ラベッツの次元
「じゃあ行きましょう」
「はい、……ラベッツ・ハイゼルクは事実上『最強の敵』になるかと思います。今までのようにはいかないかもしれません」
「わかってる」
「あれ~、もしかして、緊張してます?」
「してない! っていうかアナタ物騒なこと言わない!」
「今から物騒なことしようとしてるのに?」
「はい揚げ足取らない~」
そんな会話を挟みながら、ふたりは元ハイゼルク邸へと向かった。
王国により封鎖された屋敷は、静寂と暗黒を孕んでおり、とてもではないが誰かいるとは思えない。
しかも侵入した形跡もないため、ますます違和感を覚える。
だがふたりは進んだ。
玄関ドアまで辿り着き、軋む音をバックに内部へと入った。
「……無人ですね。家具も置物も全部回収されてるみたいですし。とてもではないが罠が仕掛けてあるようには……」
「それが余計に不気味ってやつ? ……ラベッツ、言われた通り来たわ。姿を見せなさい」
アーデライトの声が木霊する。
同時に響くは上品な靴の音。
「必ず来てくれるって信じてたよ」
「お前ッ! どこから!」
「お前……? 目上に失礼だなぁ。ちゃんと指導しないと」
「バカに礼儀は必要ないって教えてるの。特にアナタのような穢れた血にはね」
「ああ、そういうこと言うんだ。折角ふたりそろって歓迎しようと思ったのに……」
「そもそももうアナタの家じゃないでしょ」
「……家に興味なんてない。俺には最高の"女"がいる」
取り出したのはナイフ。
宝石や装飾品でコテコテに彩られた鞘に納められたそれを愛おしそうに撫でる。
「紹介するよ。メアリーだ」
「は?」
「美しいだろう? 刀身も超エロいんだ。コイツには綺麗な服を着せてやりたくてね。ふふふ、金かかっちまった」
「……気持ち悪っ」
「彼女への侮辱は許さねえぞ。ちなみに、メアリーは若い女が好きだ。美しくて新鮮な……血を浴びるごとにすっごく美しくなるんだ。……お前のような女は特に好みだ。是非とも彼女に捧げたい」
「殺人欲求……ほかの兄弟とは違うわけか、ゲスめ!」
「アイツらは女の愛で方を全然わかってない。……恐怖だ。恐怖が美しさをより高い次元へと導く。恐怖を与えてから、サクッと殺すんだ。……苦痛はダメだ。屈辱もだめだ。やるのなら、完全に死を自覚させる。死を身近にさせるんだ」
ラベッツがナイフを引き抜くと同時にフルトは剣を抜いてアーデライトの前に立つ。
「…おいおい、執事がナイト様かよ嫉妬しちまうぜ」
「私に辿り着くことができるかしら?」
「物理的な距離、という意味かな? それには及ばない」
「なんだと?」
「俺の力を以てすれば、どんな堅牢な要塞もすべては無さ」
ラベッツは不適な笑みごと、文字通りその場から消えた。
「え?」
ふたりとも素っ頓狂な声を上げる。
警戒の色が戻ったときには、すでに背後に回られたあとだった。
「フッ!」
「くぅ!!」
アーデライトとラベッツの、逆手持ち同士の腕がぶつかり合う。
「ほう、アイスピックか……。そういうのも悪くない」
「こ、コイツいつの間に……離れろぉ!!」
「おっと失礼」
またしても消える。
子供がカーテンの裏側に隠れるように。
「これは一体……」
「近くにいる。感覚でわかるわ」
「どこです!?」
「正確な位置までは……ただ近くにいるってだけ……」
「物音ひとつ聞こえない……気配を遮断してるのか?」
「わからない。でもこれは」
『気配遮断なんてそんな安っぽいこと言うなよ』
「ど、どこだ!?」
『隣だよ……振り向いても無~駄。俺が言ってるのは"隣の次元"って意味』
隣接する次元世界。
ラベッツは次元を超えた同じ場所に立つことができる。
『俺の感覚は特別でね。うっすらとだが、隣の次元の同じ場所で誰が立っているのかがわかる。隣の次元のハイゼルク家がどうなってるか知ってるか? 完全な焼け跡だよ。……なにがあったんだこれ?』
「そんなことはどうでもいい。そのまま引きこもってるつもり? この世界の私たちに怯えながらね」
『あ~言い忘れてた。俺は次元を飛び越えられるだけじゃない。隣の次元に干渉できる。こんな風に』
ザシュウウウウウウッ!!
「アーデライトォォオオオ!!」
フルトは叫ぶ。
隣の次元から振るわれる見えない斬撃によって、愛しの人の頸部が斬り裂かれた。
我が物顔で現れたラベッツだったが……。
「む、この感触……しかもこれ血じゃなくて花弁じゃないか。おいおい、せっかくの労力が台無しだよ」
花弁で作った分身は崩れ落ち、ラベッツの背後を取ったアーデライトは花弁の渦をまといながらアイスピックで脛椎を刺しにかかる。
「困ったお嬢さんだ」
ラベッツは再び消えてやり過ごす。
アーデライトは周囲に気を巡らせながら察知しては回避し攻勢に移るなどして華麗な立ち回りを見せた。
これまでにつちかった技をふんだんに駆使して、アーデライトは最後の悪魔に立ち向かう。




