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27.違う場所で

 引っ越しが終わって次の日、私は グランゼンの町中を歩いていた。

 今日は、新しい仕事の面接の日である。そのため、トゥーリンさんという人の定食屋さんに向かっているのだが、私は少し困っていた。


「おかしい……この場所のはずだよね? でも、どう考えても違うし……」


 地図が示した場所に着いたが、そこはどう見ても定食屋ではない。看板に鍛冶屋と書いているのだから、定食屋であるはずはないだろう。

 ということは、この地図が間違っているのかもしれない。その可能性は大いにある。なぜなら、これはスライグさんが渡してきたものだからだ。


「一つ通りを間違えているとか……」


 可能性としては、そんな所だろうか。流石に間違えているにしても、それくらいにして欲しいものだ。

 私は、周囲を見渡してみる。ただ、早朝であるためか辺りに人通りはない。これでは、人に聞くこともできなそうだ。

 時間にはかなり余裕を持って家を出ているため、約束の時間まではまだかなりある。落ち着いて、定食屋さんを探すとしよう。


「……おい、そこのあんた」

「え?」


 そう思っていた私に、一人の男性が話しかけてきた。そちらの方向を見ると、私と同い年くらいの若い男性が立っている。

 私は、少し焦っていた。どうして、彼が話しかけてくるのか、まったくわからなかったからだ。

 という訳で、私は少し警戒する。すると、男性は少し面倒くさそうに笑う。


「はあ、まあ、そうなるよな……だけど、安心してくれ。ナンパとか、そういうのではない」

「そ、それなら、なんですか?」

「……俺の名前は、ナーゼス。この名前に聞き覚えがあるかないかだけ確かめさせてくれ」

「ナーゼス……え?」


 男性の名前を聞いて、私は驚いた。なぜなら、その名前は私がこれから向かう定食屋さんを営んでいる姉弟の弟の名前だったからだ。

 私の反応を見て、ナーゼスさんは安心したように笑う。どうやら、私は彼が期待している反応をしたようだ。


「やっぱり、あんたがルルメアという人か?」

「あ、はい。私が、ルルメアです」

「そうか……見つかって良かった」


 彼は、私の名前を知っていた。それは別におかしいことではない。今日面接に行くのだから、彼も知っているだろう。

 ただ、その言葉はまるで私のことを探していたかのように聞こえる。それは、どういうことなのだろうか。


「まあ、こっちにも色々と事情があったんだ。多分、あんたは家まで来られなかった。その地図は、嘘っぱちだからな」

「嘘っぱち?」

「とりあえず、歩きながら話そうぜ。俺について来てくれ」

「あ、えっと……はい」


 ナーゼスさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。一体、今回の件にどんな事情が隠されているというのだろうか。

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