリーさんの父上が所有しているという別邸にお邪魔している。いや、してしまっている……といった方が正しいのだろうか。
こうなったのも最近、姉のことが気になって仕方がないからだ。
姉は最近少し変わったのだ。誰からのいただきものなのか、質の良い化粧品で髪や肌の手入れもちゃんとするようになって綺麗になったし……クラスメイトとも少しずつ打ち解けたようで、今回の魔法祭では学年別最優秀クラスの代表として、表彰も受け取っていた。
実はあの後気になってこっそり、教室の姉の様子を覗いてみた。
するとなんだか彼女はクラス内でマスコットのように扱われ、手を握られたり拝まれたり、抱き着かれたりと何だか大変人気の様子であった。どうやら学内では彼女に触れると恋愛事にご利益があるなどと囁かれているらしく、大切に扱われている姉を見て、私は……少しだけ嬉しかった。
――私が魔法祭でアルフ様を庇って死を覚悟した時……どうしてか姉がそこにいて、気がつけばすべてが終わっていた。たった数秒のことだったが、光魔法を使う私の目には、レヴィン元会長を踏みつけにする彼女の姿が見えていた。
リックス様はそれを隠すように、自分が事を納めたのだと告げたが、どうしてそんなことをしたのか私にはわからない。
ただ、周囲に変化があっても、相変わらず姉は私に遠慮したままだ。それを見て私は本当のことを聞かなければならないと思っている。でも……。
「ねえ、ミーちゃん……?」
「うるさいのよ、何もないわよ……アイリス」
「な、名前で呼んでもらえた……神様ありがとうございます!」
今も姉はこんなことで感極まり、両手を組んで祈りを捧げている。はたから見ればただの妹好きの変態の、おかしな姉。
でも小さい頃、私の手をよく引いて導いてくれていた姉はもしかしてまだ、彼女の心のどこかに存在しているのかも……。今も見守ってくれているのかもと、そんな事を思う。
(ありがと。お姉様……)
心の中でぼそっと呟くと、私は未だトリップしたままの姉の頭をべちっと叩き、部屋を後にする。
「いつまでそんなことしてるのよ! 先に行くわよ」
「待って、ミーちゃん! ミーちゃぁん!」
せっかく少しだけ見直したのに……半泣きで後を追ってくる姉の姿を見て、当分は素直になれそうにないなと思う私なのだった。




