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黒薔薇の乙女の花言葉

「なんだこの鐘の音は……おいうるせぇぞ! さっさと止めねぇか!!」


 ラベッツの凶刃が振るわれる。

 だが身構えもしないアーデライトには届かなかった。


 正確には目測を見誤り、無様な空振りをするという、本来ならありえないミス。


「な、なに……? クソがぁああ!!」


 妙な気配を感じたラベッツは隣の次元へと逃げ込み、振り向き様に斬撃を繰り出した。


(恐らくなんらかの能力……だが隣の次元からなら、ざっくりやれる!)


 アーデライトのいる座標はばっちり。

 狙いは頸部、思いっきり振り抜いた。


 が……。


「な、また、空振り……しかも、この音は……これはッ!」


 隣の次元には存在しないはずの鐘の音。

 さらには黒薔薇の花弁が無数に宙を舞っている。


「これは、どういうことだ……? 次元を越えて干渉しているのか!? クソ!!」


『無駄よ』


「!?」


『どれだけアナタが追いかけようと、危害を加えようとしても、私に辿り着くことは永遠にない。これが私の、"晩鐘に散る薔(プルス・フォンブル・)薇より暗く(ク・ノートルダム)"……』

 

 どれだけ絶大な支配と恐怖を以てしても、このたったひと握りを薔薇おもいを踏みにじることはできない。

 

 これがアーデライトの新たなる力。

 あらゆる意志や害悪は彼女に触れることすら叶わずに無駄に終わる。


「調子に、乗るなぁあ!!」


 ラベッツは今できうるすべての攻撃を行使する。

 背後からの暗殺も、次元を跨いだ斬撃も、すべて試した。


 だがこの攻撃が彼女を掠めることすらなく、無駄に時間が過ぎていく。


「そろそろ私が攻撃しても?」


(ヤバイ……コイツ、無敵か?)


 今の彼女からどんな攻撃が出るのか、もはや想像もつかない。

 ラベッツは隣の次元、そのさらに隣の次元へと逃げていった。


「もっとだ。もっとさらに奥の次元へ……! 逃げる、逃げるぞ……くそ、どけ!!」


 別次元の世界にいる人々を掻き分けながら逃亡をはかるも、鐘の音と花弁はしつこくつきまとう。


「奴の能力に限界はないのか? 攻撃に関しても、邪魔者は次元の果てでも追いかけ始末する……」


『逃がさない』


「な……!?」


 ひょっこりと現れたアーデライトに肉薄を許してしまった。

 しかも気づいたときにはまったく見たことのない光景が広がっていた。


 まるでそれは宇宙空間のように広大なもので。


「黒薔薇……月……これは、鐘、か?」


「私の黒薔薇にも好みがあるの。アナタのようなゲスを、粉々に切り刻むこと」


「まさか、テメェが、これほどの力を? あり得ねぇ。俺より強い力を持つだなんて、ありえねぇ!! 俺がお前より下だなんてありえねぇ!! お前は獲物なんだ! 獲物が捕食者に逆らうんじゃねぇえ!!」


 咆哮し斬りかかる。

 感情が爆発し冷静ではいられない。


 それを見計らったように、無数の花弁が隕石染みた速度でラベッツに斬りかかった。


「ぬぁぁあああああああ!! バカなぁああああああああ!?」


 グチャグチャと音を立てながら、彼の肉体は斬り刻まれていく。


(やば……次元に、隣の次元に行かなければ……!)


 だが腕も足もズタズタになり、立っていることすらままならない。

 全身の痛覚が限界値を超えて、今にも神経ごと体外へ吹っ飛びそうだ。


「クソがぁぁぁああああ!!」


「この世の塵にしてあげる。さようなら」


(この力は、まだまだ強くなっている……まだ終点じゃあない! だとしたらどこまで……()()()()()()()()()()!?)


 最期の断末魔は惨く、そして悪には相応しく。

 文字通り最期の一瞬まで苦しんで塵にされたラベッツに背を向け、元の次元へと帰っていった。


 愛する人が待つ、あの場所へ。


「アーデ、ライト……終わったのですか?」


「えぇ、ようやく終わったわ」


「成し遂げたんですね……よかった」


 アーデライトに膝枕をされながらフルトは微笑む。

 フルトはそのまま彼女の頬に触れた。


 いかなる力をも退ける能力をかいくぐることができるのはやはりフルトのみ。

 不器用ながらも未熟な愛を懸命に育もうとした彼その人だけ。


「屋敷へ戻りましょう……」


「はい」


「ねぇフルト、私たちずっと……これからもずっと一緒よ、永遠に」


「もちろんです。僕の魂はすでにアナタのもの……」


「私の魂も、すでにアナタのもの……」


 そしてふたりはハイゼルク邸を焼き払い、人知れずその場を去っていった。

 愛の巣へついたときにはもうアーデライトの能力は凄まじいレベルにまで進化していた。


 森全体を黒薔薇と茨の渦が覆いつくし、屋敷があったところには巨大な黒薔薇が咲いている。


 何人をも近づけぬその森は、いつしか黒薔薇の森と言われ、後世まで語り継がれた。



 そしてその中で、ふたりは永遠に邪魔されることなく、愛の感情に溺れている。

 今もなお。



「愛しているわフルト」


「僕もです。アーデライト」


 もはや一体化しているかのような。

 しかし花に囲まれたふたりは確かに幸せそうで。


 アーデライトたちは復讐のすえに、ようやく手に入れた。

 永遠の安寧、誰も穢すことのできない愛の領域を。


 その証明として屋敷の残骸に寄りかかるようにして咲く一輪の黒薔薇が静かに佇んでいた。

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