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能力のON/OFF

世界を救えだって?

ファンタジーで言われてみたい言葉ランキングの常連フレーズがクルミから飛び出した。

実際言われてみるまでわからなかったが、期待された喜びと、俺じゃない感が半々で、同時に襲ってくる。


「いや、そんなこと言われても、俺にはそんな力ないぞ」

「そもそもマナばぁさんがいないと、俺たちは能力を使うこともできないって話だろ?」


俺の発言にアツシも重ねてくる。

ここまで聞いてきて、完全に詰んでいるのはよくわかった。

今さら任せたと言われるのは荷が重すぎる。


しかし、クルミは疑問ももっともだと頷き、彼女の計画を話し始めた。


「私たちも初めは絶望したわ。でも、特異能力を研究している専門家チームのアドバイスも受けつつ、1つの仮説に至ったのよ」


与志乃家は代々、能力付与の仕事を受け継いできたが、今代はマナばぁさんに子ができず、彼女の死により完全に血脈が途絶えている。

世界に1人しか持たない能力付与の力は、専門家たちによってさまざまな観点で研究されていた。

特異能力は体内にある魔力を別のエネルギーに変換して発揮されている。

与志乃家の能力は、便宜的に"能力付与"とは呼んでいるが、意図して特定の能力を付与することはできない。

あくまで、本人が持つ魔力変換機能を、正常に機能するように変えているだけなのだ。


「んーと。例えば、水が出ない水道の蛇口をひねってあげるようなもの?」

「かなり近いわね。それだと水が出っぱなしになるから、どちらかというと電気のブレーカーを上げる、ガスの元栓を開ける、が近いかしら」


シュナの例もシンプルだが、クルミの補足でさらにイメージが付いた。

なるほど。本人がON/OFF可能だけど、その大元がOFFだと使えない。そこにアプローチするという訳か。

OFF状態の魔力変換機能をONにするものだとすると、現在の俺自身がまさにOFF状態な訳で…。


「あなた達の世界に与志乃の力を使える人がいたら、その人は能力を使ったことがなくとも、自ら魔力を解放させられるのではないかと考えたの。理論上可能性は高いわ」

「何となく話はわかってきたな。リキ、できそうな感じはあるか?」

「愚問だな」

「は?」


アツシが聞いてきたバカげた質問に、俺は即答する。

確かに昔から薄々、俺には特別な力が秘められている感じがあった。

小二の頃には死後の世界に思いを馳せて、小四の頃には手から()を打てるように筋トレを始めた。

小六で人より早く中二病を患って、高校に入っても完治しなかった。

大学受験の頃には、それらを黒歴史と思うようになっていたが、あれは俺が痛かった訳ではなく、モノホンだったからと、今わかった。

フッ…。事実は小説より奇なり。

真相を知ると、俺の感覚こそが信じるべき唯一のものだったということだ。

俺はクルミと視線を合わせて、彼女の望みに答える。


「俺がこの世界の救世主(メシア)になろう」

「こいつ、すっかりその気になってやがる」

「キモ。何年か鳴りを潜めてたヤバイ感じが復活してるわ…」


アツシもシュナも、まだ真の気付きの領域に至っていないようだ。


「かわいそうに。俺がお前ら二人のことも目覚めさせてやるよ」

「「はいはい、よろしく」」

「ごめんなさい」


もう二人とも目も向けてくれなくなったので、素直に謝っておいた。

異世界に来てボッチになりたくない。


「それにしても、副作用とかないのかな?何だか身体を改造するみたいで、怖いんだよね。変な障害が残らないかとか…」

「手術とは全然違うし、これまでに能力開花で異常が発生した事例はないわよ」


ふむ。そもそもが"無能力=障害"の世界だ。

障害を治す措置が原因で、障害が残るという発想もあまりないのかもしれない。

あの有名な全然ダイジョーブじゃない博士の手術が頭を過るが、別物と考えるのがよさそうだ。

まだもやっとした表情のシュナに俺は軽く声をかける。


「そもそも俺たちはこの世界にも能力にも全く知識がない。今から情報を仕入れていっても、この世界の人たちの経験則に頼らざるを得ない場面は出てくると思う。それだったら、俺たちを召喚したクルミたちの下でやってみたほうが1番早いよ」

「はぁ…。あんたは本当にいつも考えなしよね。心配している私がバカみたい」


嘆息しつつも、シュナの表情が和らいだ。

それに、なんとなくだけど、できそうな気がするのだ。

クルミから話を聞いて、黙っていられないしな。

改めて俺はクルミに向き直る。クルミも俺が覚悟を決めていることを、表情から読み取ったようだ。


「いいんですね?」

「嫌だって言っても、結局やらせるんだろ?俺が断ったら、数年後にここにいるのは俺の両親や妹かもしれないしね」

「あら、リキは見た目と違って鋭いのね」


クルミは軽く目を見張ってきた。よく見たら後ろにいるメイドの佐藤さんもほう、という表情で俺を見ている。

ちょっとこの人たち、メシアたる俺のこと舐めているよな。

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