表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/31

12.リックスとお出かけ

 本日、アイリスは珍しく学外に出てきていた。校内で手掛かりが見つからない以上、他の心当たりを探す必要があるとリックスが言ったためだ。


 アイリスは令嬢らしい活動を控えているため、あまりちゃんとした外出着を持っていない。普段通り制服でいいと言ったのだが、エリーゼに服飾店に引っ張っていかれて強引に着替えさせられる。


「私が何着てもあんまり変わらないと思うんですが……」

「そんなことはございませんわよ。私がコーディネートして差し上げますわ。これと、これと……これもいいですわね。黒い髪が映えそう!」


 エリーゼが用意してくれたのは、爽やかなパステルブルーのドレスだ。試着室に押し込まれた彼女が仕方なくそれを纏って出てくると、彼女は白いミュールを用意していて、足にピンクのペディキュアまで塗ってくれた。


「うん、ばっちりですわ! さあ、リックス様に見ていただきましょう!」


最後に頭にも白いハットを被せると、彼女はアイリスの背中を押していき、店の外に待っていたリックスに預ける。彼は仕立てのよい濃いブルーのジャケットとスラックスというシンプルな出で立ちだが、元が素晴らしいのでそれだけで十分に決まっている。


 彼はアイリスの姿を見て、とても嬉しそうに笑ってくれた。


「おっ、いい感じじゃないか。すごく可愛いよアイリス」

「……あ、ありがとうございます」


 そんなことを言われて今更戻って着替え直すこともできない。アイリスはせめてお金は払おうとお財布を取り出したが、エリーゼは笑って首を振る。


「いえいえ、この間のお詫びの気持ちですわ。父の知り合いの店ですからお気兼ねなく。ではわたくしはここで」

「一緒に行かないんですか?」

「お気持ちは嬉しいのですが、わたくしもいくつか予定がありまして。またそのうちご一緒させていただきますわ……」

「エリーゼさん、ありがとうございます。私あなたのこと、誤解してたかもしれません」


 アイリスは頭を下げ、自分の手を差し出す。するとエリーゼは快く握り返してくれる。


「なら、今後とも友人としてよきお付き合いをしてゆきましょう。リックス様……彼女のこと、よろしくお願い致しますわね」

「言われるまでもないよ」


 リックスはアイリスの肩を抱いて自分の方にぐっと寄せる。アイリスの心臓が少し跳ねたが、嫌では無かった。どうしてか彼の隣は居心地がいい。


「では行ってらっしゃいませ~! お気を付けて~!」


 エリーゼのそんな声を背中に受けながら、アイリスとリックスは王都の散策を開始したのだった。 



 その後、軽く市場を見回った後、食事休憩を挟んで観劇を楽しみ、美術館を見て、公園を軽く散歩しているところ辺りでアイリスはやっと気付いた。


「これ、ただ町で遊んでるだけになってません?」

「あれ、ようやく気付いたんだ。俺はてっきりデートのつもりだったんだけどな」


 道端で販売していたアイスを一緒に齧りながら、リックスは苦笑する。青い目が優し気に緩んでこちらを見ている。


「デ……デートとか、冗談でもそんなこと言っちゃ駄目ですよ、然るべき身分があるんですから」

「それって、身分が釣り合うなら、俺と付き合ってもいいってこと?」

「つっ……!?」


 アイリスの胸の中にはよく分からない感情が湧き上がってきて、頭がぼんやりした。胸が弾むような、苦しいような……。


「冗談は……止めてくださいっていってるでしょう」


 それを断ち切るように、彼女は赤くなった顔を背ける。リックスは困ったように笑うと、視線を目の前に佇む白い建物に向けた。


「それなりにちゃんと好意は伝えたつもりだったんだけど、足りなかったか。……実は俺さ、昔の君のこと知ってるんだ」

「……貴族学校の初等部で私を見たんですか? でも、あなたみたいな方が、私たちの入っていた学校に来るなんておかしいです」

「いや、そこじゃない。どこかで、俺と似た男の子を見たことは無かった?」


 彼の視線は、強く前を見据えたままだ。アイリスはその言い方に何かが引っかかったような気はしたが、よくは思い出せない。すると彼は少し残念そうに視線を俯かせた。


「ま、十年近く前の事だから仕方ないよな。時間があったら思い出してみて……その時俺がなんて言ったかも」

(……一体、なんなんだろう)


 そう言ってリックスは笑いかけ、アイリスの手を引く。だが彼女は頭に覚えた引っ掛かりをなんとか捕らえようと必死で、ぼんやりとそれに着いて行くのが精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ