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ただ一つの能力

「知らない天井だ…」

目を開けると、梁が剥き出しだが、年数を経て素材がそのまま趣を放つ日本家屋の天井が見えた。

明かりがついているが、障子から差し込む赤々とした光で、今の時間が夕刻ごろであることがわかる。


「お、起きたか」


ベッドの傍に、見慣れたアツシとシュナの顔を見て、ホッとする。

お約束の言葉を発したが、あまり長い時間眠っていたわけでもなさそうで、俺の頭は冴えている。

天井もバッチリ先ほど見た通りのものだったし、ここは召喚された異世界だ。

むくりと起き上がって、手をグーパーして、首を回してみる。

若干怠い感じがあるが、それだけ。健康体だ。


「1時間ほど眠っていたわ。気分は、どう…?」

「よくぞ聞いてくれた。最高だよ」


シュナが心配そうに顔を覗き込みながら聞いてきたが、俺は即答した。

ニヤニヤとした表情をしているのが、自分でもわかる。


「身体の中に、魔力が流れているのがわかるよ!これが魔力なんだな!」


めくるめく異世界ライフの第一章の始まりに、俺は感動していた。

アツシも悔しそうに俺に羨望の眼差しを向けてきている。

先ほどの強い光と熱を放った俺の力を、とにかく試したい。

俺は体内の魔力を、右の掌の一点に集めていく。

淡い光を放った俺の魔力が、人の手の形を象っていく。

そして数秒間手の形を維持し、グーパーしてみたところで、光が霧散した。


「すげーなリキ!自由自在に操れるのか!?」

「あ、うん。今のは思い通りの動きだったよ」

「マジですげーな!本当に俺たち、異世界に来たんだな!」


アツシは目をキラキラさせながら興奮して、しきりにすごいすごいと叫んでいる。

シュナも言葉にはしないが、普段よりも瞳を大きく開いて、興味深そうに俺の手を見つめている。

俺の心も、二人を遥かに凌ぐほど高揚していたが、一抹の不安を拭うように、再度魔力のコントロールを試す。

先ほどと同じように淡い光が集まり、手の形を形成し、数秒で霧散する。

それを俺は何度も繰り返す。

右手で3回、左手で3回、続いて右手で2回。

2回目までは騒いでいたアツシも、3回目からは声を止めて俺の方を見ていた。。


「なぁ、リキ。他にも何か試してみたら?」


俺の8回目に形成した魔力の手が霧散したところで、アツシから声をかけられた。

俺はアツシに返答しようとしたが、言葉に窮する。

数秒間俺が考えて答えを返すよりも早く、質問に返答したのはアツシの向こうで成り行きを見ていたクルミだった。


「あら、リキができるのはそれだけだと思うわよ。マナばぁさんも、光る手を出すことが能力だったんだもの」

「これ、だけ…?」

「世界に一つしかない、素晴らしいスキルよ。リキ、本当にありがとう。これで希望が見えてきたわ!」


涙さえ浮かべたクルミの希望に満ちた声とは裏腹に、俺の身体はベッドの上で座ったまま、ピシッと音を立てたかのごとく固まった。

これだけ?

異世界チートは?主人公補正は?転生特典は?

一線を画す戦闘力は?盤面を覆す支援スキルは?特殊効果は?

ステータスボーナスは?大量のスキルポイントは?


「俺が世界を救うんだよな?」

「えぇ、あなたのその力で、アツシとシュナの強力な力を開花させて、どうか世界を救って!」


俺はどうやらまだ起きるのが早かったらしい。

俺は座っているベッドの上に足を戻し、後ろに倒れこみ、オフトゥンをキレイに身体に被せて、目をつぶった。


「ちょっと、リキ!?どうしたの?まだ具合が悪いの??」


クルミの焦った声の後、外からカラスのカーと鳴く声が聞こえてきた。

傍にいたアツシもシュナも、あまりのいたたまれなさに目を伏せた。

あんまりだ。

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