能力の悪用
初めに能力を開花させたのは兵頭兄弟の弟、兵頭天狐だった。
当時の年齢は今の俺たちと同じ21歳で、クルミにとっては寡黙な男であまり印象に残っていないそうだ。
召喚されてからしばらく、彼らは渡瀬家の世話になったが、2週間後に弟に続いて兄の兵頭天下が能力を開花させたところで、独立起業して渡瀬家を出て行った。
天下は弟の3つ上の24歳で、元の世界でもその若さで会社を経営していたそうだ。こちらも無駄な会話は一切せず、冷たい目をした男だった。
「あー、そっか!この世界でも生きてくためにまた就活し直さなきゃいけないのか!」
俺の重大な気付きに、シュナから冷たい視線が突き刺さってくるのがわかった。
さぁ、話の続きを聞こうじゃないか。
「召喚した直後は、お兄様達ができたと喜んだ私も、そっけない彼らとは仲良くなれなかったの。ライトくん…瑞樹頼人だけは大人というよりも学生さんって感じだったし、聞けばあなた達の世界のことを教えてくれたけれど、兵頭兄弟はほとんど口も聞いてくれなかったわ」
彼らは会社を立ち上げ"合同会社プラス"を名乗った。
兵頭兄弟が得た能力は、詳細は語られなかったが、水や氷を操る能力だったらしい。
干ばつ被害を受けている土地に雨を降らせたり、猛暑地域に大量の氷を生み出して周囲の気温を大幅に下げたり、奇跡のような規模の活動で多大な利益を得ていった。
「雨を降らすって、佐藤さんの水を出す能力と、規模が違い過ぎない?」
「たしかに。チート級じゃん」
シュナが疑問に思ったことを口にした。
キャパシティが大きいと言っても、さすがに限度があるだろう。
「鋭いわね。専門家の見立てでは、あなた達異世界人は、初めは能力を持たない分、能力を得た際にこの世界の人々よりも桁違いに高い能力を発揮できると考えられるそうよ」
桁違いの能力と聞いて、夢に見た異世界チートの世界じゃないか、胸アツ展開ktkr!と胸中で叫んだものの、能力付与できる人がもう死んでいると聞かされた。
何だそのお預けプレイは!!がっかりだ!!
「話を戻すわね。初めは社名の通り、さまざまなプラスをもたらす彼らを、世間は評価したわ。そして2年ほど経ったある日、彼らがマナばあさんを雇用したというのが大ニュースになったの」
これまではどの組織にも属することのなかったマナばぁさんが、一企業に所属するという事件は、お茶の間を騒がせた。
そして、多額の資金がなければ会うことすらできなかったマナばぁさんの能力を、高級外車程度の金額で提供するようになったらしい。
昔の漫画でよくあるン億円でアメリカの病院でしか手術できない難病が、庶民でもローンを組めば治せるようになった感じかな。
「多くの人々がプラスを賞賛したわ。私も自分が召喚した人たちが世間に影響を与えていることに悪い気はしなかったし。新聞にも度々美談が取り上げられたしね」
「そんな素晴らしい彼らが、なぜ、その、殺人を…?」
シュナが核心の部分を促した。
苦虫を噛み潰した顔でクルミが応じる。
「素晴らしい?そうね。本当に美談ばかりだったわ。でも美談は美談でしかなかったの。賞賛を受ける裏で、実態は彼らはマナばぁさんを脅し、軟禁して過酷な労働を強いていたのよ」
「はぁ?」
軟禁とは、また物騒な。
「しかも本来マナばぁさんが持つ能力を無理やりセーブさせて、中途半端に能力を目覚めさせては、回復時間を十分取らずに、次から次へと能力を使わせ続けていたの」
「それがお年寄りに対する扱いかよ?キャパシティだっけ?その考えが常識として根付いている世界なら、今までにない頻度で能力を使い続けるマナばぁさんを、世間は見て見ぬふりをしてたんじゃないか?そんなの、同罪じゃないか…!」
おばあちゃん子のアツシが、怒りを隠せず声を荒げる。
しかし、どうだろうか。俺たちの世界でも、顧客への最高のサービスがテレビで話題になった裏で、社員がブラック労働を強いられているという企業もたくさんあった。
有名居酒屋チェーンで社員が過労死したとニュースになっていたが、そんなことも世の中のブラック労働の氷山の一角に過ぎないだろうし。
程度の差はあれ、よくあることかもしれないなと一歩引いて俺は話を聞く。
叩けば埃が出てくるというのだろうか。
いつからかプラスがあくどいことに手を染めているという噂が流れ始めたそうだ。
街のアウトローに能力を与えて、小指を詰めちゃう系の方々を飼いならしていると噂される頃には世間の評価も反転していったそうだ。
「誰が呼び始めたかわからないけど、街の人々は彼らを"マイナス"と揶揄するようになったわ」
「"プラス"だから"マイナス"か。安直でダサいね」
「そこはリキに同感だ」
そして話は2015年11月7日まで時が進む。