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18.魔法戦技部門・最終戦②

 魔法戦技部門・最終戦は互いに勝利を譲らず、全くの互角で進行していた。


 そのみっともない恰好はともかくレヴィンの技量は凄まじいもので、しかしリックスも負けずに強大な魔法で王族の貫禄を見せつける。激しい戦いに観客の大きな声援が上がる。


 遠距離での魔法の打ち合いではらちが明かないと思ったのか、両者同時に距離を詰め、風と氷の剣が交差した。


「さすがですね。この学校の会長職に就いているのは伊達じゃないというわけか」

「ふっ……男というのは強くなければならんのだ! (モテるために!)」


 なにか幻聴が聞こえた気がしてリックスは微かに動きを止めた。レヴィンはそれを隙と見て、握り締めた何かをリックスの顔に投げつける。


「くっ……何をした! 毒か?」


 甘い香りが鼻をくすぐり、リックスは警戒して距離をとろうとした。だがレヴィンは構わず追撃を仕掛けてくる。


「ふっ、その粉は体に付着すれば水分を奪い取り硬化し、多量に摂取すれば喉の渇きを引き起こすだろう。私の味わった苦痛を思い知るがいい……!」

「何て危険な! 道具の使用は禁止のはずだろう!」

「……勝った方が正義なのだよ! (モテるのだよ!) ハハハハハ!」


 体の各所に付着していた黄色い粉を風で操作し、リックスを追い詰めるレヴィン。リックスは審判の教師を一瞥するが、彼は危険性は低いと判断したのか、中止を認めるつもりは無いようだ。


「君も、私と同じ目に遭うのだ!」


 レヴィンの叫びと共に、目の前に黄色い粉交じりの旋風が押し寄せ、リックスは覚悟を決めた。


「仕方ない……! 本気を出させてもらう!」


 リックスは魔力を集中し空中に巨大な氷塊を生み出す。グレイシャルコメット……彼の操る最強の氷魔法のひとつ。


「ちいっ!」


 対してレヴィンも巨大な竜巻を起こし、真下からそれにぶち当てた。接触部分から氷の隕石が削れ、雪の結晶が観客席まで飛び散った。


「うおおおおっ!」

「はああああっ……! ぐぐっ、ウァァァァァ――ッ!」


 しかしそれはやがてリックスの優勢に傾き、巨大な氷塊はレヴィン目掛けて落下した。直前で防御魔法を使うのが見えたし、潰れてはいないだろう。


「そこまで! 勝者、一学年リックス・レイメールを今期の魔法戦技部門、最優秀者とする!」

「ふう~っ……。やばかったなあの粉。あとで解毒してもらった方がよさそうだ……」


 教師の声が高らかに響き勝利を確信した後、リックスは嫌そうな顔で指先に着いた粉を払って冷や汗を拭う。結局それがなんだったのか、最後まで分からないままだった。


 彼は手を突き上げ観客が湧く中……魔法の着弾地点から、ゆらりと生徒会長が立ち上がる。


 だが、そのただならない雰囲気にざわざわという声が広がってゆく。


「会長。勝敗は着きました。残念ですが、もう休んで下さい」


 リックスがそう言って近づき、レヴィンがゆっくりと俯けていた顔を上げた。そこでリックスは驚いて足を止める。


 うつろな表情の元、レヴィンの瞳は白目の部分まで真っ黒に染まっていた。そして彼は、空に向かって叫ぶ。


「グルァァァァアアア――!」


 それは間違いなく獣の咆哮だった。彼は両手を開くと黒い魔力を噴出させ、リックスを狙って魔法を発動する。身体を越える大きさの巨大なダークボールが彼目掛け幾つも降り注ぐ。


「何なんだ一体……。皆、避難するんだっ! 生徒会長の様子がおかしい!」


 リックスはそれを防御しながら叫ぶ。教師たちもその様子を見て慌てて避難誘導に走る。


「グルッ、グオオオオオッ!」


 だが、レヴィンは素早く辺りを見回すと、一直線に駆け出した。その視線の先を見てリックスは気づく。


(こいつっ、兄上を!? どういうことだ、いつの間にか魔紋が変わっている! こいつが襲撃者か……させん!)


 リックスは兄アルファルドの元に急ぐ。彼は傍にいたミレナを庇い、その前に四人の宮廷魔術師が立ちはだかる。


不埒者(ふらちもの)が、王子に牙をむくなら命の保証はせぬぞ!」

「消えてもらう!」


 彼らはそれぞれ別属性の強大な魔法を操り、目の前のレヴィンへとぶつける。……だが、砂煙が収まった瞬間、そこから飛び出した影は彼らをたやすく蹂躙する。


「うぁぁっ!」

「グハッ、ほ、本当に人間なのか!? 無念……」


 なんとレヴィンはあっというまに四人もの宮廷魔術師を蹴散らし、その手が王太子に向いた。凝縮した黒い魔力が手のひらに集まってゆく。


「ア、アルファルド様はやらせない! 逃げてください!」


 ミレナが王太子を背中に庇おうとするが、彼も同時にミレナを下げようとする。


「ふざけるな! 婚約者を捨てて逃げるなどできるか! 君こそ早く安全な所へ!」

「嫌です!」


 彼らは魔力のバリアを貼るが、それはレヴィンの手に宿る魔法には到底太刀打ちできそうにない。リックスが残った魔力で懸命に攻撃を仕掛けても、それはもう片方の手で簡単に弾かれてしまう。


「止めろーっ!」

「グハハハハハ――!」


 リックスは力の限り叫び、レヴィンの喉から別人のような恐ろしい笑い声が響いて魔法が発射された。それは漆黒の雷のように王太子達へ突き進み――途中で黒い雲に包まれる。

 

 ほとんどの人間には見えていなかった。その場に割り込むようにひとりの少女が飛び出して行ったのを。

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