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17.魔法戦技部門・最終戦①

 午後四時過ぎ、アイリスは教室から出ていく最後の客を見送り、ほうっと息を付く。同時に室内のシャドークラウドを解除すると、皆の歓声が上がった。


「大成功だったじゃん!」

「売上どうだった?」

「全部合わせて、金貨百枚分くらいあるよ! もしかしたら表彰台に上がれるかも!」


 この後売り上げが集計され、学年別に優秀だったクラスが表彰される。残念ながらこのお金はお小遣いにはならないが、売り上げに応じて学内の食堂や購買で使えるチケットが貰えるので、無駄にはならない。


(よかったぁ。うまくいって……ひうっ!?)


 こう言ったクラス行事に今まで表立って参加することが無かったので、なんだか充実感を感じていたアイリスは、皆の視線がこっちに向いたのにびくっとした。室内が暗くなくても、魔物の格好をした彼らが一斉にこちらを向くと、かなり怖い。


 白い骸骨の描かれた黒タイツを纏う少年が言う。


「今回うちのクラスの最優秀生徒は、アイリスだな」

「そうね。ほとんど休憩もしないでずっと魔法を使い続けてくれてたし、ありがとうね」

「よし、皆でアイリスを称え、ジュースで乾杯しよう!」


 魔女の変装をした少女たちが氷魔法で冷やされていた瓶入りジュースをカップに分け……それがクラス全体に行き渡ると、アイリスは皆の中心に連れて来られ、ゾンビの格好をしたクラス長が号令をかけた。


「それでは、《モンスターハウス》の成功と、頑張ってくれたアイリス、そしてそれぞれ皆の健闘を讃え、乾杯!」

「「かんぱ~い!!」」


 一緒にカップを突き上げながら、不覚にもアイリスは目を潤ませてしまう。ああ、なんだかみんなの笑顔が温かい。


「あ、そうだ。そろそろ魔法戦技部門の決勝じゃない? 確かリックス様とレヴィン会長の対決になるのよね!?」

「じゃ、アイリスはここまでね。リックス様の雄姿を見なきゃ」

「年下の恋人とかいいな~」

「えっ!? わ、私は別に、そんな……違うんですっ」

「よし、それじゃここから五時の集会までは各自自由に過ごそう! ここで語らうもよし、イベントを見に行くも自由だ! 後で送れず講堂に集まるように!」


 そんなクラス長の号令が響き、アイリスは背中を押されて校庭に移動する……。そしてそこでは丁度、生徒会長レヴィンと、第二王子リックスの最終戦が行われるところだった。


(あっ、ミーちゃん見つけた。相変わらず可愛い! 天使みたい……。あれって王太子様だよね! ミーちゃんを見に来てくれたんだ、よかった……)


 激しい戦いになるのが予想されたのか、既にミレナは場外に待機している。その近くには王太子アルファルドの姿も見られた。


 アイリスはしばし妹の姿に見惚れながらも、校庭の中央に視線を戻す。リックスはこれまでの戦いでほとんど傷を負っていないようで飄々とした立ち姿だが、レヴィンの方はこれまた、酷い姿だった。アイリスは、しばしふたりの戦いに見入る――。





「――会長、午後に現れた時から思ってましたけど、その姿何かあったんですか?」

「……聞いてくれるな」


 リックスはレヴィンにに問うが、彼は顔に微かに哀愁を漂わせ、そう答えただけだった。


 制服はところどころ焦げ跡があり、ズボンの片方は膝から下が無く、顔にはところどころ火傷の跡すらある。あの髪に付着した卵色の物体はなんなのだろう。鬼気迫る表情の彼を睨み、リックスは表情を少し緊張したものへと変える。


「まさか……俺に勝つためにあの短い時間で壮絶な修業でも潜り抜けて来たんですか? これは……侮れませんね」

「一年に好き勝手されるようでは……我らの威厳が保てないのでな。今日は、勝たせてもらう」


 ぱらぱらと何かの粉を飛ばしながら髪をかき上げ、レヴィンは構える。リックスも今回は油断すべきではないと思ったのか、すぐに魔法を放てる体勢を作った。


 審判の教師が片手をあげ、城内が緊張に包まれる。


「では、魔法戦技部門最終戦、レヴィン・クラッド対リックス・レイメールの試合を始める。覚悟はよいな、ふたりとも」

「「はい」」

「では……開始ッ!」


 号令と共に、いきなり派手な魔法のぶつかり合いが始まり、城内から歓声が上がる。


 それをある男が、生徒会副会長キャリーと共に、薄っすらと笑みを浮かべ見ていた。


「ちょうどいいデモンストレーションだ。時間を見計らって始めろ」

「はい、お父様」

 

 ――魔法省長官ジョール・ブラントス。この国の魔法の第一人者である彼は、その真っ黒な瞳を弓なりにすると、ミレナと共に弟を見守る王太子の方を一瞥した。

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