37.疑いの目(モブ視点)
アルヴェルド王国の第三王子ケルディスは護衛であるドルギアとともに、トゥーリンの定食屋を後にしていた。
「いやあ、今日もうまかった……王子、どうでしたか?」
「ええ、素晴らしい料理の数々でした」
ドルギアは、この店の常連である。王都からそれ程離れていないグランゼンの町に訪れては、この定食屋で昼食を取っているらしいのだ。
その店に、ケルディスはお忍びで連れて来てもらっていた。
それは、単純に仲が良い部下の行きつけの店の味に興味があったからである。だが、理由はそれだけではない。
「しかし、どうですかね……あのお嬢ちゃんが、ズウェール王国の聖女なんでしょうか?」
「さて、どうでしょうかね……」
ケルディスとドルギアは、ズウェール王国の聖女がアルヴェルド王国に来ているという噂を聞いていた。その聖女の噂を辿っていくと、彼女はこのグランゼンにいるようなのだ。
そのため、ケルディスはドルギアに行きつけの店に連れて来てもらうことも含めて町に来た。ズウェール王国の聖女のことを把握しておくことが、国益に繋がると信じて。
「まさか、あそこで件の聖女らしき人と会うとは思っていませんでしたが……」
「まあ、それはそうですね」
二人が、聖女らしき人物と会ったのは、偶然だった。元々来る予定だった店に、偶々それらしき人物がいたのである。
「顔も名前も、前職の話も、全てが彼女をズウェール王国の聖女だったと示しています。ですが、本当にそうなのでしょうか?」
「やっぱり、変だと思いますか?」
「ええ、もし聖女がこちらの国に来ているなら、偽名くらいは使いそうなものではありませんか」
「まあ、そうですよね……」
「赤の他人ということもあるのかもしれません。世の中には自分に似ている人が三人はいるといいますから」
二人は、トゥーリンの定食屋にいた女性が、ズウェール王国の聖女ルルメアなのかどうか、少し考えていた。
様々な要素は、彼女がルルメアであることを示している。だが、示し過ぎているため、彼らは逆に疑っているのだ。
「ただ、彼女にそこまで隠すつもりがないという可能性もあります。まあ、暴動等が起こる前にこちらの国には移ったのでしょうし、そういう必要がないと考えているのかもしれません」
「確かに、それもありますね」
「……ドルギア、しばらく彼女を探ってもらえますか? あなたなら、あの店に行くのもおかしくありませんし」
「わかりました。それじゃあ、俺はしばらくグランゼンにいます」
ケルディスは、ドルギアにルルメアを探らせることにした。彼女が聖女であるかどうかは、それで確かめられると思ったからだ。
こうして、ケルディスとドルギアはそれぞれ行動を開始するのだった。