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49/120

49.気にしない彼

 私は、トゥーリンの定食屋で働いていた。

 とても厳しかった昼間を終えて、今は夕方だ。そのため、少しだけ落ち着いている。

 そんな定食屋に、落ち着けない人が来た。それは、ドルギアさんである。


「おっさん、あんなことがあったのに普通に来るのかよ」

「なんだ? 悪いか?」

「いや、悪いとは言わないが……」


 私もナーゼスさんも、彼には少し呆れていた。あれだけのことがあったのに、普通に店に来るというのは、少し驚きである。


「そもそも、俺とお嬢ちゃんは何かあった訳ではないだろう?」

「え?」

「だって、俺はお嬢ちゃんに友好的に少し話を聞いていただけだ。そうだろう?」

「それは……そうですけど」


 ドルギアさんの言葉に、私は反論できなかった。確かに、私はそのように体裁を保っていたからである。

 ただ、それが嘘であるということは、ナーゼスさんも含めて皆わかっていることだ。それを言うのは、少々卑怯ではないだろうか。


「大体、どんな事情があったとしても、どうして俺が行きつけの店から離れなきゃならないんだ。今の俺は、プライベートで来ている。それでいいだろう?」

「おっさん、この間はプライベートと見せかけて、そうじゃなかったじゃないか」

「今回はそうじゃない」

「それが、信頼できるかは微妙な所だな」


 実際の所、ドルギアさんがどういう理由でここに来たのかはわからない。

 私の監視が目的である可能性もある。だが、彼が言っている通り、プライベートという可能性もあるのだ。


「言っておきますけど、別に逃げるつもりはありませんよ」

「わかっているさ。お嬢ちゃんは、逃げない。こんな風に、監視する必要なんて、本来はないんだ」

「おい、おっさん、今監視って言ったな?」

「言葉の綾さ」


 私達に対して、ドルギアさんは楽しそうな笑みを浮かべる。彼のいつもの笑みだ。

 その笑みの裏に何があるのかは、案外わかりにくい。彼は今、どういう気持ちで楽しんでいるのだろうか。それは中々、気になる所だ。


「まあ、俺がどのように考えているにしろ、まさか何もしていない客を摘まみ出すなんて真似はしないよなぁ?」

「それは、もちろんそうだが……」

「それなら、普通に接客してくれよ。いつも通り、ただの常連としてな」

「まあ……仕方ないか」


 ドルギアさんの言っていることは、正論である。彼が何を考えていても、私達は普通に接客するしかないのだ。


「それじゃあ、いつものよろしく頼むぜ、ナーゼス」

「わかったよ」


 ドルギアさんの言葉に、ナーゼスさんはゆっくりと頷いた。

 こうして、私達は少し警戒しながら、ドルギアさんの接客を行うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何もしてない客どころか朝から待ち伏せてたキャスなんだから出禁にしてもいいだろ 
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