黒い薔薇の力の先
(く、なんだ、これ……僕の理解を、越えている……!)
異能と異能。
以前のバネッサとの戦いでも苦戦したフルトが真っ向から挑める隙などない。
「なら、一瞬の隙をつく……」
そのときラベッツの背後があいた。
フルトの身体はチャンスだと震え、一気に身を乗り出して刺突を繰り出す。
「ったく、ガキの教育ぐらい……」
(な、避けられた!)
「フルト! 避けて!」
「しとけってんだ!!」
アーデライト以上の判断の速さがフルトの脇腹をえぐりぬいた。
「うぐ、ぁぁああああ!!」
「あぁ~、やっちまった。俺はな、男を殺すときはメアリーではやらないようにしてたんだ。なんでかわかるか? 俺以外の男の血で濡れるなんて気に入らねぇからだよッ!!」
グリグリとフルトの脇腹をえぐったあと、向こう側の壁まで蹴り飛ばす。
「フルト、フルトォオオ!! イヤァァアア!!」
アーデライトは駆け寄る。
ラベッツは刀身についた血を拭うのに必死だ。
今ならまだ彼を逃がせる。
そう思ったが、フルトは彼女の手を握り首を横に振った。
「いけません……アーデライト」
「でも、アナタ、血が……」
「大丈夫……僕なら平気です。でも、復讐を成すなら、今しかありません……」
「復讐も大事よ。でも、それ以上にアナタのほうが……」
「アーデライト。僕は覚悟をしてアナタについてきました。ここで逃げたら、もう奴を再び討つことは余計に困難になります」
「フルト……」
「大丈夫、僕は死にません。約束です……。必ず、ここで奴を……」
乱れる呼吸、辛そうな顔。
しかし覚悟の光はその瞳から消えることはなかった。
その痛みにせめてもの安らぎを。
アーデライトは静かに口付けをかわした。
フルトの魂を許し、包み込むような。
それはまごうことなき誓いであり、幸せへの祝福である。
「フルト、すぐに戻るわ。だからここで待っていて」
「……はい、僕はアナタのしつ……いえ、フィアンセ、ですから」
フルトを広間の端にねかせ、再びラベッツと相まみえる。
「ちょうどよかった……今拭き終わったところだ。やっと落ち着いて殺し合いができるな。見ろ、メアリーも喜んでる」
「そのナイフに私の血がつくことは、もう永遠にない」
「言ってくれるじゃないか。だが俺のこの力に勝ち目はあるのか? 俺とメアリーの愛からは、誰も逃れられない」
猟奇的な笑みはさらに拍車をかけ、周囲の薄暗さに交じり彼をより異形染みさせていた。
だがアーデライトは冷めた瞳でラベッツを一瞥し、一本の黒薔薇を取り出す。
「逃げられない? いいえ、逃げる必要なんてない。……だって私の中はもう、彼との愛でいっぱいなんだもの」
「……あ?」
「恋は終わり、次の季節がやってくる。……さっき理解した。力の先を……」
「テメェなにを言って……」
次の瞬間、ラベッツの耳介に存在するはずのない鐘の音がいくつも鳴り響く。
大小それぞれの音は共鳴し、ときに反響し合い、より高くより大きくなっていった。




