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ギルド嬢をやめさせられたので、個人商店で頂点を目指します  作者: るるっくす
別れ、そして出会い
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カロ婆

冒険者の職業には、重戦士・狩人・守護者・召喚士・魔導士の5つがあるが、この中でも召喚士と魔導士はかなりレアな職種である。


重戦士は冒険者が最も多い職種で、戦いにおいて主力となる職種でもある。一般的には剣と盾を装備するが、中には槍や双剣などを装備するものもいる。


守護者は、戦いにおいてタンクのような役割を果たす。大楯を装備し、主戦力となる重戦士を守る役割を果たす。地味でけがをしやすい職種なので、冒険者からは嫌われる職種でもある。


狩人は、戦闘時、遠距離攻撃で戦いをサポートする役目である。また戦闘を全体で俯瞰し、指示を行う役目を担っている場合も多い。戦闘時以外でも索敵や、自然物の発見など、その役割は多岐にわたる。


召喚士は、己が契約を結んだ召喚獣によって戦いをする者のことだが、そもそも契約を結ぶ行為はかなり危険で、熟練の冒険者でも難しい。また、召喚獣を使うとその間は身動きが取れなくなるため、危険にさらされやすいのだ。その代わり何体もの召喚獣と契約を結んでいるものは、自分一人で軍団を形成することもできるというメリットもある。


そして魔導士、これは全ての職種の中で最も数が少ない。というのも、魔導士は努力ではなく才能が必要な職種だからだ。人は生まれた時点で自分の持っている魔力量は決まっている。それを測定する方法はないが、魔法を使うときは詠唱をして、自分の体内にある魔力を用いて行使する(ほとんどの場合は)。そのため、魔法は使うことができるが、魔力切れを起こしてしまうので魔法を戦闘で使用することができないという人が多い。魔力切れになると気絶してしまうからだ。


魔法は基本属性の火・水・風・地の4つと、特殊属性からなる。魔導士となるためには基本属性のほかに特殊属性を身につけなければいけない。そして魔導士の強さは特殊属性の多さによって決まる。ちなみに、スカーレットメシアのシェリアは5つ持っている(と言われている)。また、魔法にもランクがあり、レベル1からレベル7まで存在する。伝説では、その上にあるエクストリームマジックや、レベルの概念から外れるイリーガルマジックもあるというのだが、少なくともアリエは見たことがない。


レベル1の魔法はほとんど生活魔法の範囲で、アリエも使うことができる。戦闘で使用できるのは(使用者の魔力によっても変わるが)レベル4からで、消費魔力も比例して多くなるので、魔導士しか行使することはない。また、レベル7の魔法を行使できるものはほかの能力に関係なく、Sランクと認められる。レベルが上がるにしたがって、詠唱だけでなく体の魔力を用いる感覚が難しくなるからである。


そして、目の前にいる女の子、イリスは、自分は魔導士だといった。こんな子供が魔導士になるなど聞いたことがない。いくら才能が大事とはいえ努力しなくてもいいというわけではなく、若くても30歳から魔導士となるものが多い。


 「えっと・・・何か間違えてない・・・? ほら、基本属性の魔法を使えるだけとか。」


 「い、いえ、特殊属性も持ってます。雷と光を。」


そういうとイリスは手のひらを出して、そっと何かを唱えた。すると、なにか光っている物体が現れた。そしてまたイリスが何かを唱えると、バチバチと言って小さい稲妻が見えた。間違いない、今のが特殊属性の光と雷である。


光と雷は特殊属性の中でもわりとありふれたものなのでアリエでも見たことがある。しかし、まさかこんなに若い子供が魔導士となるとは・・・。


 「でもイリス、装備がいらないってどういうこと? 魔杖とかローブとかは必要なんじゃないの?」


魔法は道具なしでも発動はするが、装備をしていたほうが威力が上がるし効率もよくなる。一般的な魔導士の装備は魔杖やローブなどだが、ほかにもブレスレットやネックレスなどの装備もある。


 「わたし、魔杖をもらってもすぐに壊しちゃうんです・・・。ローブもすぐに破れちゃって・・・。前のご主人様にはそのことですごく怒られました・・・。なのでそのころから装備は付けずに戦闘をしていました。」


 「え、それはモンスターの攻撃を受けたから破れたの?」


 「いえ、魔法を使っただけで破れちゃったんです・・・。」


アリエの疑問は深まる一方だ。リッジモンドは高ランク冒険者なので与えられる装備が劣悪品とは考えづらい(奴隷だと舐めていなければの話だが)。魔導士の装備が使っただけで壊れるという話はアリエは聞いたことがない。


そのため専門家に話を聞くことにした。


 『あんまり行きたくないんだけど、しょうがないかな・・・。』


 「じゃあイリス、あなたの装備から探しに行きましょうか。」


 「え、でも・・・壊しちゃいますよ・・・?」


 「そのことについても聞きに行きましょう。この町で一番の物知りのところにね。」


そういうと、アリエは大通りを外れ、路地に入っていった。イリスはどこに向かっているのか不思議に思いながらアリエについていった。


 「さあ、ここよ。」


10分ほど歩くと、アリエはレンガの壁の前で止まった。イリスは訳が分からず戸惑いの目でアリエを見ていたが、アリエはお構いなしにあるものを探していた。


「あれー確かこの辺なんだけどなあ・・・・・ああ、あった、なんか前より見つけづらくなってるし・・・。」


そういうとアリエはレンガの中の一つを押した。すると、


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・


 「な、なんですかこれ!」


 「これはね、隠し扉になってるの。そしてこの先にお目当ての人がいるんだけど・・・。」


レンガの中、もとい扉の先には、今にも死にそうな老人が椅子に座っていた。


 「おや、珍しいお客さんじゃのう。お前さん、早く次の町に行かなくていいのかえ? ギルドを首になったのじゃろう?」


その顔はアリエを心配しているのではなく明らかに挑発していた。


 「無駄話は十分よ、カロ婆。今日は聞きたいことがあってきたの。」


カロ婆、ダーケルスの裏の世界の元締めのような存在で、その年齢を知るものはいない。かなりきわどい商売をしているものの証拠を出さないため、衛兵も捕まえることはできない。アリエも何度か注意をしに行ったのだが、軽くあしらわれていた。


レンガの入り口はカロ婆お手製の隠し扉で、その存在を知らなければ会うことすらできない。カロ婆はかなり腕の立つ魔導士である。そのため、この程度の仕掛けなど魔法だけで作ることができる。


そしてアリエがカロ婆を訪ねた理由、それはその知見の深さだ。知る人ぞ知るこの町で一番の物知りで、世界各国のことや大昔のことも知っている。その知識があれば、イリスの武器破壊の謎も解き明かしてくれるかもしれないと思ったのだ。


 「知りたいことだって? まあお前さんがこの町からいなくなってくれれば大助かりだから、せめてもの餞別に力を貸してやらんこともない。ただ・・・」


 「じゃあ聞くわね、この子のことなんだけど」


カロ婆の話が終わる前にアリエは質問をしてしまった。すこし不機嫌になったカロ婆だったが、それはたった一瞬の出来事だった。


 「ん、ちょっと待て、お前さんこの娘をどこで拾ってきた!?」


 「どこって・・・奴隷にされてたのを助けてあげたんだけど・・・。」


アリエは、カロ婆のあまりの変わりように驚いた。これほどまでに取り乱した様子のカロ婆は見たことがない。


 「お嬢ちゃん、ちょっと手を見せとくれ!」


 「え、手ですか?」


 「いいから、早く!」


 「ちょっと、あんまり強く当たらないで!この子はまだ奴隷から解放されたばかりなんだから!」


カロ婆は、夢中になってイリスの手のひらを見ていた、それも数分間。その間、イリスは逃げ出したい気持ちにもなったが、老婆とは思えない力で手をつかまれていたので、その場でずっと我慢していた。


 「皇帝一族の忘れ形見か・・・。」


アリエはカロ婆が小声でつぶやいた言葉を聞き逃さなかった。


 「ちょっと、皇帝一族の忘れ形見ってなんなのよ! はやく説明してよ!」


 「いんや、何でもない。お嬢ちゃん、魔導士じゃろう? 魔法を使うと装備が壊れちまうんじゃないかえ?」


 「はい、そうなんです・・・。それでいっつも迷惑をかけてて・・・。」


 「ちと待っておれ。」


そういうと、カロ婆は奥の部屋に行き、一本の魔杖を持ってきた。


 「この杖なら壊れないはず、これを使いんさい。」


 「あ、ありがとうございます・・・。」


カロ婆が持ってきたのは、かなり古そうな見た目の魔杖である。普通の魔杖よりも細く、簡単に折れてしまいそうなものだ。


 「ちょっと、それ本当に折れないの?」


アリエは心配になり聞いてみたが、カロ婆は無視してイリスとの会話を続けた。


 「お嬢ちゃん、一個だけ約束がある。これからの魔導士人生で何回も危険な場面があると思うがね、何があっても魔力切れだけは絶対にしないどおくれ! もし魔力切れになったら周りの人を悲しませることになる、いいかえ?」


 「は、はい、気を付けます・・・。」


 「ちょっと、いい加減に説明してよ!」


 「ほんにお前さんはうるさいのう、大丈夫、この魔杖なら絶対に折れんよ。お前さんに言うことは何も・・・ああ、」


改めてアリエに向き直ったカロ婆は、孫に対するような優しい顔をしていた。


 「お嬢ちゃんを大切にしんさい、それだけじゃ。」


カロ婆のこんな優しい顔は見たことない、きっと訳があるんだ、そう思うアリエだったが、なぜがもう追求できなくなっていた。初めて見る顔に面を食らってしまったのかもしれない。



 「さあ、帰った帰った! わしも暇じゃないんじゃ、さっさと出てっとくれ!」


まだまだ聞きたいことが山ほどあったが、どこにいたのか大男が二人出てきてつまみ出されてしまった。アリエもいつもこうやって追い出されていたのだ。


 「まあ武器が手に入っただけ良しとするか! ねえ、イリス!」


 「はい、ありがとうございました。」


 「うん、じゃあほかのものも買いに行こうか!」


二人が建物から離れていったあと、カロ婆は何十年ぶりかの涙を流していた。


 「まさかこの世でもう一度会えるなんてねえ、いやあの子じゃないことは分かってるんだが・・・。シュテンガー様もなかなか粋なことをしてくださる・・・。これでもう、思い残すことはないね・・・。」


その日、ダーケルスに衝撃が走った。裏の世界を取り仕切っていたカロ婆が急に姿を消したのだ。それを好機と見た衛兵たちがカロ婆の側近を次々と捕まえていき、ダーケルスの裏の世界はほぼ消滅した。アリエとイリスがそのことを知るのはもう少し先の話・・・。




 



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