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第一話 日取りが決まりました

自分の毎日が大変だとか、自分の生活が変だとか、そんなの考えたことがなかった。

与えられた課題をこなし、そして毎日がつつがなく当たり前に終わる、その日も、当然何事もなく無事に終わるものだと思っていたのだ。

珍しく家族そろっての晩餐をとっている時に、父が私へ命令を下すまでは。


「リチャード・トーマス・オタゴリアが第一王女、アリシア・ジェーン。

汝の婚姻の日取りが決まった。

1年後の無の月だ。異存はないな?」


異存あります、など言えるわけがない。

父が他人事のように私含め家族を正式名称で呼ぶ時は、全て決定事項なのだから。

母や兄が、ついに決まったのか、という顔で私を見る。

私は、ちょうど口に運ぼうと思っていたスープを諦めて、スプーンを下ろしてから父に向かい頭を下げた。


「はい、陛下のお心のままに」


私が生まれた時からの婚約者、隣国カンタベルの王太子、ジェイコブ・ブレンダン・ムーア。

この婚姻は、国と国の均衡の為。

そして平和、共栄の為。

正直言えば、当事者である私ですらようやく日取りが決まったのか、という感慨の方が強い。

でも、良かった1年はある。

私が今15歳。彼が今16歳。

16歳の花嫁と、17歳の花婿、か。

1年。

隣国カンタベルの言葉はほぼ完全にマスターしているが、それ以外のマナーなど総復習の1年になるのだろう。


毎年、誕生日のプレゼントと一緒に届く肖像画で見る彼は、青い瞳に金髪の王子様、だ。

子供の頃から毎年贈られてくる肖像画を心の底から楽しみにしていた。

そして、うっとりとこの人と結婚して幸せなお嫁さんになるのね、なんて夢をみたのは12歳までだった。

13歳の誕生日前に描かれた自分の肖像画をついうっかり覗いた時は、あまりの違いさにビックリしすぎて言葉を失った。

そう、王族の絵なのだから手心が加えられているのは当然というもので。

お世辞込みで10割増しに描かれているだろう肖像画は、もはや私とは別の人物の想像画としか言えない。


「これは詐称だ、とおっしゃるに違いありませんわ、些少の違いっていう範囲は既に超えています、これでは詐称ですよね、この美少女と私では…」


この肖像画で、私が嫁入りしたら同一人物とは絶対に思われない。

誰、この人って指さされそう。

もしくは身替りだと罵られそう。

それくらい、私とは違い過ぎる「美」少女が、そこに描かれていた。

いや、一応私、なのだ。

パーツ、パーツを取り出して見ていくと、私に似ている…ような気がしないでもない。

琥珀色の瞳、と言えば聞こえは良いがどこにでもいるような父親譲りの茶色い瞳、

唯一の母親似であるピンクブロンドの髪は艶々と輝いている。

これだけは嘘ついていないと断言出来るわ。

そして、本来の私にあるはずの、意思の強そうな眉と、残念ながらそこまで白くないでしょって肌の色。

微笑んでいるため、口は開いていないので口の大きさは分からない。

うん、小さな口、とは言えないよな、私…

なにせ兄に、なんか飲み込まれそう、と言われたことがあるくらいだし。

いやいや淑女教育で大口を開けることはしていないから、昔ほどは大きくないと思いたい。

色々と自省をしないといけない事が多々ある気がするが、とりあえずは気にしないでおこう。

と、まぁ、これがないだけで、かなりの美少女になる、らしい。

口閉じていればそこまで大きな口、とは思われないのかしらね…

殿方の前で一生食べ物を口にしないなら誤魔化せるのかもしれない…


そして。

自分の肖像画を見て悟ったのだ。

私がこれなのだから、彼の肖像画も眉唾である、と。

13歳にしてようやく現実を突きつけられたのである。

可愛らしいお姫様の夢が破れたのは、私だけのせいではあるまい。


そして、可愛らしいお姫様の夢が壊れたのはそれだけではなかった。

小耳にはさんだ、というよりも、兄との口喧嘩の際に兄がウッカリ漏らしたのだ。


「本当にアリシアは可愛げがない!

お前が可愛げがないのは性格だけだったら良かったのにな。

知らないだろう?

お前の婚約者のカンタベルの王太子は、お前よりも背が低いんだ。

性格も、身長すらも可愛げがないなんて、お前は本当に女か?」


さすが、兄。

私の痛いところを的確についてくる。

いつもなら十倍増しに反論する私も、その発言には咄嗟に言い返せなかった。

黙ってしまった私に気が付いた兄が、気まずそうな顔したのも余計に私の傷口を抉る。

だから、これはきっと事実だろう。

彼は、私より背が低いらしい。

うん、仕方ない。

私より2つほど年上、兄である第一王子フィリップス兄様は、私と同じくらい、か、少し高いくらいで、有体に言ってしまえば、ほぼ同じ身長である。

父は、私よりも少し大きいくらい、なのだ。

私は、女だてらに背が高いのだ。

多分、王族でなかったら貴族諸侯に馬鹿にされるくらいには、高い。

良かった、私この国の王女で。

下の身分だったら何て言われていたことやら。

勿論、私の身長の事を陰でなんやかんやと言われてるのも、知っている。

なにせ、私は子供の頃から抜きんでて背が高かったから。


同じ年の女の子と一緒に遊ぼうとしても、頭一つ以上出てしまう。

同じように可愛らしい恰好をしているはず、なのに、何かがみんなと違う。

皆と同じように遊びたいのに、同じように可愛い恰好をしたいのに。

皆仲良くしてくれている、はずなのに、なぜか感じる疎外感。

それは、王女だから、とかそんな理由ではなくて。


子供は正直だから。

こっそりと隣の子に囁いても、所詮、子供は子供。

声のトーンを少し小さくするくらいじゃ、聞こえる位には声が漏れる。


「男の子みたい」

「私の兄様よりも大きいよ」

「すっごく大きいよね」

「女の子なんだよね?」

「大きくて、怖い…」


地獄耳でもある私には、しっかりと聞こえてるのだ。


「兄様、私、男の子みたいだって…大きくて怖いんだって」


「そんな事ないよ、アリシアは可愛いよ。

何て言ったって、僕の可愛い、可愛い妹だから」


涙目でフィリップス兄様に訴えると、兄は優しく私の頭を撫でながら慰めてくれる。

私は、その時間が大好きだった。

だから、何か悲しい事があるといつも兄様の元に逃げ込んでは、甘やかされていた。


…えぇ、今考えれば、穴があったら入りたい。

こんな恥ずかしい会話を、よく兄様としたものだわ。

だって仕方ないじゃないの。

私だって、幼い頃はそんなことを言われて悲しく、嘆いたりもしたもの。

そうよ、傷つきやすい可愛らしい女の子だったんだから。

今なら分かるけどね、彼らが怯えていた理由も全て。

大きい分、傍に来られたら迫力があって怖かったんだろうって。


でも、その時は純粋にただ、悲しかった。


そして慰めてくれた優しいフィリップス兄様は、私がニョキニョキと育ち、兄様と身長が同じになるにつれ、優しくないフィリップス兄様に変わっていった。

優しくないというのは、正しくないかもしれない。

うん、どちらかというと、妹扱いから、弟扱いに変わっていった気がする。

兄の従者達と走り回り、侍女の顔を青ざめさせ、マナーの教師からお小言をくらうのが当たり前の生活に。

兄から女扱いは、ほぼされなかった気がする。

でも、一応私も王女。

やる時はやります。

そんな事でこの淑女の仮面を被れば淑女らしく、王女らしい振る舞いはお手の物、普段は兄達と遊びまくる、見事に要領の良い王女様になりましたとさ、って私の事だけど。


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