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能力付与の瞬間

2015年11月7日というと…。


「3年後、という事はくるみちゃんが2回目の召喚をした頃?」

「えぇ、その通りよ。召喚されたのは3人の女子大生だったわ。1人はクールな女性だったけど、あとの2人はテンションが高かったわ。リキみたいな感じ」


どういう意味だ?

中学生くらいに成長していたクルミは、前回のように気絶することもなく召喚が成功した。

クルミは当時、自分が召喚した兵頭たちの悪事に対して、罪悪感も抱えていたので、新たに召喚した彼女たちが彼らを止める抑止力になることを期待し、お願いした。

その女子大生たちは、1人から慎重な意見が出たものの、異世界に召喚されたことに興奮した残りの2人に説得され、二つ返事でそのお願いを聞き入れてくれたそうだ。

まずはマナばぁさんに能力を付与してもらうのが第一歩なので、すぐさま手はずを整えた。


「あの日のことは、鮮明に覚えているわ…」


***


召喚から数日後、マナばぁさんによる能力付与の場には6人の女性がいた。

召喚した3人―高梨(たかなし)里奈(りな)今野(こんの)美咲(みさき)克己(かつみ)立花(りっか)―とクルミ、そしてクルミの護衛の鈴木(すずき)羽美(うみ)、そしてマナばぁさんだ。

場所はプラスの事務所の地下1階。

廊下もなく階段から直結する扉を開けて入ったのは小さな空気孔以外に窓もない地下の一室だった。


「何だか怪しいところでやるのね」

「雰囲気づくり?」


緊張感なく話し始めたリナもミサキも、これから起こることにソワソワしているのがわかる。

リナは肩まである髪を茶色に染めて、前髪はヘアピンで斜めに留めておでこを大きく見せている。小柄で、いかにも女の子という見た目をしている。

ミサキはリナよりも少し暗めの茶色いロングヘアで、背が高く細身に似つかわしくない豊かな双丘を携えている。モデル体型というヤツだ。


「そっか、お姉さん達には違和感があるのね。特異能力は個人情報でもあるから、付与された能力が不用意に人に漏れないように配慮しているの。こういう閉鎖されたところでやるのは、私たちの世界では普通の感覚なのよ」

「なるほど」


クルミの言葉に、リッカが短く相槌を打つ。

リッカは真っ黒なショートヘアに、化粧っ気のない垢抜けない見た目で、リナとミサキとは雰囲気が異なる。生来の精悍で整った顔から田舎っぽさはなく、クールな印象を受ける。

冷静を装っているが、隠れオタクであるリッカも内心はワクワクが混じっている。


昨夜、誰が最初に能力付与してもらうかを話し合って、リナが一番手になることが決まった。

話し合ったと言っても、リッカが2人に譲り、ミサキがグーを出してリナがパーを出しただけだが。


「マナばぁさん、本日はよろしくお願いします」

「よろしく。今日はアンタだね。そこに寝なさい」


部屋に入ってすぐクルミからの挨拶もそこそこに、疲労の色が濃いマナばぁさんが、リナに対してベッドを勧めた。

異世界3人娘はマナばぁさんの話を聞いて占い師のような姿を想像していたが、白を基調としたビジネスカジュアル系の服の上に白衣をまとった、女医さんに近い方だった。

リナに勧めたベッドも、接骨院にある施術用のベッドのような簡易的なもので、より女医っぽさが際立っている。


リナは勧められるがままに仰向けで寝転んだ。

マナばぁさんは、腰掛けていた椅子から立ち上がり、ベッドの横からおもむろにリナの胸の上20cmあたりに手をかざして、目を閉じた。

リナはドキドキしながらマナばぁさんの手を見つめる。

数秒後、リナの胸のあたりが淡く光り始める。

初めての異世界的な光景が自分に起こっていることにリナのテンションも上がり目を輝かせる。

胸のあたりに感じていた温かい感覚に、眠ってしまいそうな心地よさを感じたのも束の間、徐々に光が強く、感じる熱も熱くなっていった。


「アッ!?熱ッ!?熱いッ!熱いッ!!」

「リナッ!?大丈夫!?」

「え、これ普通の反応!?いつもこんな感じなの!?」


ミサキもリッカも、急に苦しい声を上げるリナに驚いて声をかける。

リナは二人の声に反応することもできず、苦しそうな表情で声を出す。

周囲から見ると数秒の出来事だが、本人にとってはものすごく長く感じられるに違いない。

高熱と何かが身体の中で暴れるような感覚に、リナは声が抑えられない。


「んッ…んん…ハァッ…んんんッ!!」


手を握り、脚も曲げて、力を入れて耐えているのが周りの目から見てもわかる。

小柄なリナだからそこまでではないが、スタイル抜群のミサキが同じ苦しみ方をしたら、殿方が興奮するような図になるだろう。

光と熱はどんどん強くなり、リナの声ももう限界と言わんばかりに大きくなる。


「んんぅ!!!…んァアアッ!!!!!!」


そして一瞬、豆電球が最後に強い光を発して焼き切れるように、部屋中を強い光が埋め尽くした後、何事もなかったかのように光が消えていた。


「ハァッ、ハァッ、ハァ、ハァ、ハァ…」


リナの荒い息だけが部屋の中に小さく響き渡る。

急な熱量に耐えていただけなので、すぐに呼吸も整っていく。


「すーっ、はぁ…はぁ……はぁぁ…。終わっ…た…?」

「ふぅ、終わりだよ。どんな能力かは、自分の感覚で何となくわかるだろう?念動力(サイコキネシス)の類だね。付与直後は能力が体に馴染むまで負担がかかることもあるから、しばらくそこで寝てなさい」


マナばぁさんは椅子に座ってからリナに向き直り、終了の声をかけた。

リナはベッドでぐったりとしながら、どんな能力が付与されたか感覚的にわかるらしく、ニマニマしながら聞いていた。

出産後のお母さんのような表情にも見えるから不思議だ。

ハラハラしながら見ていた周囲も、どうやら成功したようだとわかってほっと安堵した。


「リナ、おつか…」


リッカがリナに声をかけようとしたその時だった。


バンッッッ!!!!!!!!!

ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!


衝撃音と共に、一つしかないドアが外れて、部屋の中に大量の水が流れ込んできた。

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