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特異能力

て→れ↑て↓れ↑て↓れ↑て↓れ↑て↓ーーー♪

てれて→れ↑て↓れ↑て↓れ↑て↓れ↑て↓ーーー♪

11月の寒さを一層引き立てる冷たい鉄筋コンクリートに、薄汚れたクリーム色の壁と、ワックスの禿げた床が…

なんということでしょう!

木の温かみを感じる古き良き日本家屋の壁と、高級感たっぷりのワインレッドの絨毯へと様変わり。

漫画やラノベが無造作に並ぶ味気ない本棚と、ホチキス止めの薄いレポートを展示していたレンタル長机に囲まれたあの窮屈な一室が、

匠の手によって、広々とした空間に北欧家具や調度品が並べられ、通い慣れた漫研部部室の影も形も…


「ってオイ!名曲『TAKUMI/匠』の再生に脳内メモリを使ってる場合かっ!!」


思わずノリツッコミをした俺だったが、いつもは笑ってくれるアツシも、馬鹿にしてくるシュナも、今回ばかりはだんまりだった。

俺もさすがに黙る。何なんだここは?さっきまで俺ら、学校にいただろ?


「何を言ってるのかわからなかったけど、日本語は通じますね?アナタタチ、ニホンゴ、ワカル?」

「なんであんたがカタコトなんだよ!」

「わかるみたいね」


そう言って、少女は俺たち3人に目配せをした。

少女と言っても、高校生くらいだろう。シュナよりも10cmは低いだろうか。お人形さんのような顔立ちに、これまた日本人形のような黒髪を、くるくるツインテールにして、金髪なら首から上がティロ・フィナーレしちゃうような髪型に巻いている。

服は日本家屋には似つかわしくない、真っ青なフリフリのドレス。見る方も真っ青なファッションセンスだ。


「まずは驚かないで聞いてほしい。ここは地球の日本の東京だけど、あなた達のいた世界とは違う世界。いわゆるパラレルワールドです。違う世界線とも言うんだったかしら」


フ、フハ、フハハ、フゥーハハハ。

と即座に言えればよかったが、いきなり言えるほどの瞬発力と理解力と長い白衣は持ち合わせていない。

が、言っている意味は分かった。


「つまり私たち、漫画やアニメみたいに、違う世界に来ちゃったってこと?」

「はは、マジかよ…。夢じゃねぇよな?」

「あぁ…痛って!お前ら、俺の頬をつねるな!自分ので確かめろ!」


お約束の後、ヒリヒリした頬をさすりながら、俺は確かに興奮していた。

何をするでもない毎日、先行き見えない未来、目の前に迫る卒論。

そんな世界から解き放たれて、これからめくるめく冒険が始まるかのような、居ても立っても居られない気持ちになっていた。もうどうにも止まれない。


「なぁ!いったいなんで俺たちを呼んだんだ?魔法か?スキルか?特殊能力か?どのお約束だ?」

「…今回はやけに詳しい人たちが来たみたいね。私、ちょっと引いてるわ」

「お嬢様、お気をつけて」


ちょっと引かれた。でも、だって、興奮するだろ、男の子だもの。


「まずは順を追って話さないとね。私の名前は渡瀬(わたせ) 来未(くるみ)。あなた達をこの世界に読んだ張本人よ。あなた達のお名前は?」

「俺は与志乃理樹、んでこっちが遠藤敦志で、喜多村守奈だ」

「アツシにシュナに、そしてヨシノリキね」

「なんで俺だけフルネーム!?」


なぜかクルミの俺を見つめる視線が心なしか熱い気がする。なんだ?モテキか?


「私はあなた達にあるお願いをするために呼んだの。」

「お願い?」

「そう、でもそれを話す前に、手っ取り早く、あちらの世界とこちらの世界の違いをあなた達には見てもらおうと思うの。佐藤さん、お願い。」

「かしこまりました。お嬢様」


佐藤さんと呼ばれたメイドさん。20代後半くらいの、秋葉原ではなく、貴族のお屋敷にいそうなメイドさん。"萌え萌えキュン"とは絶対言わない、"かしこまりました"が似合うタイプだ。

佐藤さんは手元のポットのふたを開け、手をかざして、水を注いだ。

手元のポット"から"ではなく、手元のポット"に"だ。

明らかに手のひらから水が出ている。


「え、すご。手品?」

シュナは普通に驚いている。


だが、俺とアツシは同時に目を見合わせた。

「リキ」

「アツシ」

そしてハナミチとルカワ並みにハイタッチして叫んだ。

「「魔法だ!!」」


そこからクルミがいろいろと教えてくれた。

この世界の人々には魔力と呼ばれる体内のエネルギーがある。人はそれを、いろいろなものに変える力が生まれつき備わっているそうだ。

ただ、それこそ魔法使いのように、魔力を何でも好きな魔法に変えられる訳ではないらしい。人には生まれながらに1つだけ、魔力を別のものに変える"能力"が備わっているらしい。

正式には"特異能力"と呼ぶらしいけど、一般的に"能力"と言えば、これを指すそうだ。

例えば先ほどの佐藤さん(メイドさん)の能力は、魔力を水に変える力。いろはすくらいの軟水を、2Lくらい出せるそうだ。2Lも出すと、魔力が切れてフラフラするけど、1時間も休めばまた2Lくらい出せるとのこと。


「例えば私のお母様が持っているのは"光"の能力よ。停電したときも、お母様が傍にいると明るいままで、停電に気づかなかったこともあったわ。夜の森や洞窟探検も、お母様がいると安心なの」

「紅白の小林幸子みたいなものかな?去年は自粛で控えめだったけど」

「なんだか微妙に不謹慎な能力に聞こえるわね…」


俺たちの軽口はよくわからないようで、クルミは説明を続けてくれた。

人によって変えやすい魔力の"変え先"があって、小学校に上がって間もない1年生の体育の授業でみんな試すらしい。


「そしたらクルミも7歳の時に、初めて能力を使ったのか?」


何気ない俺の問いに、クルミは少し真剣な顔つきになって答えた。


「いえ、7歳の時は何も出なかったの。クラスのみんなが火や風や水を出している中、私だけ…。当時は無能力かも知れないと知って、帰ってお母様に抱き着きながら一日中泣いたわ。」


この世界では、みんな魔力を持っていて、みんな何かしら"能力"を持つらしいのだが、ごくまれに先天的に能力を持たずに生まれてくる子供もいるそうだ。

俺たちの常識からすると、普段の生活に便利なものが一つなくなるくらいの感覚だが、この世界では"無能力"は身体障害に含まれるらしい。第2種障害者認定も降りる。何とも言えない気分だ。

ん、でも待てよ。


「あれ、じゃあ、クルミが俺たちを呼んだのは?」

「そう。私の"能力"よ。私は健常者だったの。少し特殊だっただけで」


はにかみとも、苦笑いとも取れる表情で、クルミは話を続ける。


「当時は私を無能力だと思ったお父様が、何億という大金をはたいて伝手を辿って、ついに能力を開花させる能力を持つ人の存在に行き着いたの。それが"チカラの母"マナばぁさんよ」

「億…?」

「能力を開花させる能力…?」

「チカラの母…?」


一気に胡散臭くなってきた。

就活を始めたころに、シュナに付き合って新宿の母とかいう占いに行って、誰にでも当てはまりそうなことばかり言われた後、1日分のバイト代が15分で飛んでいったことを思い出した。

まぁ魔力とかある世界だから、同じ枠で括っちゃダメなんだろうけどさ。


「マナばぁさんは1年に1度だけ、無能力の人に能力を与えることができるの」

「なんで1年に1度なの?」

「ものすごく複雑な能力だから、回復に時間がかかるの。佐藤さんの水の能力が1時間って話したでしょ?私のお母様の光だと、3時間くらい回復に時間がかかるわ」

「貯水槽とか充電器みたいなもんか」


俺の発言に佐藤さんがちょっとだけ眉を動かした。


「デリカシー…」


シュナの眉はハの字を通り越してルの字くらいになっている。

慌てて話題を進める俺。クールだぜ。


「そ、それで?マナばぁさんのところに、クルミも行ったんだよな?」

「えぇ、7歳だけど能力が出ないから付与してくださいって相談に行ったの。そしたらね、マナばぁさんが言ったの」


――お嬢ちゃんはすでに能力を持っているよ。でもね、魔力が不足していて、あと3年くらい経って、もう少し大きくなれないと使えないかな――


「そうか、違う世界から人を呼ぶなんて、他と比べるとスケールが違うもんな」

「えぇ、私の能力すごいのよ。まぁそんなわけで、3年後、私が10歳の時、お父様もお母様も集まる中で、私は初めて能力を使ってみることにしたの」


そしてクルミはまた俺の目を見た。

冷たい、悲しい目をしながら。


「そう、使()()()()()()()のよ…。」

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