93.変わらない様子
スレイグさんとセレリアさんのことを信用したのか、マルギアスさんは部屋から出て行った。積もる話もあるだろうと、席を外してくれたのだ。
という訳で、客室には三人が残っている。なんだか、懐かしい気分だ。
「二人がここにやって来るなんて、本当に驚きましたよ」
「それは、そうですよね……私も、兄さんがこの別荘に乗り込むと言った時には、驚きましたから」
「え? そうなんですか?」
「はい、そもそも騎士団の機密を調べたことも、驚きでしたから……」
「なるほど……」
どうやら、今回の出来事は、スライグさんが発端だったようだ。セレリアさんの顔からは、振り回された感がにじみ出ている。
だが、よく考えてみれば、彼女の役回りはいつもそんな感じだった。ズウェール王国に旅行に来た時もそうだったのである。スライグさんが発端で、セレリアさんは強制的に同行させられたのだ。
「セレリア、あまり余計なことは……」
「兄さん、別に余計なことではないでしょう? 事実なんだから」
「それは、そうだけど……」
「そもそも、私がここに来ることになったのは、兄さんが一人では辿り着けないからなのだから、少しぐらい愚痴を言ってもいいでしょう?」
「うっ……」
スライグさんは、方向音痴である。そのため、セレリアさんが同行しなければならないのだ。
もっとも、それは別に彼女ではなくてもいいはずである。同行している時点で、彼女もきっとこういうことが好きなのだろう。
「言っておくけど、私はここに来るのに滅茶苦茶緊張していたんだからね?」
「いや、それは僕もそうだが……」
「兄さんは、先に覚悟を決められたじゃない。私は、それができなかったのよ? 急に決められて……」
「それは……悪かった」
セレリアさんの怒りに、スライグさんは目をそらした。
相変わらず、彼の立場は弱いようだ。そういう変わらない所に、思わず笑みを浮かべてしまう。
「ル、ルルメアさん? どうかされましたか?」
「あ、いえ、二人が変わらなくて、なんだか安心してしまって……」
そんな私の様子に、スライグさんとセレリアさんがこちらを向いてきた。
笑ってしまうのは、失礼だったかもしれない。しかし、どうしても笑みを浮かべてしまうのだ。
「変わらない、ですか……まあ、確かにそうかもしれませんね」
「まあ、私も兄さんもいつも通りではありますね……」
そんな私に対して、二人は笑顔を浮かべてくれた。
そのように和やかな時間を、私達はしばらく過ごすのだった。