4.俺はまた繰り返すー紗雪の恋ー
紗雪視点、入りまーす⤴︎⤴︎⤴︎(ホスト風)
「もう、遅いですよ? 先輩」
「ああ、悪い悪い」
「とか言いつつ、全然悪いと思ってないですよね?」
図星です。
姉貴のプレゼント選びに付き合ってくれるのはありがたいんだが、沙雪の場合、それだけで済まなそうなのが怖いんだよな。
なんて言えるはずもなく。
「そんな先輩には、罰を与えます」
「罰?」
「はいっ、こうします!」
「うおっ!!!」
理不尽にも罰が下ることが決定すると同時に、右腕が柔らかい感覚に包まれる。
それは、昨日の昼休み、屋上に行く途中で感じた至高の感覚と同じ。
つつましくも確かに性の違いを感じさせる、彼女の双丘だった。
「どうしたんですか~? ふふ。あ、もしかして興奮してます?」
「なっ、そりゃあこんなことされれば誰でもっ」
「え~、そんなことじゃあ分かりませんよ?」
「くっ、分かんなくていい!」
赤面して心臓がバクバクなった俺は、右腕をつかんでいた沙雪を離す。
「あっ、もう。先輩って初心なんですね」
「お前がおかしいだけだ! 会って数日の男にそんなことするんじゃねえっ」
誰だって沙雪みたいな美少女後輩にこんなことされれば興奮するに決まってる。
むしろ、それを鋼の精神ではねのけた俺はまさに紳士の中の紳士だ。賞賛されてしかるべきだろう。
しかし、沙雪は何故、会って数日の俺に対してこんなことをしたのだろう。
沙雪がそういうことをいろんな男とすることは、一昨日のこともあり考えられないし、俺が助けたからって惚れた、なんて事は流石に自惚れが過ぎる。
となると……、うん、分からん。
「言っておきますけど私、誰にでもこういうことするわけじゃあ、ないですからね?」
沙雪は俺の顔を覗き込み、万人を魅了させるその顔で、ニコっと笑った。
その笑顔は俺の心を、まるで情熱的な踊り子が躍っているかのように捕えてしまっていた。
まったく、そんな可能性はかけらもないというのに期待させて。
俺は首を振りつつ、沙雪を連れて自宅へと足を運ぶのだった。
※
※
学校から出て二十分が経ち、俺の家にたどり着いた。
今は玄関の前である。
なので入ろうと思ったがしかし、沙雪に伝えなければならないことがある。
ので、沙雪の耳に向かって小声で告げる。姉貴は地獄耳も恐れるほどの地獄耳。まさにヘルイヤーだからな。
姉貴のことを言う、もしくは考えたが最後、姉貴の視界にいれば感知されてしまうし、ましてや家の前なので油断はできないのだ。
「黒羽、言っておくが覚悟しておけ。姉貴は恐ろしいんだ。俺を馬車馬のようにこき使う理不尽の権化。そしてこいつは本当に女かと思うほどの干物っぷり。油断はするなよっ」
「ひゃ、ひゃいっ。ていうか何言ってるんですか先輩。お姉さんのこと、悪く言ったらだめですよ?」
「お前は奴を知らないからーー」
「っ~~~~~!!! はいっ、もう。いつまで乙女の耳元で話してるんですか。ほら、行きますよ」
くっ、ダメだった。まあ、現実を見てくれれば分かってくれるだろう。
そう思い、俺は我が家の玄関に手をかけた。
「ただいまー」
「おじゃましまーすっ」
「あー、おかえりー。と、ん? 誰? その子」
リビングに行くと姉貴がいた。姉貴はスーツを脱ぎ散らかし、ソファーでダラダラしていた。
しかし、相変わらず帰宅するのが早いな。まだ五時半だというのに、流石定時帰宅の鬼(俺命名)と呼ばれるだけある。
おっと、沙雪を紹介しないと。
「この子は黒羽沙雪。学校の後輩でーー」
「彼女なんですっ!」
「おいっ」
ーー何言ってんだ、と言おうとすると、グイっと引き寄せられ小声で言われた。
「よくよく考えてみてください。彼女じゃなければ、帰宅部の先輩が一年生と関われる訳ないじゃないですか。だから、一時的にでも彼女ということにすればいいんですよ。きっかけは一昨日の件で、私が惚れてしまったってことにしましょうか」
「お、おう。そうなのか? まあ、分かった」
と、会議が終わったところで、改めて。
「そうなんだ姉貴。一応、紹介しとこうと思ってな」
「へ~、本当に? こんな愚弟が彼女を作れるとは、到底思えないんだけど」
だが、全く納得していない姉貴は、目を細めて疑い、息を吐くように俺を馬鹿にする。
まあ、彼女が作れないのは事実であるが。
図星を突かれると人間は、腹が立ったりするものなのである。あと姉貴だし。
「はあ? 俺だって彼女の一人や二人出来るから。むしろ、こんな干物女の姉貴のほうが」
「ーーへえ。殺す」
「あっ」
死んだ。
般若が見える。はっはっは。
ああ、でもこれで沙雪も分かってーー
「死ねやぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「ぐはぁぁぁぁぁあ!!!!!」
……南無。
「さて、沙雪ちゃん。この馬鹿はほっといて、私の部屋に行きましょう」
「はいっ」
※
※
沙雪視点
私は今、紫乃先輩のお姉さんである莉乃さんの部屋にいる。
先輩は絶賛気絶中につき、莉乃さんと二人きり。
それにしても、綺麗な人だ。
私も容姿に自信はあるけれど、絶対敵わない。
莉乃さんからは、大人の魅力というものを感じる。
紫乃先輩は干物女なんて言ったけど、女の子なんて大体こんなものだ。私は流石にもうちょっとマシだけど。
しっかりと出るところは出ていて、私はどちらかというと慎ましいほうだから羨ましい。
……先輩、莉乃さんみたいな人の方がいいのかな。
なんて、少し胸が痛くなったところで、莉乃さんから声がかかる。
「本当は付き合ってないんでしょ?」
「え?」
「分かるわ、仮にもあの子の姉だもの。嘘をついているのはバレバレだし、表情を見るに多少意識はしているけれど、恋人って感じではないって感じかしら」
見抜かれていた。
けど、当然かも。
生まれた時から一緒にいるお姉さんなら、紫乃先輩が嘘をついているのくらい分かるだろうし。
何より、本当に、少し一緒に居ただけでも分かるほどに、表情に出やすくて、楽しい人だから。
「は、はい。その通りです。あ、でもーー」
「好き、なんでしょ? あの子のこと」
「うう、はい……」
こっちもバレてたのっ!?
わ、私そんなに顔に出やすいのかな。
でも、うわぁぁぁぁあ、い、言っちゃった。何気に初めてだ、人に言うの。
でも、すごい恥ずかしいけど、莉乃さんなら、いろいろ相談に乗ってくれそうだし、むしろ良かったかも。
「ふふふ、ねえ、どこが好きなの?」
「じ、実は、紫乃先輩は覚えてないと思うんですけど、私、ずっと前から先輩のこと知ってて。で、それ以来好きになったんですけど、名前すらずっと聞けてなくて、やっとつい最近聞けたんです」
ううっ、言葉にすると本当に恥ずかしい。
先輩の前では虚勢張って、この気持ちがばれないように生意気な後輩を演じて、全然好きな素振りを見せないけど、内心は先輩といるとドキドキしすぎて死にそうなんだよぉぉぉぉぉお!!!!!
「なるほどね~。あいつもいっぱしに女の子を惚れさせてしまったかぁ~」
「ほ、ほれって……!!!」
「よーし! じゃ、他にも色々聞いていこっかな?」
「っ~~~~~~~!!!!!」
※
※
う、痛てててて。
くっそ、あのバカ姉貴。思い切り殴りやがったな。
ったく、ていうか、沙雪は姉貴の部屋か?
……はあ、でも良かった。姉貴の部屋昨日片づけてて。
まあ、とりあえず姉貴の部屋に行くか~。
「お~い、姉貴、入るぞ?」
「ああ、いいわよ愚弟」
そしてドアを開ける。
「紫乃、あんたには本当にもったいないほどいい彼女ね」
「あ、ああ」
「えへへ……」
どうやら姉貴には偽の恋人だとはバレていないらしい。
そして沙雪は、顔を赤らめて綻ばせ、照れている様子だ。
演技と言われなければ正直、本当に照れているんじゃ、と思わされるほどの名演技だな。
とはいえ、もうそろそろ時間だ。
夜遅くに沙雪を帰すと、この前の二の舞になるからな。勿論、俺が送っていくが。
そして、少しの会話を挟み、俺は紗雪を送っていった。
「先輩こわーい」なんて全く思っていない顔で、紗雪に腕を組まれ、夜道を歩きながら。
……はあ、全く。この可愛い美少女後輩は、何を考えているのだろうか。
これから先、こいつに振り回される未来が、見えるような、気がする。
不本意だけど。
はーい、次の更新はいつになるか分かりません(多分明日の筈だけど)
次回、デート回。
今の所はその気分なんで(勿論ストックはない)、是非お楽しみに!!!
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