34.新しい仕事
私は、トゥーリンさんとナーゼスさんの定食屋さんで働くことになった。
面接を経て、その後店のことを教えてもらい、いよいよ実践だ。接客業に関しては、聖女になる前に少し経験がある。そのため、それ程問題はないと思うのだが。
「以前は、従業員がもう一人いたんだが、その人がやめてしまったんだ」
「何かあったんですか?」
「別に拗れたとか、そういう訳じゃないんだ。単純な話で、その人が家業を継がないといけなくなって……」
「ああ、なるほど……」
どうやら、私の前にも従業員はいたらしい。その人がいなくなって、急遽人手を欲していたようだ。
それは確かに、由々しき問題だろう。三人でやっていたのが二人になったら、どう考えても大変である。
「基本的に、こっちはあんたに任せることになる。一人で色々と大変かもしれないが、頑張ってくれ」
「あまりこういうことを聞きたくはないんですけど……お客さんは、いつもどれくらい来るんですか?」
「まあ、それなりに来る。だが、前の人も別に一人でも問題ないと言っていたから、手が回らなくなる程ではないはずだ」
「そうなんですね」
「どうしても無理な時は、俺や姉貴もこっちに来るから、そこは安心してくれ」
トゥーリンさんもナーゼスさんも、基本的にはキッチン担当であるらしい。それぞれの得意料理は評判であり、そのおかげもあってそれなりに繁盛しているそうだ。
私の役割は、そんな二人が担当できない接客である。一人というのは少し不安だが、前任者ができていたのだから、それ程問題はないのだろう。
◇◇◇
「ありがとうございました……」
私は、数時間程前の考えが浅いものであるということを理解した。
なぜなら、このトゥーリンの定食屋は、思っていた以上に繁盛していたからである。
お昼時ではあるがここまでお客さんが来るのは、すごいことだろう。店の前に列までできているし、この店はかなりの人気店であるようだ。
「お待たせしました。あちらの席にどうぞ……」
私は、お客様の接客をしたり、食器を片付けたり、食事を運んだりして、てんやわんやである。
これを一人でこなしていた前任者は、とてもすごいのではないだろうか。少なくとも、私は後二人くらい仲間が欲しいのだが。
「まあ、あの頃に比べれば全然ましだけど……」
私は、聖女だった頃のことを思い出していた。あの時に比べれば、今の環境は全然ましである。
ましではあるが、できることなら改善してもらいたいとも思う。とりあえず、もう一人くらい従業員を雇わないかと、トゥーリンさんに相談することにしようと思うのだった。