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能力の覚醒

クルミは準備すると言って、佐藤さんに声をかけたが、俺はそれを制した。

怪訝そうな目で見られたが、仕方がない。

いろいろと試してみたい好奇心がウズウズしているのだ。


「どうやったら能力が使えるようになるかわかるの?」

「わかるよ。俺にはこういうことに長けた師匠が何人もいるんだ」

「師匠…?」


さらに怪訝な視線が俺に向かう。

俺はそれを無視して、椅子に座った状態で一度目を閉じてリラックスする。


まずは気を、じゃなかった、魔力を感じるところからだ。

胸の前に手を持ってきて、バスケットボールを持つような体制になる。

手のあたりに集中してみる。何かを感じてきたところで、笑顔で声を出す。


「あは!」


そう、それが魔力だよ、才能あるよとは言われなかった。

これは失敗。俺の父親が人類最強じゃないからか。

何をやっているか気づいたアツシが、額に手を当てて頭を振っているが気にせず次だ。


次は指をピストルの形にして、指先に力を集めてみる。

そしたら指先が段々と熱く、光を帯びて…こない。

これもダメ。父親が魔族最強じゃないからか。次だ。

今度は立ち上がって、両足を肩幅に開き、腕をぶら下げて少し曲げる。そして叫ぶ。


「第一開門 解ッ!!」


ダメだった。そもそもこれは体術だ。里の外周を逆立ちで回ったこともない俺には無理だ。

というか逆立ちができない。次だ。


今度は腕をプランと下げて、目を閉じて、体から溢れ出すオーラを肉体の周りに留めるのをイメージする。

が、そもそもオーラが止めどなく溢れ出ていない。

精孔(しょうこう)をこじあけてくれる師範代もいない。


あとは…。


「クルミさん。宝払いで、フヨフヨの実を頂けますか?」

「アホだ」

「アホね」


そして俺はしばらくアツシとシュナに正座させられ説教を受けた後、大人しくクルミの言う通りにやることになった。

怒られている間に準備が整ったらしく、部屋を移動する。

と言っても隣の部屋だが、日本家屋のきれいなフローリングの廊下を土足で歩くのに違和感が拭えない。

靴を脱いで入るのは、広さが8畳の、俺たちの世界と変わらない畳が敷かれた和室だ。

壁には水墨画の掛け軸があり、その下には剣山にラフレシアのようなどでかい花が飾られている。

ペルシャ絨毯が敷かれた上に、オレンジ色のソファーベッドがあり。緑色の羽毛布団が載っている。

よくセンスが壊滅的と評される俺でも、この世界の美的感覚が俺たちの世界と違うことはわかる。


「そのベッドに座って」


クルミに勧められるままに羽毛布団の上に腰掛け、昔から素直で評判な俺はそのまま指示に従っていく。


「まずは胸のあたりに意識を集中します。

心臓がポンプになって、体中に血液を送っているのを感じます。


毛細血管の隅々まで赤血球が酸素を届けています。

胸からおなかへ、丹田を通って両足に分かれます。

太もも、膝、脛、足首、足の甲、つま先まで血が届いたら、筋肉が流れを助けながら、かかと、アキレス腱、ふくらはぎ、膝裏、もも裏、お尻で一つにまた交わって、腰、背中を通って心臓へ戻っていきます。

上半身も同じ様に、指先へ、頭の天辺へ、あなたの全身を、心臓のドクンドクンと言う音とともに血が巡っています。

その血液の中をよく集中して感じようとすると、小さな光がたくさん感じられます。

その光はあなたが生まれた時から、常に体の中にありました。

意識しなかっただけで、その光は常にあなたの血の流れに乗って、体中を巡っています。

その光が心臓に戻ってきたら、体中へ送り出さず、ポンプの中に徐々に徐々に蓄積させていきます。

光が段々と心臓の中に溜まり、交わり、どんどん大きくなり、そして熱を帯びてきます」


確かにどんどん胸の辺りが温かくなってきた。


「リキの胸のあたり、光って見えない?」

「あぁ、確かに俺にも見えてきた」


シュナもアツシも、俺の身体の変化がわかるようだ。

目をつぶっているが、俺にも光が強くなり、強い熱を放っているのが感じられる。


「ここから先はその光を動かしてみます。目を開けて。光を自由に変化させてみて」


俺は目を開ける。

胸に集まった光は、明らかに初めて見る異世界の光景だ。

異常事態なはずだが、なぜだか以前から知っているような感覚で、自然に感じられる。

胸の辺りにあった光を、右手のひらまで動かしてみる。

光は俺の思うとおりに、ゆっくりと身体を伝って右手に宿る。

大きくしたり、小さくしたり、手の表面に出したり、丸くしたり、尖らせてみたりする。

ただの無色の光だったが、色を変えてみる。

青っぽい光から、緑、黄色、オレンジ、紫、赤、白、黒、そして無色へ。


「イメージどおりに動かせるみたいね。ここから先は私にもわからないわ。あなたの感覚で、あなたの能力を目覚めさせられるかしら」


アツシやシュナには、突然丸投げされたように見えたかもしれないが、俺には今度こそ何となく、何をすればいいかがわかっている。

右手にあった光を胸の辺りまで戻し、目をつぶりなおす。

胸の中で、体の中の光をさらに集めていく。

光を凝縮し、手の形に変える。

体の中心に、水道の蛇口の取っ手のようなものがあるのを感じる。

俺はその取っ手を光で象った手で握り、反時計回りにひねった。

開ききったところで、目を開ける。


「でき、た…?」


俺がつぶやいたその瞬間、ドクンッと音が聞こえるほど胸が鳴り、視界が揺れ、身体の中にあった光が溢れ出し、部屋全体を埋め尽くした。

眩しい光によるものか、俺が目をつぶったのかもわからぬまま、強い光を最後に俺は何も見えなくなり、意識を失った。

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