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第八話 王妃様のお茶会

お茶会について考えてしまうと、無意識にため息が出る。


「気持ちは重々分かりますが、お慎みください」


ついた瞬間に、すぐに窘められた。

同乗しているのは、既に白髪が目立ち始めた穏やかな笑みをいつも浮かべる世話役のキャンベラ伯爵婦人。

元々オタゴリアで外交官をしているマーティン伯爵のご令嬢だったのもあり、私の世話役を一任されている。

私が生まれる前に、既にカンタベルに嫁いだのでオタゴリア出身とはいえ会ったことは一度もなかったのだけどね。


「アリシア王女殿下、カンタベルのお茶会もオタゴリアのお茶会も同じような感じですから、そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。

今回のお茶会は、誰が味方なのかを判別する良い機会ですしね、避けて通れないのであれば、早めに顔合わせをしておいた方が後々の為になります」


さっきまでのカンタベルの言葉ではなく、オタゴリアの言葉で助言してくれた。

助言の内容はともかくも、久々に聞くオタゴリアの言葉に胸が一杯になる。

だけど、ここでセンチメンタルな気分に浸ってはいられない。

なにせ情報が少ない中でのお茶会だ。

出来る限り必要な武器は手に入れておきたい。


「招待された方の一覧を頂いたけど、4大侯爵家のご婦人と、伯爵夫人が6人位でしたっけ?

この方々は、カンタベルの貴族の中でも一番発言力があるということかしら?」


「そうですね、まずブキャナン侯爵夫人は、言葉数がとても少ない方です。この婚姻を進めたのは、ブキャナン前侯爵でしたので、その意味でも一番内情をお分かりになっているお方です。

また、アシュリー侯爵夫人は人をよく見るお方です。

彼女の観察力や洞察力は侮れません。

ブルームフィールド侯爵夫人は、良い意味でも悪い意味でも話題豊富で、いつも新しい話題を提供してくれます。

そして、そうですね、今ご婦人方で一番影響力のあるお方は、王の右腕ともいわれている御夫君をお持ちのオダリングス侯爵夫人、それだけでなく彼女は王妃様の妹君です」


キャンベラ伯爵夫人が今日のお茶会に出席する奥様方の情報を提供してくれる。

頭の中の情報と照らし合わせて、追加された情報を脳内に書き足す。


お茶を飲むだけだっていうのに、この苦労…

私のそんな嘆きを素知らぬふりして、キャンベラ伯爵夫人は声を落とした。


「オダリングス侯爵はとても立派な人柄なのですが、夫人の方は…彼女は一癖も二癖もおありです。

正直申し上げますと、私はずっと彼女は自分が王妃になりたかったのではないか、と思っています。

この婚姻は表向き賛成しておりますがその実、自分の娘であるジェシカ嬢を王太子妃にしたがっていたし、実際ある程度動いていたと聞いています。

そして、実際お茶会が今日の午後に変更になったのも彼女が式前にアリシア王女殿下に会いたかったからです。

うまく王妃様を誘導したのでしょうね。

足を引っ張るとしたら、彼女でしょう。

王女殿下、お気を付けください」


聞こえるか聞こえないか位の小さな声で、うわーお、と言いたくなるような情報を耳打ちしてくれた。


まぁ、覚悟はいるよね、うん。

分かってはいたけど、全くもってきな臭いわー。


「しっかりしなさいませ、アリシア王女殿下」


思わず遠い目になりそうな私を現実に引き戻す。


王城につき、着替えたら戦場だ。


まさか、結婚式前にこんな目に合うとはね。

だけど、なめてもらっちゃ困る、私だって腐っても王女。

伊達に場数は踏んでない。


キャンベラ伯爵夫人は気合を入れなおした私を見て、うんうん、と微笑んでくれた。


王妃様主催のお茶会、内実は結婚式前のレセプションパーティ時に、有力貴族のご婦人方と顔見知りの方が色々と物事が円滑に進められるであろう、という計算で開かれたもの。

レセプションパーティ前に王太子殿下の婚約者である私と個人的に会うことで、彼女らの自分たちは特別扱いを受けた、という優越感を満たすのだ。

オタゴリアの王家独裁と違って、カンタベルの王家は貴族間のパワーバランスを上手く捌かないといけないらしい。

大変ねぇ…と第3者目線でいられたらどんなに楽だったか。

私、今回のメインゲスト兼観察対象者。

そして、ご婦人方の暇つぶしの玩具。

次期王妃として、私が相応しいかどうか。

私の器量を見に来るのだ。

逆もまたしかり、なのだけどね。


キャンベラ伯爵夫人曰く、「オタゴリア出身は保守的で田舎者」そんな風に色メガネで見てくるでしょう、とのこと。

まぁ、確かにオタゴリアは内陸も内陸、山に囲まれてると言えば聞こえが良いが、海に面してないので貿易港はないし、国自体、風通しも良いとは言えないだろう。

なんせ父様、あれだし。

結構な強引に推し進めるしねぇ。


そんな事を思っていたら、どうやら準備が整ったらしい。

鏡の中の私は、少し眉尻を下げ優し気な顔になるようにメイクをされている。

自前の眉を使ってしまったら、迫力ありすぎだもんね。

嫁入り前の儚い少女感を出したい身としては、ちょうど良い。

侍女が最終確認をしている。

息を吸い込み、大きくゆっくりと吐き出す。

ニコリと笑い口角を上げる。


「さて、行きますか」


独り言のようにつぶやいて、私は決戦の場に向かった。



王妃様が一通りの紹介をしてくれて、にこやかに挨拶をしながら顔、名前、肩書と自分の中のカンタベル貴族名鑑を上書きする。


「あらあら、まぁまぁ!なんて素敵なお嬢様なのかしら!

あら、いやだ、王女殿下にお嬢様、だなんて失礼な事を口にしましたわ」


ビックリするくらい甲高い声でコロコロと笑うふくよかな、たれ目の優しそうな婦人。

見た感じでは絶対に騙されそうになるが、この人こそがキャンベラ伯爵夫人が気をつけろと注意したオダリングス侯爵夫人だ。

てっきり、かなりきつい顔立ち、痩身のブルームフィールド侯爵夫人をオダリングス侯爵夫人だと思ったくらいだ。

王妃様の妹君、って聞いたいたけど、どう見ても、王妃様と似てないのですが。


「それにしても、アリシア王女殿下は、お背が高くいらっしゃるのね。

依然お会いしたフィリップス王太子殿下もお背が高くいらっしゃったわ。

オタゴリアの王家の血筋を感じさせますわねぇ。

そして、スラリとしていて、とてもスタイルがよろしいのね。

女性で、こんな素敵なお召し物を着こなせるなんて。

本当にドレスの柄が映えて、豪華で煌びやかさが増しますわね。

見とれてしまいますわ。

アリシア王女殿下のお傍にいたら、存在が霞んでしまいそうですわ。

フフフ、王太子殿下とご一緒の姿を早く見たいですわ」


高音で、早口で捲し立てる様に話すオダリングス侯爵夫人。

彼女はそのまま、ねぇ?と周囲に相槌を求める。

コロコロ笑いながら話す彼女は悪意が無いように見える。

まぁ、悪意というか、何というか。迫力は、あるかもしれない。

捲し立てる様に話されると、飲まれるというか。

でも、簡単で分かりやすいので可愛らしいというか。

ジェイコブ王太子殿下との身長差があるから、二人で並ぶと凸凹が目立つから楽しみなんだなぁ、というのが目に見えて分かる。

そして、彼女の言わんとすることが分かるのだろう。

隣に座るアシュリー侯爵夫人もオズウェル伯爵夫人も、微笑んではいるが微妙な雰囲気だ。

少しばかり、空気が違う。

まぁ、率先してけなすような方はいないか。

ある程度の反発は、なくはないと思っていたのだけど。

うん、これ、もしかしたらオダリングス侯爵夫人以外は大丈夫かもしれないな。

そんな算段を頭の中でする。


「そんな過分に褒めていただいて…光栄です」


言葉少なめに微笑む。


「あらあら、ご謙遜を。本当の事を言ったまでですのよ」


オタゴリア王家、背が高いからね。

兄様はそこまで大きくないけどね。

いや、一般的には大きい方か…

オタゴリアの人間が大きいのか、はたまたカンタベルの人間が小さいのか…


「あぁ、本当にレセプションパーティが楽しみですわ。

ウェディングドレスはオタゴリアでデザインされたのですよね。

カンタベルのデザインとは違うと伺ってますから、どんなドレスをお召しになるのかと思うと。

もう、私、待ちきれませんわ」


私が曖昧に微笑んでいると、オダリングス侯爵夫人はグイグイとくる。

何だったら、彼女以外誰も話していないんじゃないかって位だ。

癖があるというか、何というか。

これくらいなら軽く聞き流しておけばよいかもね。


そんな風に安心していたから罰が当たったのか。

彼女の発言は次が本命だったのだ。

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