ラベッツの狂気
サングリア・ハイゼルクとの戦闘からおよそ一週間後。
彼は裁判ののち、処刑台へと送られた。
代々続いた家はお取り潰し。
そのすべてを陰から見た彼女は極めて爽快だった。
「やりましたねアーデライト。あの忌まわしき一族をついに……」
「まだよフルト。三男のほうも片付けてしまわないと」
「わかっています。ですが、今さら奴にできることなんてありませんよ。身内が死んでも戦かわずにずっと逃げ回っているような奴です。おまけに、指名手配までされていますので、見つかって処刑されるのは時間の問題ですよ」
「そう、ね」
しかし思惑とは裏腹に、ラベッツ・ハイゼルクの足取りはまったくといいほど、掴めないままだった。
アーデライトたちだけでなく、国中が彼を探している。
中には裏社会の情報網を駆使して探している者もいるが、表と裏、一切網に引っ掛からないのだ。
「奇妙ね……」
「野垂れ死に、というのは?」
「間抜けな死に方。そのほうが楽でいいけど、恐らくそうじゃない」
アーデライトはサングリアの最期の言葉が気にかかっていた。
ラベッツはこのようなことになることがわかっていたのではないか。
次男ブレイクが殺され、アーデライトがパーティーに赴いたそのときから。
(そういえば私が痛め付けられていたとき、あの男はずっと見ているだけだった。まるでつまらなそうに……今まですっかり忘れてたけど……それが妙に不気味ね)
もしまだ生きているとしたら、奴はなにかを企んでいるに違いない。
ブレイクやサングリアとは違う邪悪な気配を、アーデライトはひしひしと感じとる。
そして事件は起きる。
屋敷で助けた女性たちが次々と殺されていったのだ。
血の文字でアーデライトを誘い込むような演出までして。
「犠牲者は4人、そして血の文字……」
「黒薔薇の乙女へ……ですか。こちらを誘い込んでいるようですね。どういうことなのでしょう……」
「わからない。十中八九ラベッツでしょうけど……貴族の令嬢まで、一体どうやって」
護衛の付けられない村娘は狙えたとしても、これまでより厳重な警備をしいている令嬢まで毒牙にかけている。
にもかかわらず、侵入の痕跡すら見せずに、意図も簡単に殺人をやってのけていた。
「……奴の能力、でしょうか?」
「ハイゼルク家の血が生んだ力……最後に厄介な奴が残ったわね」
「えぇ、でもこれで本当に最後です。我々の悲願がようやく」
「ここからが正念場ね。ラベッツがこんな風に暴れるってことは奴は相当焦っている。必ずどこかでボロを出すはず……たとえば、自分を探している者を始末するとか」
「それは一体……?」
それはある場所、ある時刻。
使者の魔術師が霧の立ち込める街を歩いていたとき、その凶刃は振るわれる。
ザシュッ!!
「かはぁ!」
魔術師が倒れるのを見て薄ら笑いを浮かべるのはラベッツ。
右手に煌めくナイフを歓喜とともに掲げていたときだった。
「これは……ッ」
魔術師の肉体が崩れ落ち、ただの花弁へと変化していく。
人間として狙った獲物が、まさか見覚えある花とは夢にも思わなかった。
「まさかこの女……アーデライトの。なるほど、これで俺の大体の居場所を掴んだってわけだ。まずったな……」
気怠げにナイフを眺め血がついてないことを確認したあと夜空を見上げた。
「誘き出して殺してやるつもりだったが、どうやら網にかかったのは俺らしい……あのねーちゃん、相当頭がキレるな」
悔しがるどころか笑みをたたえ、今の状況を楽しんでいる。
輝く瞳には人間味が一切感じられない。
理性的に見えて猟奇的。
それが彼の心の正体であり、一族最凶の能力の持ち主である。
しかし、彼はこれまで一度もその能力を人前で披露したことはなかった。
今こうしているように、他人に縛られず好き勝手に使いたいから……。
「こっちの挑発をまんまと利用するだなんて……これは『挑戦』ってとらえていいのかな? うん、いいだろう」
ラベッツはこれ以上まどろっこしいことを止めて、アーデライトとの直接対決を望んだ。
今は彼女に敬意を示し、姿を隠すこととした。
近いうちにコンタクトを取る。
彼は文字通り、霧のように消えた……。
それから一週間、犠牲者はピタリと止んだ。




