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1.鈍くさ姉と女神な妹

「だっさ~い。きゃははは」


 校舎内の廊下で体当たりをかまされ、ひとりの黒い髪をお下げにした女生徒がふっとんだ。ぶつかっていった側の少女は、女生徒の姿を嘲笑いそのまま通り過ぎる。


 そしてその後ろからもう一発。


「ば~か」

「あうっ」


 立ち上がろうとしていたのを、後ろからまた誰かに強く突き飛ばされ、女生徒は膝を地面ですりむいた。


(痛たたた……)


 誰も助け起こしてくれる人間はおらず、彼女はそのまま壁に手を付けよろよろと立ち上がる。


 アイリス・トゥールというのが、この可哀想な女生徒の名前だ。このレイメール王国立魔法学校・高等部ニ年に在籍する……どこにでもいる平凡な一生徒。


「――あっ、ミレナ様が通られるぞ、道を開けろ!」

「いつ見てもお美しい。もはや女神だ」

「全校生徒の憧れよねえ……」


 そして、アイリスへの仕打ちとはまるで真反対の扱いを受け、ざわめきと共に左右に別れる生徒の間から現れたのは、ミレナ・トゥール。高等部一年に所属する、アイリスの実の妹。白に近い金髪に金の瞳の、妖精のような姿をした少女だった。


 彼女は周囲から羨望の視線を集めたままアイリスに歩み寄るが……。


「ミーちゃん……」

「…………」


 アイリスが声を掛けても、一瞥しただけで何も言わずに通り過ぎる。取り巻きが後を追い、それを見た周囲からひそひそと声が上がる。


「無視されてやんの」

「仕方ないわよ、妹があんな素敵な方なのに……姉があんな鈍くさじゃあ、声を掛けるのも恥ずかしいわよ」

「普通反対よねえ。もうちょっと努力しようとは思わないのかしら」


 そんな声をアイリスに浴びせながら、その場から人が散ってゆく。アイリスは顔を俯け、何かをぶつぶつ呟きながらとぼとぼとその場を歩き出す。


 涙塗れの表情で……悲しみに暮れる憐れなアイリス。


「……かわいい」


 というわけでもなかった。キラッキラの表情だった。


「はぁぁ……ミーちゃん可愛いミーちゃん可愛い! 家でも会えて、学校でも会えて、私今日も幸せ! うへへへへ……」


 気持ち悪い笑い方をして喜んでいるこの彼女は、壮絶なまでに妹のファンなのだ。年下の妹が好きで好きでたまらない。適うことなら一日中傍にいて、その姿を、顔を眺め続けたい。


 しかし彼女は弁えていた……妹の地位を守るためには、こんな自分、傍にいてはいけないのだと。隣のガラス窓に彼女の顔が映る。


 その平凡な容姿には、オフホワイトのブレザーもチェック柄のスカートも絶望的に似合っていない。父も母も美男美女なのに、自分だけがこうだった。それでも、その分の美が妹に注がれたのだと思えばそれもまた嬉しく、彼女はにへらと笑う。


(これでなんとか今日も乗り切れそう……)


 傍目にはぼろぼろの姿なのに、幸せそうな表情で彼女はゆっくりとその場を後にしていく。


 そんなアイリスを後ろから、腕組みしてじっと見ている人物がいた。入学して間もないのか真新しい制服には一年生の校章が輝いている。黒髪に青い瞳の、とても繊細な顔立ちをした少年だ。


「あいつ……アイリス・トゥールだよな。多分間違いない……。しかし、どうしてこんなことになっているんだ? 彼女はもっと……」

 

 信じられないといった表情でぼそっと口ずさむ彼は、どうやら昔の彼女を知っている様子だ。


「何故、自分の能力を隠しているのかは知らないが……あの事件の犯人の可能性もある。どっちみち、調べてみないといけないな」


 彼は何かを決意した様子でアイリスの背中を目に焼き付けた後、踵を返し、自分の教室へと戻って行った。

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