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9.馬車に揺られながら

「……そういえば、あなたに一つ聞きたいことがあったのです」

「え? なんですか?」


 そこで、スレイグさんはそのように切り出してきた。もしかして、自分の方向音痴の話から、強引に話題を変えたいのだろうか。


「あなたの名前を聞いた時から思っていたのですが、確かこの国の聖女と呼ばれる重要な役職に就いている人の名前も、ルルメアだったと思うのです」

「え?」


 笑っていた私は、スレイグさんの言葉に固まってしまった。まさか、そんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。

 アルヴェルド王国の二人になら、別に本名をばらしてもいい。そう思っていた私は、とても浅はかだったようである。


「そ、そうなんですよ。よく言われるんですよね、聖女様と一緒の名前なんて、ご利益があると」

「やっぱり、そうなんですね……」

「え、ええ……」


 私は、冷や汗をかきながら誤魔化した。

 別に、名前が同じだからといって、私が聖女であるとは繋がらないだろう。そう思って、私は適当なことを言ったのだ。


「まあ、まさか聖女がこんな所にこんな時間にいる訳はありませんし、偶然同じ名前の人に出会ったというだけですよね?」

「え? ええ、そうですよ。まさか、私が聖女だと思っていたんですか?」

「兄さん、正気? ルルメアさんはアルヴェルド王国に向かっているのよ? 聖女が移住なんてする訳ないでしょう?」

「ああ、確かに言われてみればそうだな」


 私の説明に、二人は納得してくれたようだ。

 その反応に、私は少し安心する。ばれなくてよかったと。

 ただ、よく考えてみれば、これからこのズウェール王国には聖女がいなくなったという事実が広まるだろう。

 そうなると、私と結びつくのは時間の問題なのではないだろうか。


「ルルメアさん? どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもありません」


 私の正体、それはいずれ判明することなのかもしれない。

 ただ、それを私は今すぐに明かそうとは思わなかった。なんというか、少し怖いのである。

 それは、二人の態度が変わるかもしれないとか、そういうことではない。私は、あの忌まわしき日々のことを口に出すことで思い出すことを恐れているのだ。

 私は今、それを理解した。あの日々を、私は忘れたいと思っているのだ。


「さて、この馬車は何時間くらいで次の場所へ行くんですかね?」

「ざっと、一時間くらいじゃないでしょうか?」

「そうですか……長い旅になりそうですね」

「……兄さん、行きも反対のに乗ったでしょう?」

「……ああ、そうか」


 私達は、馬車に揺られながら、そんな会話をしていた。

 これからの旅路で、このように話せる人がいるという事実が、私はなんだかとても嬉しかった。

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