12.ありがたい提案
私達は、無事にズウェール王国からアルヴェルド王国に渡ることができた。
国境付近は、それなりに面倒ではあったが、二つの王国は友好関係を結んでいるため、そこまで難しい訳ではなかった。そういう面も、私がアルヴェルド王国に移り住むことを選んだのである。
とりあえず、ズウェール王国を抜けられたのはいい。ただ、問題はここからだ。
「ルルメアさんは、これからどうされるんですか?」
「ええ、とりあえず王都に行こうかと思っているんですが……」
「王都ですか……」
私は、王都に向かおうと思っている。色々と仕事もあるだろうし、そこに行くのが一番いいと思ったのだ。
ただ、別にそこにこだわっているという訳ではない。単純な話で、行くなら王都だろうと思っているだけだ。
「……もし、良かったら、僕達と一緒に来ませんか?」
「え?」
そんな私に、スライグさんはそのようなことを言ってきた。それは、一体どういうことだろうか。
「知っての通り、僕達は有力な商人一家の人間です。あなたに住む場所や仕事を提供することができます」
「それは……」
スライグさんの提案は、非常に魅力的なものだった。
異国で住む場所も仕事も提供してもらえる。これ程にありがたい提案は、他にないだろう。
「とてもありがたい提案ですけど、本当にいいんですか?」
「ええ、僕は縁というものは大切なものだと思っています。ここで、こうしてあなたと出会ったことには何か重要な意味があると、僕の直感が告げているのです」
「そうですか……それなら、よろしくお願いします」
そこまで甘えていいのかと思ったが、スライグさんは快く受け入れてくれるつもりであるらしい。
それなら、お願いすることにしよう。ここで遠慮してもいいことはない。ありがたく受け入れさせてもらおう。
「兄さん……またナンパ?」
「え? いや、そういう訳ではないだろう? ただ、縁を大切にしているというだけさ」
「そんなこと言って、本当はルルメアさんと一緒にいたいだけなんじゃないの?」
「そ、そんなことはない」
セレリアさんの言葉に、スライグさんは大きく首を振った。それは、結構大きな否定であるような気がする。
それはそれで、少し傷ついてしまう。そこまで否定しないでもいいのではないのだろうか。
「兄さん、そんな風に否定するとルルメアさんが傷つくかもしれないよ?」
「え?」
「だって、それってルルメアさんに魅力がないと言っているようにも聞こえるよ?」
「い、いや、そんなことはありませんよ。ルルメアさんは、魅力的な女性だと思います」
「い、いえ……」
そんな私の心を見抜いたかのように、セレリアさんがそのことを指摘した。すると、焦ったようにスライグさんがフォローしてくれる。
それだけで、私は結構嬉しくなっていた。我ながら単純であるとは思うが。