秘密地下の薬液
復讐を誓い合ってから数日。
集められた情報によれば、やはりハイゼルク家はかなり混乱しているようだ。
アーデライトが突如としていなくなった。
しかし表だって探すことはできない。
「お嬢様の捜索は、やはり難航しているようですね」
「バカな連中……」
「連中も今は冷静ではないでしょう。バラバラに動くようになった今がチャンスです」
「この付近で一番近いのは、次男のブレイクですね」
「ブレイク・ハイゼルク……あぁ、忌々しい」
筋肉自慢の武闘派。
あの男には殴る蹴るだけでなく、やれロメロスペシャルだの、ベアハッグだの、果てにはブレイクバスターだの、格闘技の実験台のような拷問を受けた。
「戦闘能力は高い。……ですが長男三男に比べれば頭が足りません」
「まずは短調な相手からね」
「僕は準備をしてきます。お嬢様はそれまで」
「私もなにか手伝うわ」
「手伝う、と言われましても……」
「これは私とアナタの復讐。私だけなにもしないなんて納得いかないもの」
「では、お嬢様もこの別荘の探索を。剣や槍以外になにか使えるものがあればいいんですか」
「わかった」
アーデライトは1階を探す。
父母が生前2階に移す前に使用していた旧部屋の前に着いた。
ドアノブを回し、中へ入ると、かすかに優しく懐かしい匂いがする。
「お父様お母様の部屋……馬鹿ね私。こんなところに武器なんてあるはずないのに」
それでも懐かしさからか、歩みを進める。
タンスにベッドに化粧台などが、生前の息吹を感じさせた。
掃除が行き届いているお陰でそれほど埃っぽくない。
「なにもないに決まって────あれ?」
ベッドの下から綿埃がフッ飛び出た。
覗いてみるもなにもない。
気になってベッドをどかしてみると、床の一部分だけ色が違う。
地下へと通じる階段を隠すための蓋だった。
「フルトを呼んだほうが……いえ、私が最初に行かなくちゃ」
フルトだけに任せっぱなしではいけない。
ひとり勇んで下へと降っていく。
一本道の先にあったのは円形の空間。
悪魔や薔薇のレリーフが壁一面にあり、とてもではないが正気の沙汰ではない。
「どうしてこんなものが……。あの真ん中にあるのは?」
女神をあしらった台座。
黒い液体の入ったビン。
「……『大いなる力、破滅と狂気をもたらす栄光の異能。その覚悟を見せよ』……か」
ビンの隣には聖杯めいた、くすんだグラス。
力と聞いてアーデライトは生唾を飲む。
男相手にはどうやっても腕力や体格で劣る。
だがもしもここで圧倒的な異能を手に入れられたら……。
「こんなところに地下への入り口があっただなんて……ん? お嬢様? 待って、早まっては!!」
フルトが駆けつけたときには彼女はもうグラスに注いで飲み干していた。
「うぐ、あがぁああああああああ!!」
「お嬢様! しっかり!」
フルトはアーデライトを担いで寝室へと運ぶ。
「ひどい熱だ……。なんでこんなことを!」
「……力が、欲しいの」
「なんですって?」
「アイツらをやっつける力。フルトと一緒に戦える力が……」
「だからって、あんな怪しいものを……」
「ごめんね。また心配かけちゃった」
「いいえ、今は大事をとってお休みを」
フルトは内心恐ろしくてたまらなかった。
アーデライトが死んでしまう。
また見殺しにしてしまうのではと、いてもたってもいられない。
しかし努めて平静をつくろう。
フルトは寝る間も惜しんでアーデライトの看病にあたった。
「お嬢様、絶対に死なせませんから……絶対に、絶対に、絶対、絶対絶対絶対絶対……」
無意識の内に増殖していく思いが花を咲かしていく中、アーデライトは順調な回復を見せていく。
「あぁお嬢様、ようやくお目覚めになったんですね!」
「色々ごめんなさいねフルト。お陰ですっごく元気になったわ」
次の日にはもうピンピンして、中庭を歩けるようになるまで。
(身体が軽い……それに身体の奥から沸き上がるこの力……間違いないッ!)
丹田に感じる黒いエネルギー。
魔術の心得ななどないが、この異質なものは特別だとすぐにわかる。
「ねぇフルト。ブレイクは今どこにいるかしら?」
「まさかもう行動を!? もう少し養生されては」
「いいえ、いいの。フルトに見せてあげる。私が生まれ変わったってところを」
「……お供いたします。すぐに地図を」