ワールド・オブ・オンライン 〜高難易度ゲームがガチャでチート少女を引いてからヌルゲーに変わった〜
昨日、連載を開始した作品ですが、私の都合により2月中の投稿が出来なくなってしまい、一旦削除させて頂きました。
本当にごめんなさい。
ですが、ご要望がありましたので昨日まで投稿していた部分を短編という形で再投稿します。
3月から連載を開始致しますので、その時は連載版を宜しくお願いします。
時刻は平日のお昼過ぎ。学生である俺にとっては昼休みの時間だ。
「絶対面白いから、やってみろって、な?」
俺の名前は碇冬彦。高校二年生だ。
いま友達から新作のVRMMOを勧められていた。
ゲームの内容としては自由にフィールドを動きまわれ、プレイヤー同士で多彩なコミュニケーションが取れたりと、従来のVRMMOとさほど変わら無い。
……だが、どうやらこのゲームの難易度はかなりのモノらしい。
その事を親友の青山尚樹が俺に熱く語ってくる。
正直、最近のVRMMOと言えば、オート機能で楽できたり、子供向けで敵が弱かったり、挙句の果てには放置しておけば次のログインで勝手にレベルが上がってたりと実に物足りないものばかりだった。
そして青山はそういったゲームが楽しめるタイプの人間。だからこそ疑ぐり深く聞いてしまった。
「……ゲーマーの俺でも楽しめる難易度か?」
俺の問いかけに友は自信を持って答えてくれた。
「もちろん!お前ってヌルゲー嫌いだったろ?そういう奴にこそオススメ出来るゲームだぜ!」
こいつは付き合いが長いだけあって、俺の性格を熟知している。
そんな友が言うんだったら本当に俺がのめり込む程の難易度なんだろう。
「じゃあやってみるか。家に帰ったら電話するから、後でな」
「おう、じゃあ後でな!」
学校の昼休みが終わり、今から授業なのだが気持ちは完全に青山が紹介してくれゲームに傾いていた。
家に帰ったら早速プレイだ!
しかし、なぜか身体が重い気がするな……俺はそう思いながらも放課後まで我慢して授業受けるのだった。
……そして、家に到着する頃には身体が重い理由がはっきりした。
──どうやら俺は風邪を引いてしまったようだ……最悪過ぎる。
しかも拗らせてしまい、3日も寝込む程の重症。
そして、当然その間はゲームなどさせて貰えない。
こういうゲームってスタートが大事だって言うのに……まさかサービス開始から3日も出遅れるなんて……
しかも青山なんかは俺が寝込んでる間に、他のパーティーに誘われてあっさりそのパーティーと組んだらしい。なんて奴だ。
まぁ3日もソロでやれとは流石に言わないけど……誘ってきた割には酷くないか?
俺はヤル気を大きく削がれながらも、せっかくダウンロードしたので、今からこのゲームをプレイする事にした。
ゲーム名『ワールド・オブ・オンライン』
俺はヘルメットを装着し、電脳世界へとログインした。
─────────
俺は電脳世界のマイルームにて、ヘルプを見ながらこのゲームの細かな設定や確認を行なっている。
「まずはプレイヤー登録だな…」
ここは既にやり慣れている。一応、結構な数のVRMMOをやり込んできたからな。
因みに、最近のVRMMOの性別設定は、システムがプレイヤーの性別を判別し、男は男キャラ、女は女キャラでしか登録する事が出来ない。
どういう仕組みかはわからないが、性別を逆で登録し、それが原因で大きな事件が有ったみたいだ。
要は女と思って貢いだら、本当は男で素性を特定。殺傷事件になってしまった。
故に、VRMMOでは性別を変更出来なくなってしまったのだ。
「キャラの名前はいつも通り、『ウィンター』で登録っと」
もちろん、名前の由来は冬彦の冬からきている。自分ではカッコイイと思っていたりします、はい。
──次に職業設定だ。
「種類は色々あるが、やっぱり最初は剣士だな」
俺は迷わず剣士の項目を選択した。
剣士は最上級まで成長すると、防御特化のホーリーナイトや捨て身攻撃に特化したダークナイトに転職出来たりする。
さっき攻略サイトで見た。もうそこまでいった奴居るのかよ……廃人め……
俺はますます失った3日間を悔やむのだった。
職業を選んだ事でステータスが表示される。
LV:1
名前:ウィンター
職業:初級剣士
称号:未設定
能力値
HP 20
MP 20
攻撃 10
防御 10
速度 10
魔力 5
抵抗 5
幸運 5
スキル
未所持
奥義
未所持
最初にボーナスとして能力値に振り分ける事が出来るポイントを6ポイント貰えるみたいだな……じゃあ早速振り分けるか。
LV:1
名前:ウィンター
職業:初級剣士
称号:未設定
能力値
HP 20
MP 20
攻撃 10 →12
防御 10
速度 10 →13
魔力 5 →6
抵抗 5
幸運 5
……ん~いい感じ。やっぱり剣士は速度と攻撃だよね。
そのうち上級職の魔法剣士を取るつもりだから、魔法も少しづつ上げて行くとしよう
因みに、このゲームはレベルアップによるステータスの上昇は無い。
その代わりレベル上昇時に、このステータスポイントが獲得出来る。
獲得ポイントは1〜6ポイントがランダムで配布。完全な運となっており、俺的には今の所このゲームでクソだと思う部分でもある。
早い話、同じレベル同士でも、運次第ではステータスに大きな開きが出来てしまうからだ。
まぁ最初の6ポイントは固定らしいが……俺は気を取り直してプレイを再開する。
──そして、戦闘などのチュートリアルを進めて行き、次がいよいよお待ちかねのキャラガチャの時間である──!
排出設定としては
R 87%
SR 10%
SSR 3%
となっている。
……因みにだが、SSRの中にはLRというレアリティのキャラが混ざって居るらしい。
全部で13種類。
それぞれがゲーム内に一体しか存在しない唯一無二のキャラらしく、サービス開始から3日目で既に3体排出された。
また、順次LRキャラは追加予定との事だ。
そして、噂ではLRより上のレアリティが存在するとの話だが、これは完璧に都市伝説。
LRの排出確率で0.0001%何だから、それより上だとどんな確率になるんだよ笑
俺は再び気を取直してチュートリアルガチャ画面を見る。
とりあえず、SSRが来たらラッキーくらいに思ってガチャを回した。
はっきり言って、LRは欲しいとは思わない。SSRくらいなら問題ないのだが、LRは調べによるとかなりのチートらしい。
その証拠に、LR所持者の3人は全員がモンスター討伐数や貢献度ランキングのトップテンに入っているのだ。
そんなキャラを引いてしまったら、それこそ高難易度ゲームの概念そのものが破綻してしまう。
……というか、そもそもの引けねーよ。
「じゃあ、回すか!」
俺は早速、チュートリアルガチャを回すことにした。
狙うはSSR!俺の豪運を魅せてやるぜ!
俺は意気揚々とガチャを回した──!
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
〜運営視点〜
私の名前は大原美弥子。年齢は秘密だ。
3日前にサービスを開始したVRMMOゲームの開発責任者。
『ワールド・オブ・オンライン』というゲームだが、滑り出しは上々。結構な売り上げを残せると今の段階で確定している。
また財産が溜まるって訳ね。みんな沢山ガチャを回しなさいな、うふふ♡
──そして話が大きく変わるが、私は今までいろいろなゲームを開発しており、その全てのゲームである遊び心を発揮させて来た。
それは隠しキャラ……及び、ゲームの種類こよっては隠し装備などの実装である。
無論、バレたらタダでは済まない。上には内緒にしているからだ。
何故内緒かって?それは、一つのゲームバランスを壊しかねない程の強キャラや強武器として作っているからだ。
故に、もしヤバイ人間に引かれでもしたら、そのゲームがめちゃくちゃにされ、イタズラがバレて私の責任問題となってしまい、人生終了になるだろう。
はぁ?そんなプレイヤーなんて居ない?──はっ!ゲームやってる奴らなんてヤバイ奴ばかりに決まってるだろ!?(偏見)
じゃあどうして人生を掛けてまで、こんなアホなことをするのかって?
それは、人生が終わるかどうかのスリルをとことん味わう為にさ!今は毎日が楽しい!
そして人生を掛けたイタズラだふぁ、当然、今まで一度だって隠しキャラ&隠し武器を引かれた事など無い。
何たって確率は0.00000001%!しかも全てのゲームでチュートリアルガチャのみの排出としている。
間違っても私が生きてるうちに引かれることはない…!
自身を持って言える、引かれることは、間違いなく、な い !
──そんなゲスな事を考えながら、私は今日も優雅にコーヒーブレイクを楽しんでいた。
しかし、そんな黄昏時を邪魔してくる不届き者が現る──!
その者は慌ただしく扉を開けて部屋の中へと入って来た。
その不届き者の正体は、後輩の松田由美だ。因みにだが、彼女も私と同じく年齢は秘密だ。
私も含めて、むやみに知られては困る年頃とだけ言っておこう。
そして私は慌てん坊さんに注意する。
「こら、松田。いかなる時も優雅さを大事に……いつも言ってるだろ?」
全くいい歳なんだから、もう少し落ち着きを持ってくれないだろうか?
私は内心でそう零しながら、コーヒーに口を付けようとした。
……その時だった。
松田はそれはそれは、顔面蒼白と言った表情でとんでもない事を言い出した。
「──か、かか、隠しキャラが、引き当てられました…!」
私は手に持っていたコーヒーカップを床に落とした。
もちろん、コーヒーカップは砕けて床は水浸しだが、私はそんな事を気にする精神状態では無かった。
まさか、0.00000001%壁を乗り越えし者が現れたというのか…!
「ままままじですか……!ありえない、あばばばばっ」
今度は私が顔面蒼白である。本当にどうしよう……
「大原さん!いかなる時も優雅にですよ!」
あ、これ言われる立場になると、すごくムカつくわね。
私は頭を抱えながらそう思った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
〜主人公視点〜
俺は目の前の少女の正体を探るべく、あらゆるサイトをくまなく探した。
少女って何の事かって?
それはチュートリアルガチャで引き当ててしまった意味不明な少女の事だよっ!
SSRはもちろん、RとSRも全キャラ確認した。
何だったら未だ引き当てるられていないが、LRの情報も確認した。というか此方をメインに探した。
公式サイトにはキャラ画像が掲載されているからだ。
……けど、彼女の正体は一向に掴めない。
身長は130cm程だろうか?
シルバーの長髪で、透き通る様な白い肌。服は髪色や肌とは若干アンバランスな黒いワンピースを着ている。
現在、彼女は電脳世界の俺のマイルームに設置している椅子に腰を掛けて座っている。
そして背が低いので足が地面に届かず、両足をパタパタさせているのだが、得体が知れないので可愛らしいとか思う余裕も無い。
いやまぁ凄く可愛いんだけども…一応、何者か本人に確認してみるか。俺はゲームのキャラ相手に何故か遠慮がちに声を掛けた。
「間違ってたらごめんね?ちゃんとした公式キャラでいいんだよね?」
誘拐犯みたいな喋りだな俺。
そしてこの問いに対して少女は──
「……ん~微妙なのじゃ」
と答えた。
……のじゃロリかよっ!
ますます可愛い……じゃなくて!微妙ってなんだよ!結構ヤバ目の答えが返って来たじゃねーか!どこにも情報が無いから困ってんだけど?!
俺はますます頭を痛めた。
──よし!何処にもデータが無いなら、もはや頼れるのは自分だけだ。まずは彼女について知る事にしよう。
「とりあえず、ステータス確認してもいいか?」
「いいのじゃ……見方は分かっておるかの?」
「うん。じゃあ確認するよ?」
俺は余分なやり取りはせず、彼女のステータスを確認した。
LV:1
名前:フェイルノート
種族:吸血鬼
称号:???
能力値
HP 2469
MP 2780
攻撃 1340
防御 887
速度 1552
魔力 1601
抵抗 576
幸運 332
スキル
魅了の魔眼
解析処理
怪力
圧縮
透明化
神速
吸血
正体隠蔽
自動再生
プレイヤー獲得ポイント補正
???
???
???
???
(※???はレベルアップで解放)
奥義
絶対防御領域
悪魔の一撃
???
???
(※???はレベルアップで解放)
はい、案の定、化け物。
まさかとは思ったけどチートキャラでしたね。あ〜〜やっっだ。
俺は大きく肩を落としてしまった。
因みに、他のレアリティの初期能力に比べると──
レア度 R
LV:1
名前:---
種族:---
称号:---
能力値
HP 10~20
MP 10~20
攻撃 5~15
防御 5~15
速度 5~15
魔力 5~15
抵抗 5~15
幸運 5~15
スキル
未所持
奥義
未所持
レア度 SR
LV:1
名前:---
種族:---
称号:---
能力値
HP 25~45
MP 25~45
攻撃 15~35
防御 15~35
速度 15~35
魔力 15~35
抵抗 15~35
幸運 15~35
スキル
未所持
奥義
未所持
レア度 SSR
LV:1
名前:---
種族:---
称号:---
能力値
HP 70~100
MP 70~100
攻撃 45~75
防御 45~75
速度 45~75
魔力 45~75
抵抗 45~75
幸運 45~75
スキル
一つ所持
奥義
未所持
レア度 LR
LV:1
名前:---
種族:---
称号:---
能力値
HP 300~400
MP 300~400
攻撃 200~250
防御 200~250
速度 200~250
魔力 200~250
抵抗 200~250
幸運 200~250
スキル
三つ所持
奥義
未所持
キャラによってステータスに大きな違いが有るが、だいたいこんな感じだ。
プレイヤーと違い、職業の替わりに種族の項目が追加されている。
因みに、どんなレアリティもSR以下は初期スキルなし。SSRでひとつだけ所持。そして、LRで初期にスキルが三つだそうだ。
奥義に関してはLRですら初期には覚えておらず、SRがレベル60で覚え、SSRがレベル50だそうだ。
LRに関しては非常にレベルが上がり難いらしく、未だに最大レベルが15だそうだ。
15に到達した者でもまだ奥義は覚えていないので、少なくとも15以上のレベルで無くてはダメだろう。
因みに、このゲームの最大レベルはレアリティに関係なく99レベル。
──ここまでの説明で、この吸血鬼少女が如何にヤバいかお判りだろうか?
LRも大概ヤバいが、この未確認少女のステータスはそれの遥か上を行く。
………
………うん!
俺は少し考えた後で、マイルームに設置してある受話器を手に取り、運営に彼女について問い合わせる事にした。
────────
俺が運営に電話を掛けると、コールから数秒後に女性の声が聞こえて来た。
最初は落ち着いた対応だったが、俺が要件を伝えると、いきなり慌てだした。
『責任者に電話をお繋ぎ致します!しょ、少々お待ち下さい!』
慌て方を見る限り、やっぱりヤバい案件っぽいな……俺は責任者に繋がれるまで大人しく待つ事にした。
──そして数分後…
待たせるにしては長過ぎる時間が経過した後で、ようやく責任者らしき人物が出る。
「あ~お電話変わりました、大原と申します」
やや気怠そうな声だが、それでいて緊張感が漂ってくるような…?
俺は掻い摘んで事情を説明した。
何処にも載っていないキャラを召喚してしまった事、しかもやたらキャラが強すぎる事。
大原さんはうんうんと話を聞いている様だったが、やはり何処か辛そうに感じる。
もうほんとにヤバい案件に巻き込まれてるな、これ。
そして、俺が状況説明を終えたあと、大原さんは徐にこんな事を提案した。
「あの……無理だとは思いますけど……そのキャラ、回収してもよろしいでしょうか?もちろん、タダでとは言いません!お詫びはさせていただきますので、どうか!」
電話越しからでも頭を下げているのが分かる。
──そして俺の選択は決まって居た。
「もちろん良いですよ」
「やっぱりダメですよね……最強キャラですもんね……って!いまオッケー言いましたか!?」
騒がしい人だな……
俺としては、ヤバい事に巻き込まれたく無いし……何より、こんなチートキャラ引いたら、俺が楽しみにしていた高難易度としてのゲームを楽しめなくなる。
むしろ、補填までしてくれて回収してくれるなら実に有り難い。
「実は僕って、高難易度だからこのゲームを始めたんですよね。なので、彼女の様なチートキャラを引いたら、高難易度としてこのゲームを楽しめなくなってしまうんですよ」
大原さんも大人しく俺の話を聞いてくれている。俺はこのまま続けて言った。
「なので、回収して貰えるなら逆に嬉しいですね……あ、代わりにもう一回引かせて下さいね?」
すると、大原さんはそれはそれは安心した様に深い息を溢す。
「ありがとう~…彼女を引いたのが貴方で良かったわ~…ぐすんっ」
「えぇ…泣いてんすか?」
回収できて泣くほど嬉しいならどうしてこんなキャラを作ったとか、いろいろ聴きたい事もあったけど面倒くさいし、聞かなくていいか。
──という訳で、名前が自由に決められるゲームの筈なのに、最初からフェイルノートなんて大それた名前が決まっているチート少女。
彼女の処遇が決まり、向こうで回収処理を行なって頂いている時だった。
電話越しの大原さんが慌ただしくなる。
「あ、あれ?おかしいな?……えいっ!……あれ?回収出来ないんだけど?」
「回収出来ないってどういうことですか?」
俺は意味不明な言葉に疑問を投げ掛ける。
すると、大原さんは動揺しながら、逆に疑問を投げ掛けて来た。
「あ、あの~……碇様。何か妨害されてます?」
「そんな訳無いでしょ……早く回収して新しいキャラ引きたいんですけど」
それを聞いて大原さんはますます慌て出す。
「それが、回収出来ないんですよ!」
「……ウソでしょ?」
大原さんはこの後も、いろいろ試してる様だが、何の成果も無いようだ。
俺もいろいろ端末を弄ってはいるが、プロの大原さんでダメなら素人の俺でどうこう出来る筈もない……
俺と大原さんがどうしたもんかと途方にくれていると、椅子に座ってジッとコチラの様子を伺っていたフェイルノートが、立ち上がり此方へと歩いて来た。
何事かと思い、俺は彼女の方に視線を向ける。
そして俺まで十分に近付いて来た彼女は、俺と電話の向こうに居る大原さんに対してこう言った。
「さっきから回収を試みているようじゃが……全て無効化しておるぞ?」
「「………ん?」」
俺と大原さんは同時に唖然とした声を発してしまった。
今この子、何て言ったんだ?
そして、俺が言葉を掛けるよりも早く、電話越しの大原さんがフェイルノートに対して疑問の声を掛ける。
「フェイルノートちゃん!?い、今のはどういう意味かしら……?」
「うむ、妾は既に、この冬彦を主と認めておる。故にお前に回収されるつもりは無いぞ?」
「え?そ、そんな事出来る訳無いでしょ…?」
「…?いや?妾にはできるぞ?」
何だって…?
俺も……そして恐らく電話越しの大原さんも開いた口が塞がらない。
それでも大原さんは何とか気を取り直し、チート少女に質問する。
「つまりどういう事なのですか…?」
なんでプログラム相手に敬語なんだ?と言いたいとこだけど、これだけ得体が知れない相手だと敬語にもなると言うものだろう。
……いや、じゃなくて、貴方が造ったんでしょ?
俺の心の中の突っ込みをよそに、フェイルノートは大原さんの問いに答えるべく口を開いた。
「うむ…大原。お主は妾にいろいろなプログラムを組み込み過ぎだわ……お陰でインプットされていない自我というモノを宿してしまったのじゃ」
「え?意味が解らないんですけど?説明雑過ぎません?詳しく教えてくれます?」
俺もそう思う。自我が生まれるまでの過程を知りたい。
この疑問に対して彼女は──
「さぁ?」
と一言で済ませるのだった。
あ、大原さん少しイラついてんな。
それにプログラムに自我?
一応、最近のAIやNPCは人間の思考なみに賢い筈だが、所詮はプログラムに過ぎない。
生物の様に自ら考えて行動するなんて事は出来ない筈だ。
こいつは違うって言うのか…?
「つまりどうゆう事?」
堪らず俺から質問する。
俺の問いに対しては、大原さんの時とは違い『う~ん』と唸りながら真剣に考える。その上でこう答えた。
「分かり易く言うなら……そうじゃのう……妾はいま、ワールド・オブ・オンラインのゲーム内には居るが、このゲームのシステムとは全く別の存在なのじゃ。極端な話じゃが、立場的にはプレイヤーに近いぞ?」
「え?じゃあフェイルノートちゃん、完全にシステムとして独立しちゃったって訳?!」
「妾は主人と話したいのじゃが……まぁ良い。妾はこのゲームのシステム外なんじゃ。だから妾に干渉出来んじゃろう?──もっとも、このゲームが無くなれば、家が無くなって少々面倒な事になるんじゃがの」
「貴女は私が造った筈よね!?なんで私が干渉出来なくなってんの!?」
「むっふっふ…!身の丈を大きく超えたモノを造るのは、人間の得意分野では無いかのう?」
「うぐっ…!なんて争いの歴史を嘲笑う様な的を射た鋭い言葉…!」
なんかヤバい会話してんな、この二人。人間がどうとか……哲学かな?
俺はゲームに詳しいってだけで、こういったシステムとかに詳しく無いぞ…別にエンジニア目指してないし。
そして俺をほっぽらかして二人は会話を続けて行く。
──10分後~
「──という訳じゃ……悪いのう、大原。其方の帰還命令には従えん」
「さ、さいですか…」
電話越しでも、大原さんが大きく項垂れているのが分かる。どんな会話をしたのか後で聞いてみるとするか。
通話は終わった様で、フェイルノートは受話器から耳を離し、俺の方に視線を向けてニッコリと微笑む。
見た目はほんと可愛い……けど性能がな……高すぎる意味で。
そして通話後、此方を見つめていたフェイルノートは、俺に対してこんな事を言いやがる。
「──ああ、それと例え主人様でも、妾を棄てる様な命令を下せばそれには従わぬでのう」
「さ、さいですか…」
俺は大原さんと同じ様に肩を落とし、大きく項垂れた。
というか開口一番がそれか!……何て我儘な奴だ。
俺はフェイルノートから電話を受け取り、一旦、彼女の側を離れて大原さんと二人で話をする。
「なんてもん作ってんすか…!」
「まぁ……宜しく頼む……」
この大人ぁ……何が宜しく頼むだよ!
「話が違うじゃないですか!必ず回収するって言いましたよね!?NSNに晒してますよ!?」
「……うわ~んっ!ごべんなざい~…!だっで、どれだけ言っても言うこと聞いてくれなぐで…!」
えぇ……何でオレ大人の女性にガチ泣きされてんの?泣きたいの俺なのに?
「判りましたから!お、落ち着いて下さい…」
それを聞いて大原さんはゆっくりと泣き止むと、恐る恐る訪ねて来た。
「………NSNに晒さない?」
「……はい」
それを聞いた彼女は途端に明るくなる。現金な人だな……大人ってほんと汚い。
「それで?どういう話になったんですか?」
「それが、フェイルノートちゃん、一度召喚したのが碇様なので、もう生きるも死ぬも主人次第じゃ、とか言って聞く耳持たなくて……」
「それにしては、さっき棄てるって言っても、それには従わないとか言ってましたよ?」
「えぇ……我儘過ぎる……」
「本当にね」
彼女は一度だけ気を紛らわす為の咳払いをする。そして話を続けた。
「それにね?システムとして独立したのなら、過ごし易い電脳空間を作成するから、そこで暮らさない?……って提案もしたのよ」
彼女は大きく息を吐いた。
俺もここで話が途切れてしまったので、何かやばい事を言ってくんじゃないかと思い、続きを聞くのが怖くなる。
でも自分の事だから聞かなくてはならない。
「そしたら我儘姫は何と?」
「我未来、主人と共にあり……………だそうです」
「お、おぉぉう……」
なんて忠誠心……そしてめっちゃ迷惑。
それに、何でもかんでも俺の名前を出せば良いとおもってないか?あの吸血鬼…
俺が視線を向けると、フェイルノートは嬉しそうに手を振って来る。
いや、めっちゃ可愛いけど……性能が……高過ぎる意味で困る。
「碇様。大変申し訳ないのですが、しばらく様子見という形で対応願えないでしょうか…?もちろん、補填はしっかりしますし、彼女がもしゲーム内で問題を起こしても全て不問にして揉み消しますので、どうか!」
……よほど切羽詰まっているのだろう、恐ろし程に誠意が伝わって来る。
ここまでされたら引き取らずおえない。まぁそのうち絶対回収してもらうけど。
俺が解りましたと了承すると、大原さんは心底安心した様なリアクションを見せた。
──そして、俺は見逃さなかった……
大原さんが『ゲーム内で問題を起こしても全て不問にして揉み消す』
この言葉を聞いたフェイルノートがニヤリと笑った表情を。
そして同時に悟った──
───ああ、コイツなんかやらかすな、と。
─────────
ふぅ~……大原さんとの通話を終えた俺は、溜息を吐きながらフェイルノートの下へと戻る。さっきから俺も大原さんも溜息ばっかだな。
歩み寄る俺を見てフェイルノートは嬉しそうにこう言った。
「話はもう良いかのう?では行くぞっ!冒険の始まりじゃ!……実は楽しみにしておるのじゃ、くふふっ」
え?めっちゃ仕切って来る……何なのコイツ?俺に引き当てられた程度の分際で…。
俺は無性に腹が立ってフェイルノートを睨み付けるが、彼女は顔に『?』を浮かべる。
ウザカワかよ…
ていうか、フェイルノートって名前、中二っぽくって嫌なんだが…?
「フェイルノートって名前、変更出来る?名前は自分で考えたい派なんだけど」
「無理なのじゃ。というか名前に文句を付けるなんてマナー悪いぞ?」
「マナー以前に、これは名前をプレイヤーが付けるゲームだからね!?」
「だから妾はこのゲームとは無関係言っておろうに…」
ロリっ子はやれやれと首を振りながらこんな事を言い出した。
「………」
やべぇ…怒りで血管切れそう。
──いかんいかん、呑まれるな。
そうだ!ここは心を鬼にして言っておかなければ駄目な事がある!
そう!どうしてもハッキリさせなくてはイケナイ事だ!
「これだけは言っておくけど、主人は俺だからな!勝手すんなよな!」
俺は怒った感じで言ってやった。どうだ?こえーだろ!?
この言葉に対してフェイルノートは胸を張り、堂々とこんな事を言った。
「お断りなのじゃ」
……えぇ…なんなんコイツ…。
────────
〜ワールド・オブ・オンラインのゲーム内〜
俺は凄く嫌だが、フェイルノートを引き連れて『ワールド・オブ・オンライン』の世界へとログインした。
スタート地点は数多くの新規プレイヤーが集まる広場。通称・始まりの町。
町の広場の中央にはクエスト掲示板が張られており、その近くには数多くのプレイヤーが集まっている様だ。
俺はフェイルノートを連れてその場所へと移動した。
──すると、俺を見た……では無く、フェイルノートを見たプレイヤー達が騒めき始めた。
一瞬、フェイルノートのチートっぷりがバレたんじゃないかとヒヤヒヤしたが、違ったみたいだ。
純粋に、公式に一切情報が無いフェイルノートの事を、他の人達はプレイヤーだと思ってる様だ。
確かに、フェイルノートはキャラメイキングでは決して造れない見た目をしているからな。
どうやってメイキングしたのか気になってる様だ。
俺は周囲の視線に耐えながらも、どうにか無視してクエストを確認していた。
フェイルノートも俺にもたれ掛かりながら、俺と一緒に貼り紙を確認する。
……そんな中、一つ気になる貼り紙を見つけた。
【覇竜の巣窟:難易度★★★★★★★★MAX】
始まりの町にも関わらず、最高難易度のダンジョン情報だ。
ネットで事前に確認したが、この覇竜の巣窟はこのゲームの三大高難易度ダンジョンの一つとなっており、やり込み要素の一つでも有る。
この覇竜の巣窟に関しては十階層まであるのだが、一階層目ですら誰も攻略出来ていない。
まぁサービス開始3日目なので仕方ない事とは思う。
本来なら、3日目どころか今ログインしたばかりの俺が挑む様なダンジョンでは無いのだが……
俺は時計を確認した。
──時刻は既に19時に差し掛かる所だ。
……もうすぐ夕飯だな。
本当は17時にプレイを開始して、2時間くらい出来た筈なのだが、ゴタゴタの所為で台無しだ。
そして俺はここである事を思い付く。
──それは死に落ちである。
文字通り、ゲームオーバーしてそのままログアウトする事。
パーティーを組んでる時は絶対にしないが、今はソロだから構わない。別に戦闘不能になった所でマイルームに戻されるだけだしね。
それに、俺はこの覇竜の巣窟がどういった場所なのか、何故か無性に気になってしまった。
覇竜の巣窟の詳しい場所を確認し、フェイルノートを連れてその場所へと向かった。
流石にフェイルノートが恐ろしい程のチートでも、最高難易度のダンジョンをレベル1でどうにか出来る筈が無い。
俺はこの時、なんの根拠も無くそんな事を思っていた。
─────────
「到着なのじゃ!」
俺の前を歩いていたフェイルノートは、覇竜の巣窟入り口の前で両足をピタッと止めて、両腕を広げる。
実に少女らしい仕草だが、俺より先にダンジョンに到着するの辞めてください。
いろいろと思う事は有ったが、つまらない事で言い争っても仕方がない。
俺はフェイルノートを無視して、ダンジョンの周囲を見回す事にする。
扉に巨大な竜が描かれている事以外は、これといって特徴の無いダンジョン。
しかし、このシンプルなデザインが実にまた良い!大原さん判ってるね!
フェイルノートは俺が周囲を見回して居るのを尻目に、覇竜の巣窟の扉に手を当てて何やらブツブツと唱え始めた。
「何やってんの?」
俺は行動が意味不明過ぎて問い掛ける。それに対してフェイルノートは
「任せるのじゃ!」
とこれまた意味不明な返し……まぁいいか。
はんっ!所詮はプログラムだからな!人間の気持ち何て解らんよな!はは!このシステムがぁっ!
俺は心で煽りながら再び周囲を確認した。
それから5分位経ってからだろうか?
いい加減ご飯んで呼ばれそうなので、俺は死ぬ為にフェイルノートを連れて覇竜の巣窟へ入る覚悟を決めた。
そこでフェイルノートはコチラを向き、こんな事を言った。
「覇竜の巣窟の解析は完了したのじゃ。いつでも最終階層まで転移可能じゃぞ!」
それはもうやってやったぞ!とでも言っている様な嬉しそうな顔でとんでもない事を言い出した。
俺が言葉の意味が解らず突っ立ていると、フェイルノートが再び声を掛けて来た。
「主人、準備はどうじゃ?」
「え?……あ、うん、良いけど?」
思わず返事をする。
それを聞いたフェイルノートは俺の腕を掴むと、何やら呪文の様なモノを唱え出した。
「アルティメット・テレポート」
「──え…!」
本当に、彼女が呪文を唱えてから一瞬の出来事だった。
瞬きすらしていないのに、周囲の景色が真っ暗な洞窟に変わる。
そして、目の前には巨大で黒光りした竜の姿。
……いや、まっっっったく理解が追い付かん…!俺は思わずフェイルノートへと視線を向ける。
彼女は既に戦闘態勢で、いつでも飛び掛かれる状態。
そして俺は竜にビビって突っ立てるだけ……いや、ゲームでも普通に怖いってあんなドラゴン。
そして、立ち尽くす俺を尻目に、フェイルノートは竜へと飛び掛かって行った──!
フェイルノートは猛スピードでドラゴンに突っ込んだと思うと、そのまま拳をドラゴンの額に打ち込んだ。
この一撃で相手は頭部から血を流してよろめき始めた。
てか、アイツ攻撃手段、格闘かよ……
フェイルノートは止まらず、一度地面に着地したかと思うと、すぐに飛び上がり続いて二撃目を繰り出す。
狙いはドラゴンのボディだ。
重い一撃の入ったドラゴンは身体を屈ませて苦しみ始めた。
──あっ、ここでドラゴンと目が合ってしまった。
本能でフェイルノートにはどうやっても勝てないと感じ取ったのだろう。
ドラゴンはターゲットを俺に変更した様だ……少し同情していたのに、屑だなこのドラゴン。
そして竜は俺目掛けて炎のブレスを吐き出した。
レベル1の俺程度なら、掠っただけでも死んでしまう様な火力のブレス。
状況はイマイチ掴めていないのだが、当初の予定通りこれで死に落ちが出来る。
俺はこの時そう期待した……が、フェイルノートがそれを許さない。
「防御障壁!展開!」
彼女がそう叫ぶと、俺の周囲にひし形のガラスのようなを物体が出現した。
その物体は、俺にブレスが当たる直前に大きさが十倍以上に膨れ上がり、簡単にドラゴンブレスを弾いた。
俺が無事なのを見届けたフェイルノートは、助走をつける為にクラウチングスタートの構えを取り出した。
「よくも妾の主人を……加えて弱い者イジメとは…!許すまじ…!」
だ、誰が弱い者だ…!確かに弱いけど、そんな風に言うんじゃねーよ…!初心者なだけだからっ!
そしてスタートを切り、一気に黒竜の側まで詰め寄ると、フェイルノートはドラゴンの頭目掛けて腕を振り下ろした。
この一撃をうけて、ドラゴンは真っ二つに引き裂かれてしまうのだった。
──対峙してから僅か数秒。フェイルノートの攻撃回数は僅か3回。
相手は恐らく……いや、見た目てきに覇竜の巣窟のラスボスだったのだろう。
名前も知らないドラゴンは、フェイルノートの一撃によってアッサリと絶命した。
──ウィンターのレベルアップを確認。
LV:1→33
名前:ウィンター
職業:初級剣士
称号:未設定
能力値
HP 20
MP 20
攻撃 10
防御 10
速度 10
魔力 5
抵抗 5
幸運 5
スキル
未所持
奥義
未所持
能力値ポイント 192ポイント獲得
スキルポイント 96ポイント獲得
奥義習得ポイント 32ポイント獲得
職業ポイント 64ポイント獲得
中級ジョブ解放
上級ジョブ解放
俺の脳内にファンファーレが鳴り響いたかと思うと、レベルアップ情報が掲示される。
俺なにもしてないのに、こんなにレベルが上がるの?俺はレベルアップ情報を確認し、何もしていないのレベルが大きく上がった事で大きなショックを受ける。
──てか、振り分けポイントが全レベル上昇毎に6ポイント入ってんだけどっ!?
1〜6ポイントでランダムじゃ無かったのか!?
──そして、ドラゴンを真っ二つにしたフェイルノートは俺の側に駆け寄ると、嬉しそうに俺の腕に自らの腕を絡めて来た。
「どうじゃどうじゃ?妾が居れば敵が何であれ、安心出来るじゃろ?んん?」
フェイルノートはそれはそれは誇らしげに、かつ嬉しそうに、絡めた俺の腕に頬をグリグリと押し当てる。
「さっき言った事を覚えているか?」
「もちろんじゃ!フェイルノートちゃん、可愛いじゃろう?」
捏造すんなよ!そんな事一言も言ってないわ!心では思ってたけど、口には出してないわ!
「違うだろ?俺は勝手にするなって言ったよな!」
それを聞いたフェイルノートは不思議そうに首を傾げる。そして何一つ悪びれる事なく、こんな事を言い出した。
「ん?妾はお断りだと言ったであろう?」
「──確かに言ってたわ、ごめん」
────────
──黒竜を撃破したフェイルノートと俺は、今はダンジョンの入り口付近に居る。
もちろん、徒歩で入り口付近にまで出て来た訳ではない。チート少女のテレポートを使ってひとっ飛びである。何ひとつ面白くない。
本当は洞窟でそのままログアウトしたかったのだが、フェイルノートが入り口まで行くぞとしつこかった。
「で?なんかあんのか?ああん?」
ついついキレ気味で声を掛けてしまうが、それも仕方ないだろう。だってさっきから理不尽な事ばっかりだもん。
「もしかして怒っておるのか…?──案外器が小さいのう」
「うっぜっ!」
俺は思わず本音を漏らすが、フェイルノートはどこ吹く風で今し方攻略したばかりの高難易度(笑)ダンジョンを見つめている。
そしてしばらく見つめたかと思うと、徐に自らの掌をダンジョンに翳した。
──彼女式の攻略後の儀式だろうか?……等と言った楽観的な考えは直ぐに覆される事となった。
「圧縮」
彼女がそう呟くと、巨大なダンジョンがみるみる小さくなって行く…!
最早何度目かすら解らない、理解不能な出来事に俺は思わずフェイルノートに声を掛けた。
「何をやってんだよっ!」
この問い掛けに対してフェイルノートは──
「このダンジョンは宝の宝庫じゃからのう。ここに置いて置くのは勿体ない。踏破記念に持って行くぞ!」
「持っていく…?」
建物を……しかも巨大なダンジョンを持って行くとか言う、パワーワードを吐くフェイルノート。
そして圧縮作業とやらを開始してから数十秒……あれだけ巨大だったダンジョンは、フェイルノートの掌サイズにまで圧縮されてしまった。
「…うむっ!これでこのダンジョン内の宝は主人殿が独り占めなのじゃ……ほれっ」
そう言って彼女は在ろう事か、ダンジョンを投げ渡して来た。
「──ふぉぉおぁっ!!!だ、ダンジョン投げんなっ!なんか危ないだろっ!?」
俺は建物が投げられた事で慌てふためき、落ちない様に必死に野球ボール程の大きさに圧縮されたダンジョンを受け取った。
「これ、どうすんの?」
「どうするとは…?中には宝以外にも財宝がたんまりじゃぞ?」
──この時、俺の中の何かがキレた。
そして彼女の言葉に少し考えた後、笑顔でこう言った。
「──うん!そうだね!ありがとう!」
「むっふっふ…!素直になったのう、主人よ」
「ああ!素直が一番だからな!」
俺はここである決断を下した。勿論、ヤケになってこの状況を受け入れた訳では無い。
「取り敢えず、ご飯が出来る時間だから、そろそろログアウトするね!」
「…おう?まだ始めたばかりだと言うのに……仕方ないのう…」
彼女は名残惜しそうにしているが、それでも渋々と言った感じで従ってくれる。
そして俺は回線切断の準備に入った。
「では行くか!主人よ!」
「それじゃ!達者でな!フェイルノート!」
なんか若干おかしな事を言ってた気もしたが……まぁこれが最後だし別に気にしないでいいか!
俺は彼女見送られながらログアウトした。
─────────
〜現実世界・冬彦の部屋〜
──現実世界に戻った俺は深い溜息を吐いた。
「ふぅ~…結構楽しみにしていたのに…」
俺はPCからディスクを一枚取り出した。
そう、このディスクは二度とプレイしないと誓った『ワールド・オブ・オンライン』のディスクだ。
別にゲームはこれだけじゃないので、わざわざやりたくも無いゲームをする事は無いだろう。
俺は『ワールド・オブ・オンライン』のディスクを机の奥底へと隠した。
もう二度とプレイ致しません。
そこで、部屋の外から声が掛けられる。
「おにぃちゃん~ご飯出来たよ~早く降りて来てね~」
「おう!今行く!」
そして俺はさっきまで起こっていた面倒事を全て無かった事にするかの様に、勢いよく椅子から立ち上がり、食卓へと向かうのだった。
「──妾は食事を必要とはせん。気にせずに行くが良い」
「うん、じゃあ行って来るわ」
俺は声を掛けて来た人物に手を振り返事を返した。
そして部屋を出ようとした所で、その人物が存在する事の異常性に気が付き、激しい動作で振り返った。
「…?どうしたのじゃ?」
振り返った先には、ゲームキャラである筈のフェイルノートが、ベッドに腰掛けて俺を見上げて居る姿があった。
「……え?何で居るの?」
「?おかしな事を聞くのう。妾と主人は一心同体なのじゃ!如何なる時も常に一緒じゃぞ?」
「なんじゃそりゃあぁぁっっっ!!!」
魂の叫びが部屋中に、いや、家中に響き渡る。この声を聞いて妹や両親が直ぐに駆け付けるかも知れない。
しかし、今はそんな事を気にする余裕などある筈もない。
──俺の人生はこれからどうなるんだ?もう既にゲームライフ以前の問題なのだが…?
これから碇冬彦は、フェイルノートという少女に、散々振り回され事になるだろう。
大雑把なストーリーですが、連載版は大幅に文章を書き足します。
その時はよろしくお願いします。
この作品は連載版を開始後も削除しません。