番外編・顔合わせ前の努力
「ジェームス、君はオタゴリアのフィリップス王太子と同じくらいの身長だよな?」
「ジェイコブ様…?
オタゴリアのフィリップス王太子殿下と、ですか?
そう、ですね、確か同じくらいの身長だったと記憶していますが、何か…?」
首を捻る側近をジロジロと僕は見た。
フィリップス王太子からの手紙によると、どうやらアリシア王女殿下は彼と同じくらいの身長らしい。
僕はじっと側近のジェームスを見る。
男と踊るなんて嫌だが、そんなこと言ってられない。
うん、仕方ない。
やるしかない。
僕は覚悟を決めて告げた。
「ジェームス、明日からダンスの女パート練習しておいてくれ」
アリシア王女殿下と踊る際に、彼女に不自由な思いをさせたくない
「はい、分かりました。
ん?ええっ?
ダンスの練習って、女性パートの、ですか!?
僕が!?
…。
いえ、失礼しました…。いつまでに…?」
「早いうちがよかろう。
僕も自分より身長が高い女性と踊ったことがないのだから。
勝手が分からないことには、どうしようもないだろ?
それに、エスコートするにしても、どうすればよいか考えなくちゃいけないしね」
悲壮な顔をして、それでも僕の意に沿って練習してくれたジェームスは、僕が言うのもなんだが本当に良い奴だ。
そして、ジェームスは、運動神経も良いから思った以上に早く一通りのダンスを習得した。
最初は普通に組んで踊る。
やはり、身長が高いとホールドが難しくて何度も体勢を崩してしまった。
うまく形にならない。
横から見た時に不格好だったりして、様にならない。
エスコートするには肘を高く上げてどうにか出来そうなことが分かった。
この姿勢は、騎士としての訓練をしていた時よりも辛いかもしれない。
普段使わない筋肉が辛い。鍛えるしかない。
何度か踊るうちに、僕も上達してとりあえずの形になった。
彼の努力を無駄にしない為にも、いや違うな、本音で言うのならば野郎二人でダンスをするという精神的ダメージを減らしたい、少しでも早く切り上げたいという、お互いの共通の願いが良かったのだろう。
ダンスの先生が驚くほど早くに合格点を貰えた。
「…でも、女性はドレスを着るから、その姿で踊る事にもなれた方が良いのか…?」
さすがにそのセリフにジェームスは何も答えなかった。
聞こえているだろうに、聞こえないふりをしていた。
確かにドレスを仕立てるのにもお金がかかる。
別に金が惜しい訳ではないが、理由を言うのが悔しいというか。
仕方ない、こっちは諦めるか。
「ジェイコブ様、搾りたての牛乳お持ちしましたよ」
乳兄弟の僕の護衛がモーニングティーに牛乳を持ってきた。
はっきり言って僕は牛乳があまり好きではない。
だけど、仕方ないじゃないか。
少しでも、僕が出来る努力は惜しまない。
男だからね、僕は。
僕は意を決してごくごくと牛乳を飲んだ。
願わくば、僕の身長が少しでも、伸びますように。
願わくば、彼女がカンタベルで幸せになれる様に。
僕はまだ会えぬ婚約者を思い、2杯目の牛乳に手を伸ばした。




