98.かつての彼女は
私達は、一つの部屋に集まっていた。これからのことを話し合うためである。
「まず、エルーシャさんにお聞きしたいのですが、ルミーネという女性はどのような人なのですか?」
「どのような人、ですか……」
「ええ、ルルメアさんからお聞きしましたが、彼女はあなたの部下だったそうですね? そんなあなたから見た彼女のことをお聞きしたいのです。それがもしかしたら、彼女の目的を解き明かすことに繋がるかもしれませんから」
最初にケルディス様は、エルーシャさんにルミーネのことを聞いた。
それは、以前話していたことだ。当然、聞くべきことだろう。
「ルミーネは、真面目な女性でした。穏やかで、どちからというと臆病、そんな印象の女性でしたね」
「そうですか……確か、ルルメアさんも同じようなことを言っていましたね?」
「はい、そうですね……」
エルーシャさんの語るルミーネは、大方私の印象と同じだった。
やはり、彼女は真面目で穏やかな女性だったようだ。ただ、それは今の彼女とはまったく異なる性格である。
「ルルメアさんやドルギアから聞いたこちらの王国での彼女とは、やはり印象が違いますね」
「その時の彼女は、猫を被っていただけということなのかもしれませんね」
「エルーシャさん、どう思いますか?」
「どう思うか?」
「ええ、あなたから見て、その彼女は本質的にそういう性格だと思いましたか? 裏があるなどと感じませんでしたか?」
「そうですね……」
ケルディス様の言葉を受けて、エルーシャさんは考えるような仕草を見せた。
人に裏があるかどうか、それは難しい質問だろう。ただ、演技というのはその道のプロでもなければ、ぼろが出そうなものだ。その素振りを、もしかしたらルミーネも見せているかもしれない。
「……これは、ルミーネだけに限った話ではありませんが、当時のズウェール王国の魔法関係の職員は、その待遇に不満を持っており、そのことについて愚痴を言うことがありました」
「ええ、ズウェール王国のその辺りがひどい状態だったということは聞いています」
「彼女も、時には愚痴を言うことがありました。その時の彼女の様子は、いつもとは違い、少し恐ろしかったような気がします。ただ、先程も言った通り、それは彼女だけには限りませんから」
「なるほど……」
ルミーナの様子が変わったのは、ズウェール王国への愚痴を述べた時のようだ。 だが、それは別におかしいことではない。いくら穏やかで臆病だったとしても、愚痴くらいは言うだろうし、その時に様子が変わるのは、当たり前のことである。