84.浅い関り
「勤務態度は、至って真面目でしたし、優秀な人材だったと思います。ただ、あまり目立つような人ではなかったかもしれません。どちらかというと、縁の下の力持ちというか、そんな感じの穏やかな人物でした」
「今の彼女とは、少し違うようですね……」
「ええ、そうですね。今の彼女とはそれなりに差があると思います」
部下だった頃の彼女は、今のような感じではなかった。もっと大人しく内向的な女性だったのだ。
聖女の元で働くくらいなのだから、優秀な人材だったのは間違いない。だが、特筆する程ではなかった。少なくとも、今程の魔力はなかったはずだ。
「……正直な所、私は実際にそこまで彼女と関わっていた訳ではありませんから、詳しくわかる訳ではないんですよね」
「そうなんですか?」
「ええ、まあ、ある程度は知っていますが、彼女は私の部下の部下くらいの立場でしたから……」
「なるほど、確かに聖女というのは魔法関係の最高責任者ですから、関わる人は限られていたということでしょうか?」
「そうなんです。まあ、少しくらいは知っていますけど、彼女の人となりとか、もっと深い所に関しては、少し微妙な認識になっていると思います」
ルミーネは、確かに私の部下ではあった。
ただ、私の部下にあたる人物は数多くいる。その全員を私がきちんと把握できていたかといわれると、それは微妙な所だ。
もちろん、それなりには関わっていたので、先程言ったこと程度の認識はある。だが、それ以上となるとわからないのだ。
「……彼女に関する手がかりは、今は少しでも欲しい所です。あなたの部下で、彼女のことをよく知っている人物に心当たりはありますか?」
「そうですね……私の直属の部下、エルーシャさんという女性なら彼女のことを知っているかもしれません。ルミーネは、彼女の部下でしから」
「そうですか……わかりました。こちらで、その方と接触をしてみます」
私の言葉に、ケルディス様はそんなことを言ってきた。
エルーシャさんと接触をする。それを簡単に言う彼に、私は驚いていた。
「そんなに簡単に接触できるんですか? 今は、あちらの国は大変な状態だと思うんですけど……」
「問題ありません。アルヴェルド王国の騎士は優秀ですから」
「そ、そうですか……」
どうやら、私が難しいと思っていたことは、そうでもないことのようだ。
目の前の人物は、爽やかな笑みを浮かべている。だが、その笑みに私は少し恐ろしさを覚えるのだった。