生きた心地
目覚めたときには昼近くになっていた。
夢は見ず、コンコンと眠っていたようだ。
「おはようございますお嬢様」
「フルト……私、どれくらい眠っていたの?」
「丸3日は」
「そう……う、うぅ! ぐす……ッ!」
「お嬢様」
布団に顔を埋めて泣き出すアーデライトに駆け寄るフルト。
彼に背中をさすられながらもベッドから起きて、食堂へと向かう。
「まぁ、豪勢ね。こんなにも美味しそうな食事、久しぶりだわ」
「料理長ほどのものではありませんが」
「ううん、いいの。ねぇアナタも一緒に食べましょう」
「いえ、僕は……」
「お願い。ひとりで食べても寂しいだけだもの。それに、フフフ、こんなに食べきれるかどうか」
「で、では……」
ふたりで囲んで食べる食事。
時折涙を流しながらも味に微笑むアーデライトを見て、フルトは心を痛める。
「とても美味しいわフルト。上達したじゃない」
「恐縮です」
「……ごめんなさい、泣いてばかりね」
「……ッ!」
「今はこんなだけど、安心してね」
「……僕にできることがあれば、なんなりと」
食事も終わり、フルトはひとりで食器を洗っていた。
あのときのアーデライトの無理をした顔が忘れられない。
「心配だな。ちょっと様子を見に行ってみるか」
アーデライトの寝室へと行き、ドアをノックするも返事がない。
鍵は開いている。
中に彼女はいなかった。
こんな時間にどこへ行ったのか。
フルトはハッとなりある場所へと向かう。
「お嬢様、やはりここにおられましたか」
「フルト……」
「それはお嬢様が持つべきものではありません。僕に渡してください」
騎士の間にあった剣。
そして彼女の瞳はこれ以上ないくらいに冷たかった。
「フルト、私は行かなくちゃいけない。私や皆をあんな目にあわせたあのハイゼルク家に……」
「……お嬢様がそれをお望みなら、僕にお命じください。お嬢様の手をあの穢れた魂の血で汚すわけにはいきません」
「ダメよ」
「僕はアナタの一族に仕える身。主人は今やアナタおひとり。すべてを背負わせるわけにはいきません!」
「ダメ!! ……ごめんなさいフルト。復讐を忘れることはできない。奪われたままでいることに、我慢できない。弱くてごめんなさい」
「お嬢様……わかりました」
フルトは止めるのをやめた。
「ですがお嬢様おひとりでそうさせるわけにはいけません。僕も協力します」
「フルト、いいの?」
「命に替えてもお守りします」
「命に替えてもなんて簡単に言わないで。アナタには死んでほしくないから」
フルトの頬を撫でると、案の定彼の顔は真っ赤になって挙動不審になり始める。
「あの、僕は! アナタの執事ですから! そういう子供扱いは……ちょっと」
「ウフフ、ごめんね。……これ」
アーデライトはフルトに剣を渡して、騎士の間を出た。
ひとまず彼女の暴走を止められたことで、ひと息つくフルト。
撫でられた頬の感覚に火照りを感じながら、フルトは彼女のあとを追う。