与志乃家の能力
マナばぁさんがもう死んでる?
しかも殺された?俺たちの世界の人間に?
それに…。
「マナばぁさんの苗字、与志乃って。リキの苗字と一緒ね」
「字は与える志に秀吉の秀の下部分で与志乃です」
「字も全く同じだな」
シュナとアツシも気になったようだ。
そう、俺の苗字だ。与志乃理樹。
珍しい字ですね、ってよく言われる。偶然か?
「マナばぁさんが持っていたのは能力を与える能力よ。この特殊な力は、確認されている限り、世界中でマナばぁさんだけが持つ能力だったの」
世界で唯一無二の能力。その価値は計り知れないものだと俺にも想像がついた。
マナばぁさんは、国や企業などのどこにも属さず、クルミの生まれた渡瀬家のような、大富豪でなければ払えないような金額で、能力付与を請け負っていたそうだ。
「客の足下を見て商売する性悪BBAだったってこと?」
「あのさぁ、故人に対してなんてこと言うの!黙って聞きなさい!」
シュナに怒られた。普段からよく怒られます。
しかし気にも留めずクルミは話を続けてくれる。
「伝統よ。与志乃家は古くから能力開花の力を遺伝的に受け継いできた家系なの。マナばぁさんが独身を貫いたから、能力開花の力は今代で途絶えることになっていたけれど、その最後の1人となっても、彼女は代々受け継がれてきた教えを忠実に守って、暴利を貪るような使い方はしなかったわ」
生まれもった自然の状態を変える大きな力だ。大権力に使われてはならないという教えが代々受け継がれていたそうだ。
俺たちの世界でいう、クローン技術が忌避されたようなものだろうか。
しかもマナばぁさんは得た利益を、障害者が日々を安心して暮らせるような慈善団体へ寄付していたらしい。
世界中で一人だけなんて、独占禁止法も真っ青な能力だ。悪用しようと思えばいくらでも使えそうだが、そうしなかったマナばぁさんは徳を積んだ方だったんだなぁ。
やがて話はクルミが初めて能力を使った日に戻る。
娘が生まれて初めて能力を使って呼び寄せた異世界の男たちを、クルミの両親は大いに歓迎しようとした。
そんな中、娘が気絶した。これは他の能力を持つ子どもでも稀に起こることなので、多少予想されていたから大きな問題ではなかった。
問題だったのは召喚された男たちの無能力判明だ。
眠りについた娘が目を覚ました時に、彼らが障害者だと知って悲しい顔をさせたくないという親心は理解できるものだ。
クルミの両親の決断は早かった。
すぐさまマナばぁさんのところへ、3人の男たちを連れていき、能力開花を依頼した。
兵頭天下、兵頭天狐、瑞樹頼人の3名を見て、普段は柔和な表情をしたマナばぁさんが眉を顰めて、クルミの父に忠告した。
――彼らは何者だい?どれも大きな力を秘めているようだが、本当に能力を目覚めさせていいんだね?――
当時を振り返って、クルミの父はそれを忠告とも思わなかったと言う。
一時は障害児かと思われた娘が、初めて能力を使ったハレの日だ。
召喚した第一号となる彼らが大きな能力を持っていると聞いて、尚更喜ばしく思ったそうだ。
ほんと親バカよね、とクルミはこぼす。
気持ちはわからないでもない。
夏休みの自由研究で初めて県知事の名前の入った賞状をもらった日、俺にゲームボーイアドバンスを買ってくれた父親の表情を、ぼんやりと思い浮かべた。
異世界なんて遠い(?)とこに来てしまったけれど、じいちゃんが生きてる間に実家に帰れるかな。