はじめての能力開花
翌朝、簡単な打ち合わせの結果、俺の次に異能力バトル物に詳しいアツシから、能力を開花させることとなった。
朝食の後、部屋を移る。
アツシが簡易ベッドの上に寝て、俺がその側に立つ。
奇しくも昨日とは逆の立ち位置になった。
唯一違うのは、俺の手がアツシの胸のあたりにかざされていることだ。
「リキ、頼んだ」
アツシからの信頼のこもった言葉に、俺は鷹揚に頷く。
とはいえ正直、どんな特異能力が目覚めるかはアツシ次第だ。
俺が能力を決めるわけではない。
俺がするのは、ただ蛇口を捻るだけの簡単なお仕事だ。
しかし、わざわざそんなことは言わない。ダサいからだ。
親友の頼みは、まっすぐ受け止めてやるのが男ってもんだ。
「あぁ、任せとけ。天上天下唯我独尊、世界に1つしかない唯一無二の俺の能力で、其方の願いを聞き入れてしんぜよう!」
「すごいドヤ顔ね…」
周囲も羨望の眼差しになるほど自信たっぷりの声で応えてやると、アツシは多少緊張が解れたのか、表情が柔らかくなった。
「リキ、この世界にいたマナばぁさんとは違った変化があるかもしれないから、油断しないでね」
後ろから声がかけられて振り返ると、そこにはポニーテール美少女がいた。
クルミはどうやらツインテールがデフォルトというわけではなく、日によって髪型を変えるタイプのようだ。
その表情は、どこか期待と不安が入り混じったようなものだった。
「クルミ、心配ないよ。アツシは必ずや、この世界を救う力を手に入れることだろう!」
俺はクルミを安心させるように、力強く、なるべくコミカルに言った。
アツシもまた、その言葉に勇気づけられたように、そして集中するように、静かに目を閉じた。
「リキ、俺の中に眠る、敵を打ち砕く力を呼び覚ましてくれ」
アツシも半分は本気だが、半分は演技が入っている。ノリノリだ。男の子だもの。
アツシの言葉に、俺は頷き、右手をアツシの胸に近づけた。
グーパーだけを練習し続けた俺の光る右手が、アツシの胸まで伸び、そのまま中に入っていく。
アツシの能力の蛇口がそこにあった。
何の変哲もない、俺の時に感じたのと同じ蛇口のイメージだ。個人差はないようだ。
俺が念じたとおりに、光る右手はアツシの蛇口をひねった。
その瞬間、アツシの身体から強烈な光が放たれ、部屋全体が眩い光に包まれた。
「うおぁっ!」
「きゃあっ!」
いや、それだけではなかった。
屋内だというのに、熱風というか、温風というか、光と共に熱い風が吹いた気がした。
そこにいた全員が咄嗟に目を瞑り、光が収まるのを待った。
数秒後、そこにはベッドに寝そべっているアツシと、同じく倒れている俺の姿があった。
またかー。