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16.アルファルドとミレナ

 リックスと昼食を食べた後も、ついつい彼の口車に乗せられて中庭に長居し、休憩終了間際に走って帰ってきたアイリスをクラスの皆は笑顔で迎えてくれた。


「ごめんなさい、遅くなって……」

「もう皆準備万端だよ! あなたがいないと始まらないんだから、頑張って!」

「ずっと魔法使い続けるのもしんどいだろ? 言ってくれたら適度に休憩入れるから、遠慮すんなよ」

「飲み物買って来てあるから、よかったら飲んでね」

「ありがとう……!」


 年中ずっと自分に闇魔法を掛けている彼女からすればなんてことはないのだが、クラスメイトたちの気遣いは素直に嬉しかった。


 アイリスは笑顔で彼らと共に、また 《モンスターハウス》の運営に勤しむのだった。




 そして一方……ミレナは講堂で、論文コンペに出場し、クラスでの研究成果を発表していた。


「――光魔法や水魔法での、治癒の効果を最大限に発揮するためには、施術者が人体に対する正確な知識をしっかりと携えておく必要があります。ただ漫然と魔法を運用するだけでは、下手をすれば正常な回復を阻害し、身体の機能に悪影響を与えてしまう恐れまであるのです」


 彼女は手元の資料を光魔法で拡大して映写し、説明する。


「特に内臓などの生命活動に重要な役割を担う器官を取り扱うには、しっかりとした医療機関で十分な経験を若年の頃から積ませていく必要があり……今後私たちはそういった知識をもっと低い年齢から学べるような専門の教育機関づくりを少しでも推進できるよう、及ばずながら多くの人々に呼びかけていきたいと思っています。皆様にもどうか、御協力をよろしくお願いします――」


 主張が終わり、大きな拍手に包まれながらも、礼を終えた彼女の目は一点を凝視していた。


(来てくださった……!)


 その人物は彼女に微笑みかけると目配せし、ミレナは発表が終わってすぐに彼の背中を追う。


「やあ、ミレナ。久しぶりだね」

「アルフ様!」


 そう、帽子や眼鏡などで変装していたが、彼は間違いなくレイメール王国現王太子、アルファルド・レイメールその人だった。金の長い髪を後ろに流した、とても柔らかい顔立ちの青年だ。


 彼は護衛に手振りで合図して止め、ミレナを腕の中に迎え入れる。


「頑張っていたね。僕も婚約者として鼻が高いよ」

「は、恥ずかしいです。あの……おかしいところはなかったでしょうか」

「何もあるもんか。いつも通り自慢の婚約者だよ。一番君が輝いていた」

「嬉しい……!」


 彼はミレナには襲撃者の事を教えていない。リックスから忠告はされたが、魔法祭にやって来たのも、前々からの予定を崩せば、国民に不安を与える事になるのを危惧してのことだ。


「学校生活は楽しんでいるかい?」

「も、もちろんです……! 生徒会にも入れていただきましたし」


 ミレナは精一杯の笑顔を見せたつもりだったが、アルファルドはその表情になにかを感じ取った様子で、じっと彼女を見つめる。


「困ったことがあったら、僕でもリックスでもいい。ちゃんと誰かに相談するんだよ。学校には姉上もいるんだろう? あまり思いつめないで、周りを頼りなさい」

「あ、姉は……。……なんでもありません。大丈夫です!」


 ミレナはこの三つほど年上の王太子を、今では兄のように慕っている。最初に出会った時から彼はこうだった。そして、光魔法が使えるというアドバンテージはあったものの、もっといい家柄の娘もいるだろうという中からミレナのことを選んでくれた。理想の恋人であると共に、感謝してもしきれない恩人でもある。


(私はきっと、この学校を一番の成績で卒業して、この人と一緒になる。そうすれば、姉も少しは私を……。ふん、あんな……情けない姉なんて、どうでもいいけど)


 ミレナは今更、頭の片隅にでも姉のためなどという考えが出てくる自分の甘さに嫌気がして、首を振る。


「リックス様が魔法戦技部門で勝ち上がっているようですし、そちらに行きましょう。私もこれが終わり次第、怪我をされた方々の治療に戻るよう言われていますし」

「そうだね。でも少しだけでも今日の祭りを楽しんでゆこう。さあ、エスコートするよ。腕につかまって」

「……はい!」


 気持ちを切り替えたミレナは彼のすんなりとした腕に頬を添え、にっこりと微笑んだ。

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