69.騎士の過去
「さて、これで私の話は終わりです。何か、参考になりましたか?」
「ええ、やはり、何事にも必死に向かって行く精神が大切なのだと、学ばせていただきました」
「……私のは、そんな立派なものではないと思いますけど」
「いえ、そんなことはありません」
私の暗い話を聞いても、マルギアスさんはとても真っ直ぐだった。
そんな彼は、すごいと思う。どうして、彼はこんな感じなのだろうか。私は、それがだんだんと気になるようになっていた。
「せっかくですから、マルギアスさんの話も聞かせていただけませんか?」
「え? 私の話ですか?」
「ええ、私も気になるんです。あなたが、どのように騎士になったのかが……」
私は、マルギアスさんに過去のことを聞いてみることにした。今の流れなら、自然にそれが聞き出せると思ったからだ。
彼がどうしてこんな人間なのか、それを聞けば知ることができるかもしれない。
もっとも、生まれつきこんな感じだったという可能性もある。だが、それならそれでもいい。どの道今は暇なので、話の種があるだけで充分だ。
「わかりました。話してもらったのですから、こちらも話すのが礼儀というものですね……まあ、私の話も、もしかしたらつまらないものかもしれませんが」
「マルギアスさん、それは……」
「はは、今やっとルルメアさんの気持ちがわかりました。自分の過去というものを自信を持って話すなんてできませんよね」
マルギアスさんは、そう言って笑っていた。
どうやら、自分が話す立場になって、私の気持ちがよく理解できたようだ。
そんな彼に対して、私も笑みを浮かべる。なんだか、おかしかったのだ。
「私が騎士を志したのは、ある出来事があったからです。小さな村に生まれた私は、両親とともに普通に暮らしていました。貧しいながらも、幸せな生活でした。普通の農民だったといえるでしょうか」
「そうですか……」
マルギアスさんは、農民出身の騎士であるらしい。
それは、中々珍しいかもしれない。騎士というのは、大抵それなりに裕福な家庭の者がなる職業だ。マルギアスさんのような農民出身の騎士は、少ないのではないだろうか。
「ある時、その村に山賊が現れました。近くの山で暴れ回っていた者達が、下りてきたのです。彼らは、村を支配しました。逆らったら殺す。そう脅して……」
「そんな……」
「絶望的な状況でした。あの時は、本当に怖くて怖くてたまらなかった……でも、そんな時に助けてくれる人達がいたんです」
「それが……」
「ええ、騎士だったんです」
マルギアスさんは、そこで笑顔を見せてくれた。それは、希望に溢れた笑顔だ。
恐らく、当時の彼にとって、それは救世主だったのだろう。それが、その表情から読み取れる。
私は理解した。彼が騎士を志したその理由を。