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不屈のイタリア料理人

作者: 鈴木道草

 あるイタリア人の男が、夢を叶えるために日本にやってきた。男の夢は、日本でイタリア料理の店を成功させることだった。

 男は学生時代に剣道に出会い、次第に日本に興味を持つようになった。

 日本という国について、あれこれ勉強するうちに日本にもイタリア料理と呼ばれる店がたくさんあることを知った。しかし、イタリア料理として紹介されているメニューが、パスタやピザ、或いはオリーブオイルを使った料理ばかりであることに衝撃を受けた。

 そもそも、「イタリア料理などという言葉は存在しない」と、多くのイタリア人は思っている。男もそのうちの一人だ。

 イタリアの料理は、その地方ごとにそれぞれ特徴があり、郷土色を強く意識する傾向にある。そのため「イタリア料理」という言葉で一括りにできない思いがイタリア人にはあるのだ。

 男は、自分が住む地方の、大好きな料理を、是非、日本人に食べてもらいたいと思うようになり、大学へは進学せず料理学校へ入学した。そして、料理学校を卒業すると地元のレストランで地道に働き、更に腕を上げるとともに、日本での出店を夢見て貯蓄に励んだのだった。


 そしてついに、男の長年の夢が現実になるときがやって来た。都内にイタリア料理の店を構えることができたのだ。決して広いとはいえないが、一から始めるには返って都合がよい大きさだ。

 店の名前は「イタリアンレストラン トリコローレ」にした。言わずと知れたイタリアの三色旗のことだ。緑は国土、白は雪、赤は愛国や自由、平等という意味を持っている。

 メニューについては、研究に研究を重ねて日本人の口に合う料理を吟味した。例えば、前菜にはマグロのカルパッチョや真ダコのマリネ。ソースは定番のミネストローネ、コンソメスープ。そしてメインディッシュには、男が大好きな地方料理、鳩のローストやソテーだ。


 いよいよ開店の日を迎えた。近くにイタリア料理の店がないこともあって、最初はそこそこ客も入った。が、次第に客足が遠のき始めた。

 男の作る鳩料理は確かにおいしかった。しかし、平和の象徴である鳩の料理は、日本人の食欲をそそるものではなかったのだろう。男は、メニューの変更を余儀なくされた。

 今度は、やはり男の大好きなメニューであるウサギ料理を出すことにした。しかしこれも、最初の目新しさだけでしかなく、かわいいウサギを食べることを日本人は嫌うように客足は遠のいていった。

 男は悩んでしまい、すっかり自信をなくしてしまった。


 そんなある日の夕方、男がテレビを見ていると、ニュースに続いて「今日の特集」が始まった。内容は、最近繁盛しているお店特集というものだった。男は興味を引かれてテレビのボリュームを上げた。

 それによると、最近繁盛している店は、社長や料理人の名前をそのまま店の名前にしているところが多いというのだ。自分の名前をつけることにより、恥ずかしくない料理をお客様に出さなければいけないという自己啓発ができ、そのお陰でお客様からの信頼を得ることができる。それがまた、自信にもつながるという事らしい。


 男は「これだ!」と思った。


 さっそく店の名前を自分の名前に変更し、願いを込めて再出発した。

 ところが、男の店には、誰一人訪れることなく、あっさり潰れてしまった。

 男は落胆した。


 しかし、まだ諦めてはいない。男は本国へ旅立つ飛行機の中で、再び日本にやって来る決意を新たにするのだった。


 その日が来るまで忘れないでほしい。

 不屈のイタリア人。


 ゲーリー・ウンチーニのことを・・・

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