プロローグ
初投稿です。1年前からなろう小説にハマって、自分でも書きたくなってしまいました。
少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。
2012年11月7日。
都内の某大学のキャンパスにあるサークル棟の一室、俺、与志乃理樹は一冊の漫画を読みながら椅子に座っている。
手にしているのは、ちょっとエッチな料理バトルもので大好きだったけど、なぜか終盤にかけてグロ描写が増えて人に勧めにくくなった漫画だ。
たまに読みたくなるんだよな。
狭い部室には、壁一面の本棚にずらりと並ぶ漫画やラノベ。
後ろには、2台の長机がL字型で並べられている。
部室存続のために今日の文化祭で申し訳程度に展示している、漫画とアニメに関するレポートが何部か置かれている。
昨年展示したレポートの表紙の"2011年"を"2012年"に変えてすべて印刷し直すという、それなりに手のかかった作品たちだ。
"※ネタバレにならないよう気を付けて作成しました"という魔法の言葉を1ページ目に書いてあるので、枚数も内容もペラペラだ。
「リキさ」
「ん?」
"受付"と書かれた紙が貼ってある机を挟んで向かい側、壁に背中を預けながら遠藤敦志が俺に声をかけてきた。
身長180cm手前、黒髪短髪、細マッチョという、いかにも爽やかでモテそうな風貌。
高校時代テニス部で、全国ベスト8だか16だか、かなりいいところまで行ったそうで、テニスコーチのバイトをしている。スポーツマンだ。
大学1年の時に、なんとなく仲良くなった俺の親友。なんでこんなヤツが俺みたいな根暗と仲良くしてるのか不明だ。
「こないだの罰ゲーム、ちゃんとやったか?」
う、こないだのか…。アツシの質問に、漫画から目を離して、後ろに並ぶアツシが印刷してくれたレポートを見る。
「このクソ忙しい時期に購買の印刷機の予約取れた日に、急に連絡つかなくなって、慌ててシュナがデータ編集して、俺が印刷したんだからな」
「ごめんって。急にバイトなんか入れて。罰ゲームもやってるよ。エンドレスエイト3周目、昨日5話まで見た。気が狂いそうだよ」
「ちゃんと見てんだな。しっかり反省しろよ」
アツシは毒づきながらも、爽やかスマイルを俺に向けてくる。
4年生の気弱そうな部員が1人だけというこの漫画研究部に目をつけて、自由に使える部室を大学内に作ってからもう3年半。4回目の文化祭を迎えても、俺たちは同じような日常を繰り返している。
「お疲れさまー。…って疲れてるヤツなんかこの部屋にいないか」
「客が一人も来なくて、暇過ぎて疲れてますよー」
「そんなことだろうと思って、模擬店でたこ焼きと唐揚げ買ってきた私を崇め奉りなさい」
「「ハハァー!シュナ様の仰せのままに!!」」
「苦しゅうない」
いい匂いと共に部室に入ってきた女子、喜多村 守奈が机の上にドンと差し入れを置いた。
162cm。ショートボブの髪型に、一目惚れするほどではないが、愛嬌のある笑顔を携えたこの女子は、かれこれ地元の中学から上京して入った大学まで一緒だった腐れ縁。
中学、高校では水泳でどちらも全国大会出場経験あり、今も大学の水泳部と、この漫画研究部の部員を兼務している。
ちなみに漫画研究部はアツシが副部長、俺が部長。部員はこの3人である。
「結構人来てた?」
「模擬店の方は割と人込み始めてたよ。部室棟の2階はご存じのとおりガラガラ」
「さいですか」
アツシとシュナが世間話を始めた。
2人とも俺と同じ大学4年生。来年からは大手企業への内定が決まっている。
アツシはコンサルティングファーム、シュナはメガバンクだ。
俺?
俺も内定はある。ニートにはならないぞ。
何を隠そう、2人のように大手企業など"普通"の就職はせず、時代はベンチャー!
ということで、ベンチャー気質の残る中小企業に内定をもらって就活を終了した。ベンチャー企業と言い切らないところに、奥ゆかしさと安定感すら感じている。
1年前は未曾有の大災害も起こって、世は就職難の時代。就職できない若者が相次ぎ犯罪を犯す治安のよくないニュースもちらほら報道されている。雇用を作れ。がんばれ大人たち。
とまぁ、そんな状況だから、就職できるだけでもなかなかすごいことなのだ。
んー。イケイケのアスリート二人に囲まれて、まだ俺の存在がかすんでそうだな。
俺自身の武勇伝も語っておこう。
あれは中3の夏、全国統計テストという学力テストで、総合得点で俺は県内1位になったことがある。
中部地方の田舎にある我が愛する故郷において、人数の多いマンモス校で、俺は常に学年2位の学力だった。
万年2位だった俺が、全国テストで1位のヤツに勝てたのか?答えは否。
1位のヤツは俺と違って運動もできたので、そいつが全国大会出場中で受けられなかった全国統計テストで、たまたま1位が取れたんです。
でも1位だよ?県でトップ!学力の全国大会があったら出場間違いなしでしょ。だから俺もここにいる2人と同じくらいすごいってこと。全国区って訳。それにいつも1位だったアイツに勝ったわけじゃないけど、アイツが受けてたとしても、あの時の俺の点数には届いてなかったかもしれない訳だし、そういう意味では真にすごいのは俺な…
「この階じゃない?」
「確かそうだよ!パンフに書いてある!一番奥の部屋だ」
「ねぇ、ホントに行くの?」
俺が高尚な物思いにふけっていると、廊下から声が聞こえてきた。
ワイワイキャッキャという感じの女子の声。2人、いや3人か。
「ん、お客さんかな?」
「一番奥って、ウチだな。唐揚げ片付けないと」
「そうだな…って、あ、バカ!片付ける先は口じゃねぇ!唐揚げ俺まだ食ってねぇぞ!」
2人も近づいてくるお客さんたちに気づいたようで、慌てて片付け始めた。
女子3人が漫研に興味ね…。
どうせ、行く先々で殺人が起こる頭脳は大人な名探偵とか、自分の名前5文字しか話せないビリビリネズミとかが好きなんだろうよ。
聞いたことない漫画とアニメのレポート見て、テンション下がって早く帰っておくれ。
唐揚げをもぐもぐしながら、お客さん第1号に対してそんな失礼なことを考えていた。
そんな矢先。
何の前触れもなく。
急に俺の足元がぼんやりと光り出した。
「は?何急に?」
「アレ、俺らの足元…」
「何よこれ?」
周りを見ると、アツシとシュナの足元も同じように光っている。
「キャッ、なんか光ってない?」
「え、マジ―?」
「二人とも何言って…ッ!」
廊下からもそんな声が聞こえてきた。
次の瞬間。
ドンッ!
「痛って!」
急に、尻への鈍痛と共に、景色が変わった。
いや、正確に言うと目の前にいたアツシとシュナの立ち位置は変わらず。
背景だけは見慣れた漫研部の部室ではなく、木造の建物の、今までいた部室の3倍くらいある部屋にいた。
椅子に座っていたのは俺だけだったので、俺だけ尻もちをついた状態。ずるい。
いや、そんなことどうでもいい。リキはこんらんしている。わけもわからず自分を…
「成功~!久々にできるか不安だったけど、やっぱ私って天才!」
「お嬢様、お身体の具合は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
状況に追いつけず頭の中でトリップしていると、背後から女性二人の声が聞こえた。
振り返るとそこには、
木造建築には似つかわしくない、
絵に描いたようなフリフリお洋服にくるくるロールツインテールなお嬢様と
絵に描いたようなメイド服を着た20代半ばくらいの女性がいた。
振り向いた俺含め、3人からの視線を受けて、お嬢様は俺たちに声をかけてきた。
「皆さん、こんにちは。こちらの世界へようこそ」
懐かしきあの時代