長男、社会的に穿つ。
「ごきげんよう。サングリア・ハイゼルク様……相変わらずドグサレの巣窟にはもったいなくらいの内装ですね」
「現れたか、アーデライト……なぜお前がこの屋敷から抜け出すことができたのか、そしてどうやってブレイクや傭兵を殺したのか……今となってはもう確かめようもない」
「無能」
「貴様……ッ。俺の能力を忘れたわけではあるまい」
「あの趣味の悪いやつね。お人形遊び」
サングリアの背後からワラワラと現れる子供ほどの大きさのヒト型。
かつて捕まったとき、あの人形たちは這いずるように自分の身体にまとわりついたことを思い出す。
「悪いが、今度は本気だ。俺の人形は拷問も戦闘も一流だぜ?」
「お人形遊びでイキがりたいのなら、もっと小さいときにやってくれないかしら?」
「なめやがって。激しく後悔しながら死ね!!」
人形と黒薔薇がぶつかり合う。
人形がメチャクチャになりながらも、アーデライトを殺そうとのたうち回っていた。
「これが貴様の力か!」
「……アナタの力は弱いわね。過去最低じゃない?」
「なめやがって!!」
威力こそアーデライトのものより下だが、数としつこさで言えば互角か。
「クソがぁ!!たかが花びらに……」
「あら、薔薇をそんな風にいうだなんて、風情がなってないわね。脳みそまで一族最低なのかしら」
「舐めた口利いてんじゃあないぞクソアマがぁあ!! 折角お前もほかの女と同じくドールみたいに美しく仕立ててやろうと思ったのに!」
「なんですって……」
「俺の人形たち、可愛いだろう? 女をいたぶり、従順にさせる。そして人形たちの家族になってもらう。年齢によっては母親。お前みたいに若ければ姉といった感じか。素晴らしいぞぉ? 彼女たちが人形を抱き、人形が彼女らを抱く姿は」
だがもう昔の話になってしまったとサングリアは人形を操る力を止めない。
人形に痛覚はない。
もちろん触覚も、嗅覚もないだろう。
ごっこ遊びに渦巻く渇愛。
求める行為はしょせんは人形を通してでしか得られない。
そんなものが本体であるサングリアを満たせるはずがないのだから。
「哀れで、気持ち悪い人」
茨と花弁が彼女に密集していく。
それに注意が向けられた、そのとき。
「死ねいサングリア!!」
伏兵フルト。
剣を突き立てるように横の柱から飛びかかった。
「……俺が気がつかないとでも思ったか?」
サングリアのドス黒い声と視線がフルトを射ぬくと半数の人形たちが飛びかかる。
「残念だったな!! 折角の伏兵作戦が台無しだぜ。ギリギリまで見逃してやったのはなぁアーデライト! お前に絶望を与えてから殺すためだぁ!」
人形たちの刃がフルトを串刺しにしていく。
────勝った!! そう思いニタリと笑んだ。
「……伏兵を見破った。まぁそれだけの知能があったのは褒めて上げるわ。むしろ、引っ掛かってくれないと張り合いがないっていうか」
「なに? おい、なぜお前は絶望しない?」
「やっぱりなにも見抜けてないのね。表面のところだけ見て、裏のほうまで見ようとしない」
「なにぃ!? ────ハッ!」
絶望するどころかさらに澄ました顔をするアーデライトに恐怖を抱くサングリアであったが、ここで『異変』に気づいた。
「な!? さっきの伏兵のガキ……あれは人間じゃない! 茨と花弁が作り上げた精巧な人形だ! 幻覚まで使って人間に似せてやがったのか……ッ!」
フルトに思わせたのは彼女の力で作った影武者。
突き刺された部分からは茨が伸びていくつもの人形を拘束する。
「く、だが……まだだ! まだ俺の攻撃は……」
「だから表面のところしか見れてないって言ってるのよ。わからない? 半数に減ったとはいえ、アナタは人形の数を正確に把握しているの?」
指を鳴らすと、サングリアの真近くにいた人形に数体がグルンと彼のほうを向いて飛びかかる。
持っているのはアイスピック。
容赦なく身体の至る部位に突き刺して、身動きをとれないようにした。
「う、ぎゃぁあああああああ!? な、なんで、なんで俺の人形が!?」
「わからない? それも私が作った薔薇人形。最初のぶつかり合いのときに紛れさせて、人形に化けさせた。ネチネチしつこいのが仇になったわね。お陰でそうする時間はたっぷりあった」
「きさ、貴様……ッ!」
「今ごろこの屋敷に囚われた女性たちは私の執事とあと3人の手で救われていると思う。……動かぬ証拠が出てきてしまったわね」
「そんな……俺は、俺はどうなる!?」
「……殺さない。アナタは公の場で裁かれるの。ハイゼルク家は歴史の汚点として姿を消すのよ」
「そんな、まさか、嘘だ! ……いや、待て、まさか『アイツ』……それをわかって先に……」
「……?」
「ぬ、ぬぁあああああああああ!!」
最後は発狂したようでその場にガクリと崩れ落ちた。
無力化し床に転がる人形たち同様、その瞳に生気はなくなる。
「……残るはひとり」
アーデライトは踵を返し、救護した女性たちを街へと送り届ける。
彼女らは感謝するも、アーデライトは名前を教えなかった。
代わりに全員に黒い薔薇を持たせる。
それを助けられた証にして、騎士たちに説明せよと。
わかる者だけにわかる、彼女の象徴である。




