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21.判明した事実(リックス視点)

 レイメール王国立魔法学校が夏休みに入り、アイリスが旅行の準備を済ませた頃……。


 俺は王城の一室で兄アルファルドと相談をしているところだった。このところの徹夜のせいで疲れた顔は隠せず、目の下にはきっと隈でも浮かんでいるだろう。


「兄上……結果が出ました」

「大分無理をさせたな、リックス……、大丈夫か?」

「ええ、それよりもこちらを見てください」


 俺は先日手に入れた、おかしくなった会長の口から飛び出したあの謎の物質を取り出す。氷の魔法で行動を封じている黒いそれの内部は、今もちらちらと揺らめいているように見える。


「宮廷魔術師に協力を仰いで解析を掛けたところ……これは異界から召喚された、我々とは異なる邪なる存在だと判明しました」

「やはりか……」


 その言葉に表情を変え、兄上は立ち上がる。


「異界召喚の秘術は、確かに存在すると聞いた事があるが、王国のみならず世界全土で封印され、扱える者はほとんどいないはずだ。誰が一体そんな怖ろしいことを……」

「ジョール・ブラントス……」


 俺は低く呟き、兄上はごくりと唾を飲み込んだ。


「魔法省長官か……」

「兄上もご存じでしょう。部下を切り捨てて揉み消したようですが、奴は数年前、何らかの実験で原因不明の魔力の暴走を引き起こし、研究所を丸ごと一つ潰している」

「奴の胸には、未だ権力への野望が渦巻いているのか」


 怒りのあまり、俺は氷の結晶をぐっと握り締めた。


「ええ……おそらくこれはもっと大掛かりなことを起こす前の奴の実験のひとつでしょう。同時に、あわよくば兄上を(しい)し、国を弱体化させる一手でもあったはずです。今すぐ奴を権力から遠ざけなければ……」

「だが、奴を今魔法省長官から解任することはできまいな。仮に父に相談しようとも、今の地位から下ろすにはかなりの時間が掛かるだろう。くそっ」


 兄上も悔しそうに膝を叩く。例え王族と言えど、この大きく魔法に依存した国で、それらを司る者の頂点に君臨する彼を引きずり下ろすのは、大変な難事だ。


「俺が止める……。直接魔法省の研究所に乗り込み、奴らが禁忌に触れている証拠を探して目の前に突きつけてやります!」

「無理だ! 国内に幾つの研究所があると思っている! それに、奴らが馬鹿正直に所在の知れている場所で研究を行っているとは思えん!」

「やるしかないんです! 兄上も見たでしょう、こいつの力を……王宮の宮廷魔術師や俺ですら太刀打ちできなかったんだ。研究がどこまで成功しているのかはわからないが、奴の思惑次第ではいずれこの国が滅びかねない! 俺は……この国の王族として、自分にできる限りのことをやらなければならないんです!」


 兄上は立ち上がると、悔しそうな顔で俺の両肩を握った。


「……すまん。俺にもしお前のような力があれば。弟をこうやって危険に送り出すことしかできないとは」

「いえ。兄上は平和な世界をどうやって治めるかだけを考えていて欲しい。影で国を守るのが自分の仕事だと、俺はそう決めていますから」

「私は、立派な弟を持ったな……。だがどうか無茶だけはするな。私にとってお前の代わりなど、どこにもいないんだから」

「ええ、信じて待っていてください」


 そう言って俺は兄上と堅く握手をし、彼の部屋を辞した。


 


(――アイリスとずっと話せていなかったからな。今日くらいは会いたい)


 王城から出て俺はすぐ、またしばらく忙しくなることを伝えようと、アイリスの実家であるトゥール伯爵家を尋ねた。しかし、そこで聞かされたのは驚くべき話だった。彼女の母君は困った顔で伝えてくれる。


「ブラントス家から招待されたですって……?」

「ええ、新しく生徒会長になった方に誘われたんですって。ここからしばらく離れた場所に別荘があるらしいですわ。アイリスはミレアと、ジェスティン公爵家の御息女と一緒に夏休みの間過ごすのだと張り切って出発しました」

「そう、ですか。ありがとうございました……」


 何かが引っかかりながら、俺はトゥール家を出て考え込む。偶然にしてはあまりにも気になることが多い。


(先日の魔法祭の来賓の中にはたしか、キャリーの父であるジョール・ブラントスの名もあった。もし彼が、先日の成り行きを見届け、アイリスに目を付けていたとしたら……?)


 嫌な予感に俺はすぐ馬車に乗ると、アイリスの母上に教わったブラントス別邸の場所を教え、御者に急がせた。あの魔法省長官でもアイリスに太刀打ちできるとは思えない。しかしそれでも胸騒ぎは収まってくれない。


(くそっ……何もなければいいが。アイリス……頼む、無事でいてくれ)

「――リックス君、私も連れて行ってくれたまえ!」


 いきなり馬車の外から男の声がして、俺は窓を開ける。すると馬車に白馬が並走しており、元レヴィン生徒会長がこちらを見つめていた。


「……一体どこで俺の動きを知ったんです」

「ハッ。風魔法使いを舐めてはいけないな。その気になれば王都の全ての会話は僕に筒抜けさ。……おそらくキャリー君なのだろう? 隙を見て僕をあの、おぞましい悪魔に操らせたのは」

「その可能性は高いと思います」

「僕も、彼女たちがさらなる何かを企てている気がしている。君たちが止めてくれたおかげで僕は正気を取り戻すことができたんだ。喜んで力になろう」

「はぁ……どうも」


 爽やかに白い歯を輝かせる彼の申し出は有難いが、どうしてもその顔に(活躍して、モテたいんだ)という心の声が浮かんでいるように見える気がして、素直には喜べない。


(まあ、いいか。なんか囮とかで使えそうだし)

 

 あまり信用しないことに決め……なにはともあれ俺は彼を連れて、共にブラントス別邸へと向かうのであった。

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