星月夜
想像を膨らませるのが良いものだ。
人物
桧野 逸月
枡 駿介
西室 維純
白壁 美羽
夜空一帯が自分たちだけのものとなる。星と星とを線で繋いでゆけば、なんだかそんな気がしてくるのだ。「あれは何に見える」と言ったところでそれは自分だけのものだが、小さい間はそうやって想像を膨らませるのが良いものだ。
一際目立つあの星々はどうだろう。よく見てみると四角形に思えてきた。まるで自分たちのようじゃないか。
維「もう帰んなきゃだめかな」
逸「今何時だろー」
駿「まだここにいたいなあ」
美「だよね、ずっといたいくらい」
維「あ、あれハートみたいじゃない!」
美「どこどこ?」
維「ほらあそこらへん」
駿「あれか!何か渦巻きみたいにも見える」
維「あー確かに!」
逸「それの近くにさ、ダイヤみたいなの見えない?」
駿「え?」
逸「すぐ左側」
駿「槍の先端みたいな?」
美「矢印っぽいやつ?」
逸「そうそう。四角形だし、何か僕たちみたいだね」
駿「おいおいロマンチストかよ」
維「ははっ!いいじゃん、それ」
逸「恥ずかしいなあ」
維「面白、あー笑った!」
美「さすがにそろそろ帰る?」
駿「そうだな」
維「また明日ー」
逸「ばいばーい」
家の近所には無駄に広い高台があって、そこで四人で遊ぶのが普通だ。こんな風に遊んでから寝るのが段々当たり前になってきていて、よく時間を忘れてしまう。
それも過去のことで、今はそれぞれ別の道を進んでいる。連絡はよくするからそこまで疎遠には感じていないけど、偶に昔を思い返してみると、みんな大分変わったと思えて少し寂しくなる。今日も通話で近況報告だったり四方山話だったりする。
駿「おい逸月、最近はどうよ?」
逸「まぁまぁかな、これと言って嫌なこともないし」
維「ちょっとーそう言うのいいから」
逸「いや、本当のこと言っただけだし」
美「じゃあ維純はどう?」
維「私はー、大学の友だちと毎日仲良くやってるよ。最近は誕生日パーティもしたし!」
駿「平凡って感じだな」
逸「うんうん」
維「はぁ?じゃあ駿介は」
駿「俺はバイト始めたよ」
美「何の?」
駿「いや、別に普通にコンビニで」
維「何だー、駿介の事だからもっと派手なとことかかと」
駿「まぁな、それもいいかと思ったけど無難に?」
維「らしくないなー」
逸「ははっ似合わな」
駿「何だよそれ!じゃあ美羽とかどうなんだ?」
美「私は特にないかな、絵とか好きなことやってる」
維「美羽って感じ」
逸「良いじゃん」
こんな他愛ない話ができるだけ嬉しい気持ちになれる。やっぱり声を聴くって結構安心する。
駿「なぁなぁ、今度みんなで何処か遊びに行きたく無い?」
維「え、めっちゃ思った!何処行く?」
美「みんなで里帰りとかは?」
駿「おっそうする?ナイス美羽」
美「へへっ、久しぶりに星繋ぎでもしようよ」
維「うわっ、久々に聞いたわそれ」
逸「おぉ、いいなぁ楽しそう!絶対盛り上がるじゃん」
美「いつぐらいにするー?」
という具合で9月に里帰りが決まった。丁度紅葉も始まる頃だろうし、もう胸が弾む。
そしてこの日が遂にやって来た。皆んな雰囲気もすっかり大人になって、時の流れを一層強く感じた。懐かしい空気は少し肌寒かった。いや、そうでもないか。
ふと目に入ったのは、駿介の首から下がったネックレス。金色の角の鹿があしらわれた小判型の飾りがついたネックレスだ。それはかなり小さい頃に僕が彼にあげたものだった。今も大事に持っていてくれたんだ、と嬉しい気持ちになれた。維純は相変わらず元気で背もかなり伸びていた。美羽も昔と同じ猫背で、変わったのは眼鏡をかける様になった事ぐらいだ。
駿「逸月、久しぶりに来てみてどうだ?」
逸「ほんと懐かしいよなぁ、なんか、すげぇ」
駿「ははっ」
維「懐かし過ぎるーっ」
美「ちょっと町見て回ってみたくない?」
逸「おぉ、そうしよう!」
維「よし、じゃあ行こうか」
美「うん!」
町は案外変わらずに残っていて、歩くたびに、此処でこんな事があった、なんて思い出話で溢れかえった。楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、気がつけば既に5時を回っていた。そのまま外食をする事になって、そこでもまた話に花が咲いた。更には最近の話になって、友人のちょっとした愚痴だったり嬉しかった事だったり、兎角様々な話が目まぐるしく宙を飛び交った。
そして9時を回り、漸く本格的な寒さが押し寄せて来た。だがそれをお構いなしに、僕たちは以前の様に無駄に広い高台へゆき、星繋ぎをするのだった。
美「やっぱり、此処から見る夜空って綺麗だね」
駿「そうだな」
逸「月出てないのにね」
美「なんか幻想的」
維「そういえば聞き忘れてたんだけど、みんな昔の夢って叶った?」
駿「俺は夢変えたからなー」
美「多分ね」
逸「僕は、叶った…のかな?」
維「私はまだ何だよねー、って言うか、もう叶いそうに無いかな…」
美「あぁー、そう言うことね」
維「分かっちゃった?」
美「なんとなく伝わった」
逸「どういうことだよ!」
駿「あ、あそこにWがある」
維「ん?あ、ほんとだ」
美「ばってんもある」
逸「Xか。じゃあYもあるかな、なんて」
維「あっ、Y」
逸「まじか、ほんとだ!」
駿「あー、Zがうまくできない!」
逸「Zねぇ、どこにあるんだろうね」
美「うーん、見つからないなぁ」
維「別にアルファベット見つけようって訳じゃないでしょー」
駿「でも此処まで来たらっ」
逸「見つけたくなるよね!」
維「ははっ、なんか子供みたい」
美「いいじゃん、今日ぐらい」
駿「なんかさ、槍の先端みたいなの見えない?」
美「矢印っぽいやつ?」
駿「そうそう。四角形だし、何か俺たちみたいだな」
維「おいおいロマンチストかよ。まぁ、でもいいじゃん、それ」
駿「逸月もちゃんと入ってるよな?」
逸「当たり前だろ!何変な事言ってるんだよー」
美「入ってるよ、絶対」
逸「だよなー」
維「うん、当たり前だよ」
駿「だよな」
逸「皆んなノリいいなぁ、そういうの好きだよ」
僕は目の上に屋根を作る様に、遠くを見つめる様に手をかざしてその四角形を眺めた。そしてその四角形の内の少し飛び出た星に、泣きながら笑みを送った。なんだか自分みたいに見えるのだ。他とは別れているから。もう此処には居ないから。
了