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第四話 婚約者様とのご対面

馬車が止まる。私は一つ深呼吸をした。

従者がドアを開けるまでの間、王女としての顔を用意する。

窓から見えるのは私を迎えるために整列している近衛隊。

開けたドアから見えるのは。

私の目は、彼に釘付けになってしまった。

私をエスコートするために手を差し出してくれる、その人は。


「アリシア王女殿下、お手をどうぞ。

お目にかかるのは初めてですね。

私がジェイコブ・ブレンダン・ムーアです」


そう言って爽やかに笑うのは、金髪碧眼の王子様。

肖像画から抜け出たかと思うほどの、いや、肖像画よりも本人の方が10倍は良い、ジェイコブ王太子殿下だった。

だ、誰よ?肖像画は想像画だなんて言ったの!

あ、私か。

…ご、ごめんなさい!

ごめんなさい!

自分が10割増しに描かれていたからって、カンタベルの絵師まで疑ってごめんなさい!君らは良い仕事をしたよ!本当に。

本当に少女の憧れそのままの王子様だったよ!

心の中で謝罪しまくる。


そんなパニック気味な心境はひとまず全てをごまかす淑女の微笑みの下に隠し、手をさしだした。


馬車から降りて、彼の隣に立つ。

うん、聞いてはいたよ。

うん、知っていたよ。

私より背が低いって。

知っていた、けど。

金髪碧眼、少女の夢を10割増しに具現化したジェイコブ王太子殿下は、私の顎位の身長でした…


あぁ、私は。

背が低いといっても、まさか、一目で身長差があると分かる程だとは思っていなかった。

兄様よりも、少し小さいくらいかしら、と自分に都合の良いように想像していたんだわ。

思わず遠い目になりそうな私に構わず、ジェイコブ王太子殿下は私に微笑んだ。


「オタゴリアからの長旅では、さぞお疲れの事でしょう。

部屋を用意しておりますので、まずはお身体を休めてください。

お部屋まで、私がエスコートをします。

それにしても、アリシア王女殿下は、肖像画の通り、素敵な方ですね。

2週間後の式が、楽しみです」


お、おおぅ…笑顔が眩しい…

爽やか100%の笑顔で私を見上げ、歓待ムードを前面に押し出すキラキラ王子様。


「お目にかかれて光栄です。

オタゴリア第一王女のアリシア・ジェーン・オタゴリアです。

御心使い、ありがとうございます」


目を合わせてから、優雅に微笑む。


…すごいよ、この人。

私の方が背が高いのも気にせずに、なんの躊躇もなく腕を差し出す。

一瞬、手を差し出すのを迷った。

私は今まで背の低い人にエスコートしてもらったことがないから。

だけど、この場で手を差し出さないわけにはいかない。

戸惑いまくりの気持ちを押し込んで、微笑んで手を預ける。

周囲を見回す余裕は、私にはなかった。

貼り付けたような笑顔のまま、しずしずと移動する。


移動してすぐに、とても歩きやすいことに気が付いた。

エスコートするのに、背が低いとか高いとか関係ないのかな。

そう勘違いしてしまうくらいに、違和感がなかった。

だけど、違った。

彼は、ちゃんと私をエスコートするために考えていてくれたのだ。

私が歩きやすいように、エスコートされやすいように。

私の手を置く高さまで考えているのか、自分の肘の位置を高く上げている。

どの高さであれば、私が歩きやすいのか、まで。

計算されつくした、洗練された、完璧なエスコート。


それに気が付いてジェイコブ王太子殿下の顔を見ると、彼は私を見上げて微笑んだ。

女の子なら、誰でも目を引かれる少女の夢を実現したような顔の王子様。

私を気遣う、さり気ない気配りまで出来るのなら、王子様じゃなくても女性に人気がでるだろう。

うん、もてないわけがない。

この人と、2週間後に結婚するの、私?

本当に私とこの人、結婚するの…?

するんだよね、うん。

なんだか、あまりにもスマート過ぎて現実感がない。


冷静に観察している私の気持ちに反して、私の心臓はドキドキと音をたてはじめた。


え、私、どうしたの!?

静まれ、私の心臓。


考えてみれば、私をこんなに甘い笑みを浮かべて、女の子扱いをしてエスコートしてくれた人はいなかったのだ。

数々の恋愛小説を読んでいたけど、エスコート一つで恋に落ちる主人公はいなかった。

ううう…

こんなんでドキドキするなんて、私、単純すぎるわ。

何て簡単な女なのー


は、早く部屋に行って一息つきたい…

そう思った私は悪くないと思う、ううん、そう思わせて。



部屋に移動するまでの間、カンタベルまでの旅はどうでしたか?

など、誰に聞かれても困ることはない、当たり障りのない話をした。

移動しているのもあるし、どこに人の耳があるか分からないからね。

というか、私達、初対面だしね…

早々、盛り上がるような話題はないよね。

私も、オタゴリアの天気とかカンタベルの天気や気候など話して場をつなぐ。


少し、心臓が落ち着いてきた。

慣れてきたらしい。

緊張していただけだったのね、全く私ったら。

うん、やっぱりエスコートされたくらいじゃ恋に落ちないのよ。

そうよね、良かった、私は、そんなに簡単な女ではないのよ。

恋におちるっていうのは、もっとドラマチックで、ロマンティックなものなのよ、きっとね。

あれは、きっとジェイコブ王太子殿下の肖像画以上の美青年っぷりに驚いただけなのよ、うん。


納得しつつ、何となく視線を彼に移せば、彼の頭部が目に入る。

彼は身長差を気にしていないのだろうか?

そんな雰囲気は微塵も出さないけど、本心はどうなんだろうか。

彼も、王族だ。

そんな簡単に心の内を見せることはないだろう。

そして、私も彼も政略結婚で決められた婚約者で、しかも初対面なのだから。

なんとなく気詰まりな思いになって、視線を先に戻す。


私のそんな思いを知ってか知らずか、彼は堂々と文句一つつけれないくらいの完璧なエスコートをしてくれている。

彼の足が一つの部屋の前で止まる。

部屋の前には近衛の制服を来た兵が2人いた。


「父と母と会うまで時間がありますから、それまでは体を休めていてください。

式後には、私の住まいである東棟においでいただきますが、それまではこの客室でお過ごしください」


「有難うございます」


そう言って頭を下げて視線を戻すと、ジェイコブ王太子殿下はニッコリと微笑んで私を見つめたまま、上目遣いに手の甲にキスをしたのだ。


え?


驚いて呆然とした私を見て、彼は、悪戯が成功した子供のような顔をすると颯爽と去っていった。


え?

ええええ?

目が。

目を見つめられたまま、手にキスされたよ?

手袋越とはいえ、ううん、手袋越でも、彼の唇が私の手に触れた。

きゃあああああ!!!!


落ち着いて私、落ち着くのよ!

あれは単なる親愛の挨拶。

でも、あの、いや、ずっと目を見つめたままで、手の甲に口づけるのは違うような気が…

いやいやいや。

婚約者なんだから!

そう、私達は婚約者です、だからね、当然の挨拶なのよ、きっと。

私達、3週間後に結婚するんだから。


一生懸命冷静になろうと頭を冷やす情報を繰り返す。


なのに、全身の血が一気に頭に登っているのではないかというくらい、顔が熱くなる。


あまりにも恥ずかしすぎて。

心臓はさっきよりもドキドキして。

出来れば顔を覆って身悶えしたい。

もしくは、叫びたい。

しかし、ここはカンタベル王城内。

そんなことをしたら挙動不審で訝しがられてしまう。


ありがとう、淑女教育。

私、根性だけはあったわね。

表面上は、少し恥ずかしがりながらも平然と受け流す王女、として務めて冷静に行動した。

…。

多分。

自信ないけど。


そして、カンタベルの近衛兵も良い仕事をする。

ちゃんと空気を読んで、私が落ち着くまで部屋のドアを開けずに待っていたのだからね。

恥ずかしさで人間が死ねるなら、死んでいるかもしれない…


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