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天翔ける宇宙の旅

作者: 初桜沙莉

東方の蓮台野夜行をブックレット読みながら聴いていたらどうしても書きたくなってしまった。後悔はしていない。(注:東方の世界観とは関係ありません)

私は楽曲は作れないんですが(汗)、もし作るならこんなタイトルがいいなってのを【おしながき】にしてみました。こんな曲かな?っていうのを想像しながら読んでもらえると幸いです。


【おしながき】

1.天翔ける宇宙の旅

2.空は紅に、地は白に

3.揺れる陽炎〜From Itoshima

4.北の島のサトウキビ畑

5.永久に続く熱力

6.価値ある大地

7.未充足のエモーショナル

8.創造性の空の下で

9.アリスのちいさな日常

 福岡県糸島市。

 アジアの玄関口にして、今や西日本唯一の大都市になった福岡市から、西へ三十キロの場所にある街だ。

 緑で覆われたこの街に、ひときわ目立つ五本の紅白の柱がある。

 糸島市の目印、糸島宇宙空港の発射ゲートだ。




「おぉー」

「あれが宇宙空港ね」




 百戸瀬アリスと甘宮ミナは、電車の窓の向こうに見えてきた発射ゲートに心を躍らせていた。

 二人の乗っている電車は、糸島ライトレール。

 糸島宇宙空港の開港に伴い新設されたJR線だ。

 福岡市営地下鉄、筑肥線、糸島ライトレールを乗り継ぐことで、博多駅から糸島宇宙空港駅を45分で結ぶ。




「ねぇ知ってる?ここって昔は田んぼと森と古墳しかなかったんだってよー」

「しかなかったって……今もここは緑ふさふさだよ?」

「地上は、ね」




 ここ三十年で日本の気候は急速に亜熱帯化していた。特に、夏場は気温の上昇が激しく、最低でも三十度、最高は四十五度にもなる。

 そのため、日本人は地上で暮らすことを諦めた。地下を掘り進め、そこに地下都市を築いて暮らし始めたのだ。

 ここ糸島市も、地上はサトウキビなどの亜熱帯性の植物によって緑化されているが、地下には五層にも及ぶ大都市が築かれている。




「人類は自己チューなのよ。住めなくなったらその場所を捨てて、地中に、宇宙に逃げていくんだもの」

「あはは。確かに自己チューかもねー。でも地下都市化したのはここ五年の話じゃないっけ」

「まーね。吸震性マテリアルなんて都合のいいものが宇宙に転がってて、それを前田プロジェクトチームが見つけて持って帰ったおかげね」




 吸震性マテリアル。

 それは、地球と火星の間にある小惑星「オオモリ」で見つけられた新種の鉱石だった。液体と固体の中間のような性質を持つこの鉱石は、あらゆる振動を吸収することに長けていた。

 原来、地震の多いことで知られていた日本だったが、この吸震性マテリアルの発見によって、地震は災害から自然現象に成り下がった。同時に、地下都市の形成に大きく関わったのだ。




「吸震性マテリアルだけじゃない。エネルギー、食料、衣類、建造物……。人類科学は宇宙からの贈り物で進歩を遂げたわ」

「教科書でみたみた。昔は真剣にエネルギーが枯渇するーって言われてたんでしょー」

「まぁ枯渇詐欺とも言われてたけどねー。結局七十年前も、五十年前も、三十年前も、同じようなことは言われてたけど、枯渇はしなかったからね。でも、永久機関の完成で本当にエネルギー問題は無くなったね」




 永久機関。

 それは三十年前、二十年前までは、夢のような代物だった。

 エネルギーの変換。

 還元。

 再変換。

 エネルギーロスなしに無限にエネルギーを取り出せる代物など、その当時はなかったからだ。石油や天然ガスを燃料とする火力発電ですら、変換率は七割程度だった。

 しかし、火星の内部で見つけられた可逆性高水分子という特殊な水の発見が、永久機関を可能にした。

 その結果、人類は無限にエネルギーを取り出すことができるようになり、エネルギー問題は解決した。

 それだけではない。

 エネルギー問題の解決によって、水や食料、電気などを安定的に供給できるようになったため、世界から戦争は撲滅された。


 戦争の原因とは限られた資源の奪い合いであるからだ。

 資源が無限にあるのなら、奪い合うことにもはや価値など無い。




「宇宙は夢いっぱい。あー早く私も宇宙に行きたいなぁ」

「億万長者か技術者か被験者にならない限り無理だね」

「うへぇ」


 スプートニクが地球を眺め、アポロが月に降り立ったことから始まった宇宙開発。アメリカ合衆国とソビエト連邦というもはや過去の超大国が覇を競うような形で始められた宇宙開発。

 それからあと二十年かそこらで一世紀が経過しようとしている。

 人類は月、小惑星帯、火星、そして太陽系外惑星へと、着々と宇宙開拓を進めていた。

 宇宙での新資源発見→地球文明の飛躍的進歩→更なる宇宙進出、というサイクルを繰り返し、最先端技術はついに地球物理学の外へと脱出した。

 宇宙に進出したのは、財力、技術力、人脈がある大富豪、その下に集う最先端の技術者、地球文明と宇宙文明の双方を探求する科学者、そして、人権を放棄する代わりに、宇宙の果てを見ることが許された被験者たち。

 その数は地球人口のおよそ10%にも満たない。


「被験者はやだなぁ。いくらクマムシのような蘇生技術や仮死技術があるからってコキ使われたくはないよ」

「私も被験者にはなりたくないよ。どんなに価値を積まれてもね」

「意外。アリスなら喜び勇んで応募しそうなのにー」

「あら、そう見える?」

「うんー」

「宇宙はねー、興味はあるけど探求したいとは思わないんだよね、私」




 永久機関が完成し、無限のエネルギーを手に入れた人類。しかしそれは物質的豊かさを獲得せんとあがいてきた人類にとって、一つの到達点であり、終着点だった。

 物質的豊かさを手に入れた人類が次に目標に定めたのは──精神的豊かさ。具体的には、宇宙の開拓と、宇宙文明の捜索、そして人類、いや、生命の起源の探求────。

 永久機関が完成してなおも、地球の外へ外へと踏み出していくのは、こうした背景があった。


 満たされること。充足すること。それは、人類にとって退廃を招く毒でしかなかった。

その点宇宙には果てがない。ならば果てなき宇宙を探索せんという発想に人類が至るのは、当然といえば当然だった。



「人間はマグロと一緒。止まったら死ぬの」

「えー、止まったら死ぬの?!」

「例えよ、例え。人間はなにか目標がないと途端に生きる意味を失うの。無力感に包まれるの。だから欲には底がない。底があればとっくに人類は絶滅してるのよ」

「むむむ、難しいなー」

「わからないほうが健全かなぁ。ま、ともかく色々知っちゃうと夢がないでしょ、だから私は行かないのよ」

「映画のネタバレが嫌なタイプだねー」

「なんか違うけど……まぁそんな感じかな」



 電車は緑の中を潜っていく。緑色は黒に塗り替えられる。地下に入ったのだ。「まもなく、糸島宇宙空港です」車内アナウンスが流れる。合成音声は、今日も乱れることなく、到着を告げる。


「ねぇ、宇宙船……ええと、かぐや301号ね。コレの出発を見届けたら、お土産をなにか買いましょう?」

「令和もちなんてどうー?モンドセレクション金賞受賞した話題作ー」

「令和もちね」

「それとも火星人サブレにするー?」

「それは嫌」

「えー」



 アリスは思う。

 この何気ない友人との日常という小さな幸せの積み重ねのほうが────果てなき宇宙の旅よりも何倍も価値があることを。

では、また次の作品で会いましょう。

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