表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/120

94.強かったなら

 私は、スライグさんとともにベランダに出てきていた。

 少し風に当たりたいと言った彼に、私が同行したのである。


「いい風ですね……」

「ええ……」


 ベランダには、温かな風が吹いていた。穏やかな風だ。浴びていると、なんだか落ち着ける。


「正直な話……僕は、自分が少し情けないと思っているんです」

「情けない?」

「ええ……」


 そこで、スライグさんはそんな言葉を呟いた。

 情けない。その言葉の意味が、よくわからない。一体、何が情けないというのだろうか。


「僕には、戦う力がありません。それが、情けないと思ってしまうんです。僕がもっと強ければ、あなたを守れたのかと思うと……」

「スライグさん……」


 スライグさんが重々しい口調で、そう語り始めた。

 どうやら、彼が自分を情けないと思ったのは、私を守れないからのようだ。

 その考えは、驚くべきものだった。まさか、そんなことを言われるとは思っておらず、私は大いに動揺してしまう。


「そ、そんなことは、ありません。スライグさんは、私のことを守ってくれています。このアルヴェルド王国に来た時から、あなたはずっと……」

「いえ、今回の出来事で痛感しました。結局の所、僕はあなたの前に立ち、守ることはできない。武芸を学んでいれば、そう思ってしまうんです」


 スライグさんは、真っ直ぐな目でそう言ってきた。

 彼は、相変わらず真面目である。私を直接守れないことを、そこまで気にするなんて、普通ではない。

 それは、きっと彼の気質なのだろう。どこまでも真っ直ぐで真面目、それが彼なのである。

 だが、流石にそれは背負い過ぎだ。彼は、充分私の力になっている。それ以上を求める必要なんてないのだ。


「スライグさん、あなたはその商人としての力で、私を助けてくれています」

「いえ、それは僕にできることをやっているまでです」

「それで充分なんです。それ以上なんて……」


 スライグさんには、アルヴェルド王国に来た時から、ずっと力になってもらっている。

 それは、彼の商人として育ってきたものによって、助けてもらったといえるだろう。

 武芸の道を進んでいれば、それはまた違った結果になっていたはずだ。彼の言っていることは、無理がある。全てを取ることなんて、できる訳がないのだ。


「頭ではわかっているんです。でも、それが受け入れられないんです。もっとなんでもできたなら、そう思うんです」

「それは……」

「それは、欲張りなのかもしれません。でも……」


 スライグさんも、自分でも私が思っているようなことは理解しているらしい。

 しかし、それでもそう思ってしまうのだろう。

 本当に、彼は芯から真面目である。私は、改めてそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ